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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
20/160

初挑戦

香月よう子side

「紅羽ちゃん!」


 突然、後ろから名を呼びかけられた。


 ビックリして振り返ると、「文士会」の副部長の小仲(こなか)紘子(こうこ)先輩が立っていた。


「あなた寮だったの?」

「はい」

 紅羽が答えた。


 すると

「私も寮生活よ」

と、紘子先輩は言った。


「え?! 何号室なんですか?」

「204号室よ」

「じゃあ、同じ階ですよ! 私、201号室です」

「えー!」


 嘘のような偶然に二人とも驚いてる。


「じゃあ、今日は夕食、私の部屋で食べない?」

「え、いいんですか……?」

「もちろん!」


 かくして、二人は女子寮204号室へと向かった。


「先輩、何かお手伝いします」

 紅羽が、所在なげに立っていると、


「いいの、いいの。こんなせまい3畳キッチン、二人では使えないもの。遠慮せず、ゆっくりしていて」


 紘子先輩の言葉に甘えることにした紅羽。

 部屋の中央の小さな炬燵に入った。

 

 不躾かと思いつつ、部屋の中をつい眺めてしまう。


(やっぱり、文士会副部長だけのことはあるなあ)


 紅羽は感心したように、部屋の壁を埋め尽くしている本棚いっぱいに、ぎっしりと収納してある本の数々を見た。


 それは岩波文庫のような純文学からライトベルまで、何でも揃っている。


「あ……」


 その時、声が漏れた。

 そして、つい、一冊の本を手にしてしまった。


「江國香織さん、好きなの?」

 料理の皿を運びながら、紘子先輩が声をかけた。


「え、ええ。すみません、勝手に……」

 紅羽は謝罪した。


 しかし、

「この『ホリー・ガーデン』が特に好きなんです。何度も読み返しました」

 嬉しそうに言うと、

「じゃあ、『冷たい夜に』も好きでしょう?」

「もちろん!」

 嬉々として、紅羽は答えた。


 そして、話は江國香織論に発展していった。


 そんな会話を交わしながら、二人は、紘子先輩得意の「キムチ鍋」をつついた。


「嬉しいわ。こうして本の話ができる可愛い後輩ちゃんができて」

 紘子先輩は、本当に嬉しそうに顔を上気させた


「私も……紘子先輩のような優しい先輩がいて良かったです」

 紅羽は小さな声で答えた。


「ところで。次の部の季刊誌。春号に原稿間に合いそう?」


 その紘子先輩の言葉に、紅羽は詰まった。


「あの……自己紹介だけではだめですか?」

「ダメてことはないけど。他のみんなは、書く気満々だったじゃない」


そうなのだ。


 松永君は、純文学。小田絵梨華はファンタジー、長谷川心乃は、童話を次の「アセンブリー」までに書いてくるらしい。

 もちろん、他の先輩方も新作だ。


「わ、私……。実は書いたことないんです。読むばかりで……」

 遂に、紅羽は、真実を打ち明けた。


 しかし、

「書きたくはないの?」

と、紘子先輩は、優しく問うた。


「いえ! 書きたいんです。でも、どうやって書いたらいいのかが……」


「じゃあ、短いお題小説でも書いてみる?」

「お題小説?」

「そう、例えば「雨」から連想される一場面。どう? 書いてみない? どうしても詰まった時は、私がフォローするから」


 相変わらず、優しい愛嬌溢れる紘子先輩の瞳を見ていたら、なんとか書いてみよう、と挑戦する気になった紅羽だった。


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