竣とうのっちの男子会
香月よう子side
夏季休暇も半ばに入ったある夕方。
鳴治館大学から徒歩十二分。
学生向けマンション「大和ハイツ」104号室。
「ここだな」
竣が、インターホンを押した。
『はい?』
「俺だよ」
『竣か。ちょっと待てよ』
そうして、ドアから顔を出したのは、うのっち。
「まあ、上がれよ」
「おお」
竣は、六畳1Kのうのっちの住む部屋へと入った。
「お前なあ。いくら男の一人暮らしでも、これは酷いと思うぞ」
部屋の中を一見した竣の感想。
狭い部屋中に、本や衣類が散乱している。
「ああ、気にするな。女を連れ込むような真似はしないから」
「とりま、これだけ買ってきた」
竣は、部屋の中央のテーブルに、コンビニで買ってきた差し入れを取り出した。
「おお! 助かるぜ」
それは、夕食用に「冷やし中華」二人分。1.5リットル「コーラ」に「爽健美茶」。つまみに、「ポテチ」などのスナック菓子。
そして、うのっちから頼まれていた「ボディシャンプー」と「ボックスティッシュ」。
「お前、コンビニでこんなもん買うなよ。せっかくのバイト代が台無しだろ」
「う…、わかってるよ! でも、本当、近頃のコンビニて、何でも揃ってるだろ」
と、うのっち。
「とりあえず、飯食おうぜ」
「ああ」
そして二人は、竣の買ってきた冷やし中華を食べた。
「バイトどうだよ?」
「引っ越しのバイトな。あれ、時給は高いけど、やっぱ、堪えるぜ。このくそ暑い中、力仕事だからな。お前こそ本屋のバイト、どうなんだ?」
「ああ、好きな本でやってるから、苦にはならないけど、これも結構な力仕事だぜ。学生バイトはそうゆうの、やらされるからな」
二人は、食べながらも会話が弾む。
「……で、小田絵梨華。どうなったんだよ?」
「ああ、きっぱり拒否った。俺の好みじゃない」
あっさりとそう返答した竣に、
「お前の好みは、紅羽だもんな」
と、うのっちが茶化す。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ。……高校時代、お前と紅羽って、どういう関係だったんだよ?」
竣が、生真面目にそう問うた。
「ああ。ただの昔なじみのクラスメートだよ。お前が勘繰るような仲じゃねぇ」
「でも、お前が紅羽に、虫がつかないよう目を光らせてたんだろ」
「ま、紅羽はああいうタイプだから、周りからは「高嶺の花」扱いされてたけどな」
答えるうのっち。
「お前だって好きなんだろ? 紅羽のこと」
そのストレートな竣の問いに、
「好きだよ」
と、うのっちはさらりと答えた。
「俺達、ライバル同士てことか?」
竣のその問いに、
「俺はお前のライバルにはならねーよ」
「どうしてだよ?」
「お前の方が、紅羽に相応しいからな」
と、うのっちは言った。
「どういう意味だよ」
訝しむ竣に、
「俺は、紅羽に幸せになって欲しい。それだけだよ」
そう、うのっちは、答えた。
いつもお茶らけているうのっちが、その時だけは真剣な顔をしていることに、竣は気付いた。
(俺よりも、こいつの想いの方が深いのかもしれない)
初めて竣が、紅羽に対するうのっちの想いを受け止めた瞬間だった。
しかし、竣は言った。
「お前、お佳のことはどう思ってるんだ?」
竣のその問いに、うのっちはむせる。
「なんで、ここであいつの話が出てくるんだよ?」
ごくごくと爽健美茶を飲みながら、うのっち。
「いや。普段から、案外いい組み合わせかも、と思ってるからさ」
「はあ? あいつもそれこそ「高嶺の花」だろ。第一、あいつ本人が、俺の事なんか気にも留めてないだろ」
「そうでもないかもしれないぜ?」
「何でだよ」
「あいつのじゃじゃ馬をいなせるのは、お前くらいのもんだろ」
「そうかあ? 紅羽並みの美人で、いいとこの「お嬢」のあいつがだぜ。俺なんかに目をくれるかよ」
「お前は、自己評価が低すぎ」
「お前が言うなよ」
そうして、男同士の友情の夕べは更けていくのだった。




