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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
26/160

自信が芽生えた瞬間

香月よう子side

そして、その翌日。

 

 お昼休みを早めに切り上げ、サークル活動の「アセンブリー」が始まる二十分前に、紅羽はサークル棟の「文士会」部室を訪れた。

 

皆が来る前に、軽く掃除・整理整頓をしようと思ったからだ。


 部室の出入りは部員なら自由で、「アセンブリー」の日以外でも部員がたまり、文学の話や、執筆中の作品について語り合ったりしている。


 いつもは、部員がいない時を見計らって、こっそりとやるのだが、今週は講義の課題が忙しく、来れなかったのだ。


 しかし、そこには先客がいた。


「紅羽ちゃん!」


 パソコン机の前から、紘子(こうこ)先輩が立ち上がり、紅羽の方に寄ってきた。


「今、あなたの作品を読んでいたのよ! 素晴らしいわ。処女作とは思えない出来よ!」


 そう、興奮気味に紘子先輩が言った。


「「都会の雨」……ですか?」


 それは、やっと数日前に脱稿し、部所有のパソコンに送信したばかりのショートストーリーだった。


「そうよ。見事に、お題小説として成立しているわ」


 それは、外回り営業中のOLが、梅雨特有の夕立ちにあい、カフェで雨宿りをし、不味い珈琲を飲みながらも、窓から見える都会の樹々の風景に元気をもらう、といった純文学風のショートストーリーだった。

 

 しかし、紅羽は済まなさそうに言った。

「「春号」に間に合わなくて。すみませんでした」


 本来なら、四月末の文士会・季刊誌「清流(せいりゆう)」春号に載せる為に、紘子先輩が色々アドバイスをしてくれたのだが、「春号」にはどうしても間に合わなかったのだ。


「いいのよ。今度の「夏号」に載せられるわ」

 そう紘子先輩は言った。


「これも全て紘子先輩のお陰です」

 紅羽は頭を下げた。


「「雨」のお題に、「主人公は一人」「通り雨」「どこかで雨宿り」「樹々の風景」て、具体的に縛りをかけて、想像しやすくして下さったから……」


「でも、一本のショートストーリーに仕上げたのはあなたの実力よ」


 紘子先輩は、更に言った。

「また、私がお題を出すから、チャレンジしてみない?」


「え? 今度も書けるとは思えないです……」

 紅羽は自信なさそうに、眉をひそめた。


「大丈夫。また私でよければ、アドバイスはいくらでもするから」


「え、えーと……」

 紅羽は困り顔になりながら、言葉が出てこない。


すると、紘子先輩は優しく言った。

「今回、初めて小説書いてみて、楽しくなかった?」


「い、いえ。最初は全く書けなくて凹みましたが、書き上げてみると、凄く嬉しかったし、達成感がありました!」


「ね。そうでしょう。これから少しずつ、勉強していけばいいわ」


「小説を書く、ことですか?」


「ええ。モノにできたら、プロになれるかどうかはともかく、一生の大事な趣味になるわよ」


 紘子先輩は、にっこりと微笑んだ。


 紘子先輩についてゆけば、出来るかもしれない……。


 紅羽に、ほんの少しだけ小説を書くことに対して、自信らしきものが芽生えた瞬間だった。





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