幸せの青いハンカチ
香月よう子side
「お佳!」
「うのっち」
お佳が振り返ると、うのっちが歩み寄って来た。
「お前、こんなとこで何やってんだよ」
「あんたこそ。夏季休暇中に大学なんて」
「俺は、学食に飯食いに来た」
「実家に帰らずに?」
「ああ、こっちでバイト中。今日は非番なんだよ。お前こそ、何で」
「私は、図書館に勉強しに来たのよ」
そう答えながらも、お佳は素っ気ない。
「今から一緒に飯食わないか?」
「あんたと?」
「やっぱりボッチ飯て、味気ないんだよ」
それは、うのっちの本音だった。
学校が休みに入ってから、一人で食べる食事には慣れずにいる。
「いいわよ」
お佳は、暫く考えたが、そう言った。
学食で、うのっちは「親子丼定食」、お佳は「カルボナーラ」と「オレンジジュース」をオーダーした。
席に向かい合って座る。
しかし、いつもうのっちをからかうお佳の元気がない。
黙々と食べているが、その手もあまり進まない様子だ。
「お前さあ。何かあったのか?」
「別に」
お佳は、やはり素っ気ない。
しかし、
「うのっち」
お佳は言った。
「私、フラレタの」
そのお佳の言葉に、思わずうのっちはむせた。
慌てて、コップの水をごくごくと飲む。
「誰に……?」
「テニサーの先輩。律響大学の」
「あのお坊ちゃん大学か」
うのっちが言った。
「お前を振るなんて、よほどだな」
うのっちが続ける。
「まあ、あんまり思い詰めるなよ。お前だったら、言い寄る男、星の数じゃん」
「大地さんじゃなきゃダメなの! 彼以外は好きにならない」
お佳が、強い口調で言った。
「そういうもんでもないだろ。時間が解決してくれるさ」
楽観的にうのっちは言った。
「あんたこそ」
お佳は言った。
「紅羽のこと、竣にとられてもいいの?」
瞬間の空白。
「好きなんでしょ、紅羽のこと」
うのっちは、暫く黙っていたが、
「俺は、紅羽が幸せならそれでいいんだよ。そして、竣なら紅羽のこと渡せると思った」
「うのっち……」
予想外のうのっちの言葉に、お佳は言い澱む。
「ねえ、うのっち。それが紅羽と竣との「縁」で、あんたの恋が実らないのは「運命」だと思う?」
「そうかもしれないな」
「それで、あんたは平気なの? 好きな娘と結ばれたいと思わないの?」
「だから言っただろ。紅羽が幸せならそれでいい、て」
お佳はうのっちの瞳を見た。
それは、穏やかな色をしていた。
「わからない。私は、こんなに彼が好きなのに、実らないのは辛い……」
「それもまた真実だし、運命さ」
ぽろぽろと涙を零すお佳に、うのっちがさりげなく青いハンカチを手渡す。
それは、アイロンがけもしていないくちゃくちゃで、いつものお佳なら一蹴するだろう。
しかし、その時のお佳は、素直にそのハンカチを受け取った。
溢れる涙を拭いながら、
「あんた。いい奴じゃん」
と、お佳は呟いた。




