初めての前期試験
菜須よつ葉side
大学構内が前期試験のため、いつもの様子とは違ってどの学生も急ぎ足で自分たちの学部棟に向かって足を進めている。
「紅羽!」
声のした方へ振り返ると、こちらに急いで駆けてくる人が視界に入った。
「竣」
紅羽は、竣を見つけて立ち止まり待っている。
「紅羽おはよう」
「竣、おはよう」
竣が紅羽の横に並び二人で教育学部棟へ向かう。
二人も前期試験の話題になるが、日頃から勉強をしているので特に焦った様子はない。そこへ
「紅羽、竣!」
自分たちを呼ぶ大きな声に振り返ると、教科書片手にこちらに走ってくる一人の学生。
「はよ」
「おはよう、うのっち」
うのっちの登場により一気に騒がしくなった。
「お前ら随分と余裕だな」
うのっちが二人に話しかけた。
「普段から勉強してきたから。今更焦っても仕方ない」
「たださぁ、うのっちが普段から勉強してないだけでしょ」
うのっちには、厳しい言葉に
「こんな日くらいは励ましてくれてもいいと思うぞ」
どこまでも自分に甘い、うのっち。
教育学部棟につき棟内へ入り、カードリーダーへ学生証を通す。なれた手つきでそれぞれが出席確認のためのひと手間をかけている。
「おはよう、試験だって言うのにうのっちは騒がしいね」
お佳が呆れたようにつぶやく。
「うわっ、お佳までそんなこと言うなよ」
「うのっちが悪いんでしょ。当日にバタバタ焦ってるんだから」
佳が、ズバズバと言う発言に、うのっちは返す言葉が見つからない。
試験時間になり教授が入室されテストが始まった。
「教育心理学」から始まり数々のテストを数日かけて受ける初めての定期試験。
「俺、音楽科研究のテストがヤバイ」
うのっちが疲れて愚痴が飛び出した。
「音楽科研究だけじゃないでしょ?」
お佳が、相変わらず鋭い突っ込みを入れる。
「うっ……」
当たっていたのか、小さく唸ったうのっち。
「今更、どうこう言っても仕方ないだろ。単位だけは落とすなよ」
竣がひとこと、ボソッと伝える。
「おぉ、何とか」
うのっちが焦りながら竣に返事をする。
初めての定期試験は、何とか無事に予定通りに行われた。結果は大学のホームページの個人ボックスの「成績一覧」に発表される。
「終わったね」
紅羽がホッとしたようにつぶやいた。
「お疲れ、余裕だろ。紅羽は」
竣が紅羽のつぶやきに返事をする。
「えっ! そうかなぁ?」
「紅羽がダメなら、合格者なんていないよ」
お佳が話に加わる
「もう、お佳までそんなこと言う」
紅羽は、拗ねたように言うが誰も気にしていない
試験後の紅羽たちは、いつも通りに紅羽のまわりに集まって話し込んでいた。
こうして前期試験も無事に終了し、それぞれの夏休みに入っていく。
前期試験の結果がそれぞれの個人ボックスに届けられた。
紅羽、お佳、竣は文句なくどの科目もS単位を獲得していた。
うのっちは、ギリギリC単位やB単位、A単位と科目によってバラツキがあった。残念ながら最高単位のS単位は無かった。
誰一人、単位を落とすことは無かった。




