海で。四人それぞれの想い
香月よう子side
そして、旅行当日。朝八時。
四人は、中央ターミナル駅の改札に集合した。
「特急電車で二時間半か。ちょっとした小旅行だよな」
「四人掛けの席、取れたの?」
「ああ、バッチリ!」
「それなら退屈しないね」
四人は話しながら、予定の特急電車に乗った。
紅羽とお佳。竣とうのっちが隣り合わせで、向かい合って座った。
飲み物とちょっとしたお菓子も買って乗り込んだので、修学旅行よりリラックスして、四人とも話に興じる。
それぞれ、バイトの話や、夏季休暇の過ごし方、また休暇中に出された課題の進捗状況など、話題は尽きない。
そして、十時半に、目的地へと無事着いた。
「ホテルのチェックインは三時だから、駅のロッカーに荷物は預けておこう。不用心だから、お金は最小限だけ持って。水着やタオル忘れるなよ」
そうやって、駅前に広がる海へと四人はやって来た。
「ああ、気持ちいい潮風!」
紅羽が、嬉しそうに言った。
「海の家で着替えようぜ。着替えたら、また四人で落ち合おう」
そうして、海の家の着替え室へと入った。
「ねえ……、お佳。このビキニ、恥ずかしくない?」
着替え終わった紅羽が、自信なさそうにお佳へ言った。
「大丈夫! ちょっと露出が物足りないけど、そのピンクの花柄にふりふりリボンの水着、紅羽に良く似合ってるわ」
「露出、て……」
紅羽は絶句したが、濃紺のセクシー系ビキニに着替えたお佳が太鼓判を押す。
そして、紅羽とお佳は、海パン姿の竣とうのっちに合流した。
「おお! お佳はさすがのナイスバディだな!」
うのっちが、単刀直入に正直な感想を言った。
お佳は、3サイズのメリハリがきいていて、スリムな手脚もすらりと長い。
セクシーな濃紺の水着を堂々と着こなしている。
そんなお佳に隠れるようにして、紅羽が立っている。
「紅羽の水着も可愛いよ」
竣が言った。
紅羽はお佳より3㎝ほど背が低く、無駄な肉はついていないが、胸が小さく、実はそのことを気にしている。
だから、ビキニも露出面積が少なく、リボンのフリルでカバーしている水着を選んだのだ。
「もう! 恥ずかしい……」
紅羽は真っ赤になって、依然、お佳の後ろに隠れている。
「ほらほら。紅羽も恥ずかしがってばかりいないで、泳ぎに行きましょう!」
「だな」
そうして、四人は海に入った。
「わあ。結構、海水温、高いね。冷たくない」
「それに、砂浜も綺麗だな」
「そりゃあ、南の海水浴場で有名なところだからな」
そうやって、四人は、海でのひとときを楽しんだ。
お昼ご飯は、海の家で、おでんを食べた。
「何で、この暑いのに、海の家っておでんが人気なんだろうな」
「海で食べるおでん、てのがいいんでしょ」
和気あいあいと、四人で食べるおでんはすごく美味しかった。
デザートに、アイスクリームも食べた。
「ああ。楽しい! みんなで過ごす海っていいわね」
お佳が、心底嬉しそうに、そう笑った。
その笑顔を見て、竣とうのっちは、この旅行を計画した甲斐があったな、と密かに思っていた。
「紅羽。あっちの岩場の方に行ってみないか?」
竣が、紅羽を誘った。
「うん! 行く」
そうして、自然に紅羽と竣、お佳とうのっちのカップルに別れた。
「すごいね、この岩場」
紅羽が足元に気をつけながら、竣の後を追う。
「紅羽、転ばないようにな」
竣がそう言った矢先に、
「痛っ……!」
「紅羽! どうした?!」
紅羽がうずくまっている。
「足の裏、貝殻で切っちゃったみたい……」
「足、見せて」
「え? い、いい!」
「恥ずかしがってる場合じゃないだろ。甘く見て、破傷風にでもなったら大変だ」
竣は、紅羽を岩場に座らせ、切った右足の裏を見る。
「傷はそれほどでもなさそうだけど、血が出てるな」
竣が呟く。
「早く海の家で処置した方がいいけど、すぐには歩けないだろ? ここで座って、血が止まるのを待とう」
と、竣が言った。
それで、紅羽の隣に竣が座った。
「ごめんね……。迷惑かけて」
紅羽がしゅんとしていると、
「迷惑なんかじゃないさ。それより、傷口痛まないか?」
竣が優しくフォローする。
「うん。思ったほど痛くない」
気丈に紅羽が言った。
血が止まるまでの暫くの間、二人は並んで座り、いつしか無言になっていた。
(どうして、私…… こんなにドキドキするの?)
紅羽が、自分のこれまで感じたことのない感情に戸惑っている。
一方、竣も、ビキニ姿の紅羽が隣にいるのかと思うと、どうしても不純な想いに囚われそうになることに、必死で自分を抑えていた。
(紅羽…… 素直だし、やっぱり可愛いよなあ。
今までオトコがいなかったのが信じられない。
まあ、その点、宇野に感謝しなきゃならないのかな)
などと、竣は感慨にふけっていた。
一方、お佳とうのっち。
「お前、海に来て、肌は焼かないのかよ?」
「焼かないわよ。紫外線はお肌の大敵なのよ。そんなことも知らないの? 顔も体も日焼け止め対策はばっちりよ」
「ちぇ。海で女の子の体にローション塗る、て男のロマンなんだぞ」
「何、馬鹿言ってるの。仮にそうでも、私のボディに、あんたなんかの手、触れさせるもんですか」
「相変わらず、きっついなあ。お前って」
うのっちが苦笑する。
でも、本当に、この旅行にお佳を連れてきて良かったと、うのっちは思う。
(性格はきついけど、根はいい奴だし、どんなオトコがこいつの彼氏になるんだろうな)
うのっちは考える。
(俺じゃダメかな……)
そんなことを一瞬、考えた自分に、うのっちは激しく動揺した。
(俺…… こいつのこと……)
うのっちは、初めてまともに、自分のお佳への感情と向き合っていた。




