「La(ラ) Violleta(ヴィオレツタ)」
イタリアンレストラン「La Violleta」アルバイト初日。
11時から開店と同時にランチタイムが始まるので、初日の紅羽は店に10時30分頃来ていた。
貸与された9号の白い長袖シャツと黒いソムリエエプロンに着替える。
「おはようございます」
更衣室に入って来た他の女子バイト員に挨拶をした。
「あなた、新入りさんね。どこの大学?」
「鳴治館の一年です」
「鳴治館! 賢いのね~」
その場に来た三人の先輩バイトから声が上がった。
紅羽はその反応にちょっと困った。
偏差値を自慢するつもりはないのだが、客観的にはそう見えるだろう。
バイトの内容は、ホールスタッフ。
オーダーの取り方、テーブル番号、接客の際の言葉遣いなどを教えてもらい、いよいよアルバイトが始まった。
11時半を過ぎたあたりから、店が混んできた。
12時を過ぎると、店内は満席となり、椅子で順番待ちをする客も出てくる盛況ぶりだ。
パスタ単品は880円。ランチは、三種類。
Aランチは、日替わりパスタ、サラダ、ドリンクで千円。
Bランチは、A+スープで1200円。
Cランチは、B+デザートで1500円。
どれも人気だ。
バイト初日の紅羽は、12時から14時までの間は、主に皿洗いの仕事だった。
ピークが過ぎてから、オーダー取りと運び役をした。
その為、比較的余裕を持って、仕事に集中できた。
三時になると、店の隅で遅いお昼だが、パスタが出された。バイト期間中は、それで昼食費が浮く。
初日は、あっという間にバイト終了の18時が来た。
お昼休憩の30分をひいて、6時間半。時給千円。
故に一日で、6500円のバイト料、これを土日と平日シフト制の二日間の週四日、夏季休暇が終わる9月初旬まで、約二か月間やる。
これで、なんとか新しいパソコンが買えそうだ。
「お疲れー」
18時が来ると、女子スタッフは全員引き上げ、男子店員に切り替わる。ディナータイムが始まるのだ。
やっと仕事が終わるその時。
紅羽は一瞬、自分の目を疑った。
大地だ。
高橋大地が、女の子を連れて入店してきた。
大地は紅羽に気づかない。
紅羽は、そっと店の奥から様子を伺った。
相手の女の子は、身長158㎝位。茶色いふわふわ天パのボブカット。とても愛らしい顔立ちは、まだ高校生に見える。
大地と彼女は、親し気にメニューを眺め、談笑している。それは、サークルで見た雰囲気とはまた違って、心からリラックスしている様子だ。
お佳……
このことをお佳に告げるべきかどうか。
紅羽は、迷った。
そして、黙っていようと思った。
先日、お佳が大地に失恋してからまだ日が浅い。
何も傷をえぐるようなことをすることはない。
お佳自身が立ち直るべく、気持ちを切り替えている時期だ。
そして何より、大地カップルの絆は、ちょっとのことでは揺るがないように思えた。
お佳……
お佳の傷心を思うと、自分のことのように心が痛む紅羽だった。




