海へ旅行に
香月よう子side
「海に行かないか?」
そう提案したのは、竣だった。
駅前のカフェ、皆、バイトのない日に、四人でつるんでいる時だった。
「海? 近くにメリケンパークがあるじゃない」
「そういう近場のしかも泳げない場所じゃなくてさ。こう、海水浴が出来る海。できたら、一泊二日くらいする遠出の旅行」
「いいわね! 四人で海に旅行なんて、凄く楽しそう」
紅羽が目を輝かせて言った。
「でも三人共、バイトはどうする?」
「いざとなったら、なんとでもなるさ」
それで、一気に旅行の話で盛り上がる四人。
「でも、予算ていくらくらいかかるのかしら……」
「大体、このくらいあれば、何かあった時も困らないだろう」
と、竣が平手で五本指を立てた。
「ああ、パソコン買わなくちゃいけないのに……」
紅羽が眉をひそめると、
「せっかくの夏季休暇、バイトで終わるのは味気ないだろ。紅羽は普段も熱心に勉強してるんだし、そのくらい自分へのご褒美だと思うぞ」
と、うのっち。
「そうよ! そうよ。うのっちもたまにはいい事言うじゃない」
「たまには、は、余計だ」
いつものお佳とうのっちのやりとり。
それだけ見れば、花火大会の時のお佳の憔悴ぶりは、微塵も感じられない。
しかし、そもそもこの旅行を提案したのは、誰であろう、お佳の為だった。
ひと夏の良い想い出が出来れば、その間だけでも、お佳は大地の事を考えずに済むだろう。
それは、先日、竣とうのっちが二人で密かに考えたアイデアだった。
また、それとは別に、紅羽と竣の仲をもう少し接近させてやりたい。
旅行、という非日常を体験したら、ロマンティックな海辺で、この二人の仲も少しは進展するだろう。
黙っているが、うのっちはそう考えていた。
「……じゃあ、今から俺が宿と切符取るから、二日後。中央ターミナル駅改札、八時集合な」
と、竣が言った。
三人が頷く。
「ねえ、紅羽。これから新しい水着買いにいこ!」
「み、水着?!」
「そうよ。どうせ紅羽のことだから、スクール水着しか持ってないでしょ」
お佳は、したり顔で言う。
「……ま。それはそれで、いいと思うぞ」
ぼそっと呟いたうのっちの言葉を、お佳は聞き逃さない。
「もうやーね! うのっちは。マニアックなんだから!」
「マ、マニアック?」
「ああ。紅羽はわからなくていいことよ」
このやりとりで、場の空気が少し微妙になった。
しかし、お佳は気にすることなく、紅羽に言った。
「こうなったら、善は急げ。紅羽、今から百貨店に水着買いにいこ!」
「え、うんうん……」
ノリノリのお佳に、紅羽が反対する理由もない。
紅羽は、お佳に従って、席を立った。
(水着、て、どんなんだろう……
やっぱりビキニかな。ううん、私にはセパレーツが精一杯!)
意気揚々としているお佳に対し、紅羽は若干の不安を胸に抱え、お佳と一緒にカフェを出た。




