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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学2年生
153/160

竣の心は・・・

香月よう子side

挿絵(By みてみん)





「ねえ、お佳……どうやって選べばいいの?」

「え? それは試食したりして、ピンときたチョコを買えばいいのよ」


 如月・ニ月の第一日曜日。

 紅羽はお佳に、百貨店「LUMINOUS(ルミナス)」の九階・特設会場に連れて来られていた。


 ヴァレンタインのチョコを選ぶのだ。


「私、遥人先輩には去年と同じ、「Reve(レーブ) De(ドゥ) Vijoux(ビジユー)」に決めてるの」

「高過ぎっ!! こんな高価なチョコ、私には無理!」

 紅羽が異議を申し立てる。


「うーん、もう少しお値頃なチョコもあるわよ。ゆっくり見て回りましょうよ」

 そう言いながら、お佳はちゃっかり試食も楽しんでいる。


「あ。これ可愛い」

 その時、紅羽があるブランドの前で立ち止まった。


 それは、うさぎやこぐまなどの動物をかたどった大きなチョコレート。中身はスカスカだろうが、大きさから言って、食べ応えがありそうだ。一番小さなタイプなら、約千円とお値段的にもリーズナブル。


「これにしたら?」

「うん!」


 そうして、紅羽は竣に渡すためのチョコを買った。


「うのっち達とシェアして食べる友チョコは、そんな高いの買う必要ないわよね」

「それでもお佳はベルギーチョコを選ぶんでしょ? 私はやっぱり、今年も手作りにする」

「じゃあ、一緒に作る? 私も今年は作ってみたいわ」

「そうね。手作りのキットが「LAFT(ラフト)」で売ってると思うから、ここでのチョコを選び終わったら見に行こうか」


そうして、紅羽は竣へ、お佳は遥人への本命チョコを買い、二人で一応幾つかアソートチョコも選び、自分達へのご褒美チョコも買って、大型雑貨店「LAFT」で手作りチョコとケーキの材料を買った。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 そして、二月十四日。

 今年もその日は、昼食を「サティア」で四人で済ませると、珈琲タイム。


「竣、うのっち。今年は紅羽と二人で手作りしてきたわよ」

 お佳がそう言って、バッグの中から包みを取り出した。

「プレーンなトリュフだけど、材料をいい物使ったから、美味しいはずよ」

 お佳が自信満々に言う。


「どれどれ」

 うのっちがココアパウダーのかかっている丸いチョコレートをつまむ。

「どう?」

「うん! 美味い!」


「あ、あのね。マーブルのパウンドケーキも焼いてきたの」

 紅羽がそう言って、切り分けてあるケーキを四人に取り分けた。

「このマーブルケーキも美味いな」

 竣が美味しそうにケーキを頬張る。

「おう。美味い!」

 うのっちが言う。


「一応、売ってるチョコも買ってきたから、食べて」

 お佳が、アソートチョコの箱を幾つか取り出した。

「贅沢そうだな」

 竣の言葉に

「美味しい物には投資を惜しまないのよ」

と、お佳。


そうして、今年のヴァレンタインも和気あいあいと過ごすいつもの四人だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 その日の夜九時前。

紅羽は、駅前の「鳴崎書店」の入り口で、竣と待ち合わせをしていた。

 バイト帰りの竣にチョコレートを渡す為だ。


「紅羽!」

「竣」


 バイトを終えた竣が、入り口付近の新書コーナーで立ち読みしている紅羽に声をかけた。


「待った?」

「ううん。読んでたから」

「そこのカフェでお茶して帰る?」

「うん!」


 そうして二人は、書店の前にあるセルフカフェに入った。


「竣、何がいい?」

「うーん、ホットのカフェラテかな」

「今日は私が買ってくるから、竣は席を取っていて」

「いいの?」

「竣、この前奢ってくれたでしょ。だから気にしないで」


そして、竣は二階の禁煙席の一角を確保した。


「お待たせ」

 紅羽が、ホットのカフェラテMサイズを二杯持って、竣の前に座った。

 

 暫く、大学の講義など他愛ない話をしていたが、

「あの…ね。竣……。これ」

 紅羽は、「LUMINOUS」で買ったうさぎチョコと自分で焼いたココアクッキーの包みを、竣の前に差し出した。

「これは「LUMINOUS」で買って、こっちは自分で焼いたクッキーなの……」

 相変わらず恥ずかしそうに話す紅羽に、

「ありがとう!」

と、竣の笑顔が弾ける。

「店内で開けるのもなんだから、家に帰って大事に頂くよ」

「うん、そうして」


閉店時間の夜十時まで二人はお茶を楽しんだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「やっぱり寒いわね」

 外へ出た途端に、紅羽が背を丸くしながら言った。

「ああ、そうだな」

 そんな会話を交わし、二人は自然に手を繋いだ。


 しかし、

「竣……?」

 紅羽が訝しむように、右隣を黙々と歩く竣を見上げた。


「あ、ああ。何?」

「どうして黙ってるの?」


 その紅羽の問いに竣は答えない。

 ただ、紅羽の右手をぎゅっと握り締め、歩き続けた。


 駅に着き、

「じゃあ、竣。また明日ね」

 そう言って背を向けようとした紅羽の手を、とっさに瞬は掴んだ。


「竣……?」

「く、紅羽」


 竣は、紅羽の瞳をじっと見つめている。


「チョコありがと。また明日な!」


 しかし、竣は明るくそう言うと、改札を通ってプラットホームに消えて行った。


「竣……」


(何を言おうとしていたの?)


 紅羽は竣の心中を推し量ろうとしたが、竣の本当の気持ちはわからないまま、ただ手に残った温もりだけを感じていた。

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