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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
36/160

「La(ラ) Violleta(ヴィオレツタ)」

 イタリアンレストラン「La() Violleta(ヴィオレツタ)」アルバイト初日。

 

 11時から開店と同時にランチタイムが始まるので、初日の紅羽は店に10時30分頃来ていた。

 貸与された9号の白い長袖シャツと黒いソムリエエプロンに着替える。


「おはようございます」

 更衣室に入って来た他の女子バイト員に挨拶をした。


「あなた、新入りさんね。どこの大学?」

「鳴治館の一年です」

「鳴治館! 賢いのね~」

 その場に来た三人の先輩バイトから声が上がった。

 紅羽はその反応にちょっと困った。

 偏差値を自慢するつもりはないのだが、客観的にはそう見えるだろう。

 

 バイトの内容は、ホールスタッフ。

 オーダーの取り方、テーブル番号、接客の際の言葉遣いなどを教えてもらい、いよいよアルバイトが始まった。


 11時半を過ぎたあたりから、店が混んできた。

 12時を過ぎると、店内は満席となり、椅子で順番待ちをする客も出てくる盛況ぶりだ。


 パスタ単品は880円。ランチは、三種類。

 Aランチは、日替わりパスタ、サラダ、ドリンクで千円。

 Bランチは、A+スープで1200円。

 Cランチは、B+デザートで1500円。

 どれも人気だ。


 バイト初日の紅羽は、12時から14時までの間は、主に皿洗いの仕事だった。

 ピークが過ぎてから、オーダー取りと運び役をした。

その為、比較的余裕を持って、仕事に集中できた。

三時になると、店の隅で遅いお昼だが、パスタが出された。バイト期間中は、それで昼食費が浮く。


 初日は、あっという間にバイト終了の18時が来た。

お昼休憩の30分をひいて、6時間半。時給千円。

 故に一日で、6500円のバイト料、これを土日と平日シフト制の二日間の週四日、夏季休暇が終わる9月初旬まで、約二か月間やる。

これで、なんとか新しいパソコンが買えそうだ。


「お疲れー」

 18時が来ると、女子スタッフは全員引き上げ、男子店員に切り替わる。ディナータイムが始まるのだ。


 やっと仕事が終わるその時。

 紅羽は一瞬、自分の目を疑った。


 大地だ。

 高橋大地が、女の子を連れて入店してきた。

 大地は紅羽に気づかない。

紅羽は、そっと店の奥から様子を伺った。

相手の女の子は、身長158㎝位。茶色いふわふわ天パのボブカット。とても愛らしい顔立ちは、まだ高校生に見える。

 大地と彼女は、親し気にメニューを眺め、談笑している。それは、サークルで見た雰囲気とはまた違って、心からリラックスしている様子だ。

 

お佳……

 このことをお佳に告げるべきかどうか。

 紅羽は、迷った。

 そして、黙っていようと思った。

 先日、お佳が大地に失恋してからまだ日が浅い。

 何も傷をえぐるようなことをすることはない。

お佳自身が立ち直るべく、気持ちを切り替えている時期だ。

そして何より、大地カップルの絆は、ちょっとのことでは揺るがないように思えた。

 お佳……

 お佳の傷心を思うと、自分のことのように心が痛む紅羽だった。

 


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