幸運の受難
香月 よう子side
「あ、少し、急がなきゃ」
その時、紅羽は手元の時計を見て、そう呟いた。
余裕を持って家を出て来たつもりだが、やはり、慣れない大学のキャンパス内で、思いの外、時間をくっている。
紅羽は、思わず足を速めた。
その時。
廊下の角を曲がろうとした時、紅羽は誰かと思い切りぶつかった。
鞄の中身を思い切りぶちまける。
「ああ、どうしよう……」
思わぬ災難に、紅羽は動揺した。
「君、大丈夫?」
すると。
目の前には、紅羽とぶつかった相手が、紅羽が落とした物を拾いながら、声をかけてきた。
紅羽は、一瞬、ドキリとした。
茶色いウエーブのかかった自然な髪型。
綺麗なアーモンドシェイプの瞳が印象的な男の子。
背は多分、178㎝位。
それは、文句なしの美形──────
「君も受験生? 悪かったね。ぶつかって。大丈夫?」
彼は、優しく語りかけてきた。
「あ、いえ。こちらこそ、不注意で……」
どぎまぎしながら、そう答えた。
「急がないとね。じゃ、君も急いで」
そう言うと、彼は、行ってしまった。
あんなかっこいい男の子もいるんだなあ……
半ば、ぼーっとしながら紅羽は、行ってしまった彼の背中を見つめていた。