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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
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無力な夜

香月よう子side

 その時。


 ハッと一瞬、お佳が固まった。


「佳ちゃん」


「大地さん……」


 そこには、「GAP」の白いTシャツに脚の長いウオッシュグレージーンズ姿の大地が、横に女の子を連れていた。


「大地。この方、どなた?」

 やはり浴衣姿のそれは可愛い女の子が、大地を見上げながら、言った。

「ああ、「デジャヴュ」の後輩だよ」

 落ち着いて、大地が答える。


「お佳!」

 その時、うのっちが大声で叫び、後ろに走り出したお佳の後を追った。


 人混みの中、闇雲にお佳が走る。

「おい! 待てよ」

 ようやく、うのっちが追い付いて、お佳の後ろ手を掴んだ。


 前を向かせたお佳は、うのっちには顔を背ける。

 しかし、明らかにお佳は泣いていた。


「今のが、片想いの相手かよ……」

「うるさい」

 お佳が泣きながらも、気丈に振る舞う。


「私。……帰る」

 うのっちの手を振り切ると、お佳は一人で駅へと向かい、帰りの電車に乗った。

 うのっちは、黙ってお佳の後を1メートルほどの距離を置いて、追った。


「どこまでついてくるのよ」

 電車で中央ターミナル駅に行き、そこからバスに乗って、停留所に降り立ったお佳が、うのっちに背をむせたまま、そう言った。

「お前がマンションに帰りつくまで」

「余計なお世話よ」

「そうもいかないだろう。こんな夜更けに」

「家くらい一人で帰れるわ」

 そう言ってお佳は、マンションへと歩き始めた。

 やはり、うのっちは黙って、お佳の後を追う。


 お佳の住むマンション「ハイグレード江南(こうなん)」へは、徒歩二分で着いた。


「あんたって……」

お佳が、初めてうのっちに向かい合い、そう呟いた。


「もう大丈夫か?」

 うのっちがいたわりの言葉をかける。


 それには答えなかったお佳だが、

「お茶くらい出すわ。寄って行きなさいよ」

と、言った。

「え? お前の部屋にかよ?!」

 うのっちは意外な展開に動揺したが、黙ってお佳の住む303号室へと入った。


(やっぱ、お佳の部屋は違うなあ)


 そう思いながら、うのっちは部屋の中央のテーブルの前に、座った。


 ロフト付きの八畳1DK。

 学生の一人住まいにしては広く贅沢なその部屋は、シングルベッドとテーブル、本棚以外は、ウオークインクローゼットがあり、よく整理整頓されている。

 勿論、掃除も行き届いていた。


 お佳は無言でうのっちの前に、水滴のついた涼し気なガラスのコップに注いだ挽きたてのアイスコーヒーと、お佳お手製のコーヒーゼリーを置いた。


「ありがとよ」

 うのっちは礼を言い、アイスコーヒーに口をつける。

 それは、程良い酸味がきいていて、美味しい。

コーヒーゼリーはブラックで、メロディアンミニのミルクをかけて食べると、やはり美味しかった。


しかし、お佳は口を開かない。

 アイスコーヒーには口をつけたが、コーヒーゼリーには手つかずだ。


「お前もさあ。いい加減、吹っ切れよ」

「それができたら、悩まないわよ!」

 お佳の言うことは、もっともだ。


「あいつのどこがそんなにいいんだよ」

「全部」

「全部、て……」

 うのっちは絶句する。

 ちらりと見ただけの大地を思い返す。

 確かに長身・イケメンで、大学も(りつ)(きよう)なら文句はないだろう。


 でも、うのっちは、お佳に早く立ち直って欲しいと思う。


「お佳……」

 お佳がまた泣き出したのだ。

 声を殺して、ただ下を向いて、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちる。


 どうしたら、いつになったら、お佳は大地への恋を「過去」にしてしまえるのだろう。


 紅羽も、竣と自分たちも「励ます会」をやり、その時は明るい顔をしたお佳だが、大地との失恋の傷口は見えないだけで、ざっくりとお佳の心を切り裂いていることに、うのっちは気付いた。


そして、その時。


 初めてお佳を抱きしめてやりたい想いに、うのっちは駆られた。

 

 しかし、そんなことをしても無意味だ。

 下手をすれば、益々お佳を傷つけるだけだろう。


 うのっちは、自分の無力さを思い知るだけの夜だった。




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