表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
38/160

涙の笑顔

香月よう子side

それから、三日後の午前十時四十五分。

 中央ターミナル駅の東口に、お佳は立っていた。


「この暑いのに……こんな時間に来いだなんて、全く何なのよ」

 日差しをよけながら、お佳がブツブツと一人文句を言っている時、


「君! 一人?」

 振り向くと、大学生らしき男二人が立っていた。


「誰かと待ち合わせ? 俺らも二人連れなんだよね。どう? これから一緒にドライブ」


 お佳は一見して、顔を背けた。


 胸をはだけた派手なアロハ調の赤いシャツに、およそ似合っていないローライズのパンツ。

偏差値をどうこう言うつもりはないが、どう考えても、真面目に大学生活を送っているとは言い難い二人組。


 お佳がそのまま無視していると、

「何だよ、お前。ちょっと美人だからって、高ぶりやがって」

 男の雰囲気が変わった。


「正体現したわね」

 冷ややかにお佳が言った。


「この……!」

と、男がお佳の腕を掴もうとした時、

「俺たちの連れに何するんだよ」

 うのっちが、男の右腕を掴んでロックした。


「な、何……?!」

 そこには、うのっちだけでなく、竣とその背後に隠れるようにして、紅羽が立っていた。


「お、覚えてろよ!」

 二人組は、お決まりの捨て台詞を残して、雑踏の中へと消えて行った。


「遅いわよ。もう十時五十分じゃない」


「悪ぃ、悪ぃ。ついそこで、竣と紅羽と合流したんだ。それにしても、お前もちょっとは自衛しろよ。俺らが来なかったらどうする気だったんだよ」

生憎あいにく、私、合気道二段なの。自分の身くらい、自分で守るわ」

 涼しい顔のお佳に、やれやれという感じの三人。


「で、今日は何なのよ。朝飯抜いて来い、とか。ランチバイキングにでも行くつもり?」

 お佳の問いかけに、

「まあ、ついてこいよ」

と、うのっち。


 十一時ジャストに、四人はある店の前に来た。


「『しゃぶ葉』……?」


「しゃぶしゃぶ食べ放題のランチ、個室予約してあるんだ。お前はダイエットとかなんだ言うだろうけど、今日くらい思い切り食べろよ。俺ら三人の奢りだからさ」


 お佳は、三人が自分の事を気遣ってくれているのがわかるから、素直に言葉に従うことにした。


「いらっしゃいませ。予約の宇野さまですね? どうぞこちらへ」

 そして、掘りごたつのある和室に通された。

 四人でこたつを囲む。


「この暑さ真っ盛りの時、しゃぶしゃぶ?!」


「でも、店内、ガンガン冷房効いてるだろ。ちょとした贅沢さ。汗かきながら、真夏にしゃぶしゃぶ、て、いいだろ」

 うのっちが、自慢げに言う。


「このメニューから、お前の好きなコース選べよ」


 お佳は、それで遠慮なく、「国産牛」「本格すき鍋出汁」「〆のお好み雑炊」を選んだ。


「野菜と香味、たれは自由に取りに行こうぜ」


 それで、四人はそれぞれ、好きなたれを選び、白菜などの野菜もたっぷりと取って来た。

 

「白菜は火が通りにくいから、先に入れとこう。肉は食べ放題だから、がっつりいこうぜ」


「宇野君て、実は鍋奉行だったのね」

 紅羽が、感心したように言った。


「この前、バイトの先輩につれてきてもらったんだよ」

 早速、肉を湯に通しながら、うのっち。


「でも、良さげな店だよな。バイキングでこの値段なら、充分元は取れるよな」

と、竣。


「みんなで気兼ねなくわいわいやれるのもいいね!」

と、紅羽。


 そして、四人はがっつり食べながら、話も弾んだ。

 お佳の表情も柔らかい。

 

 なんだかんだ言って、宇野君もお佳のことを気遣っているんだ……と、紅羽は友情を感じていた。


「さて。食うもん食ったし、後はデザート。「かき氷」でいいか?」

 うのっちが言った。

「ここのかき氷がまた絶品なんだ」

「へえ。だったらそれにしよう」

「私、苺ミルクがいいな」

「私は、抹茶小豆」


 そして、約十分後に四つのかき氷が目の前に出された。


「わあ! この氷、ふわふわ!」

「すくっただけでとろけそうだな」

「ここは、ランチバイキングだけじゃなくて、かき氷目当てで来る客もいるんだってさ」

四人は、舌に溶ける氷も十分に堪能した。


「もう一時?!」

 お佳がビックリしたように、声をあげた。

 入店していつの間にか二時間も経過している。


「そろそろ出るか」

 うのっちの言葉に、三人は席を立った。

 うのっち、竣、紅羽の三人で会計を済ませると、お佳の元に皆が来る。


「今日はどうも御馳走様!」

さばけた調子でお佳が言った。


「うのっちに竣、紅羽。バイト料、遣ってくれてありがとう」


「お佳が元気だったらそれでいいのよ」

「そうそう。いつもの「お佳節」が聞けないと物足りないぜ」

「あんま詳しい事情は聞いてないけど、とにかく元気出せよ」

 三人が口々にお佳を励ます。


「平気よ。私、後を引かないタイプなの。また新しい恋をみつけるわ」


 そう言って微笑むお佳の笑顔は、微かに涙で濡れていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ