ロマンティックなイヴを二人で
香月よう子side
外は、微かに雪が舞っている
街は明るい声に彩られている
どこからともなく
”MERRY CHRISTMAS !!”
聖なる一日
心弾む一日
今日は
”WHITE CHRISTMAS”
「佳。何がいい?」
黒い革張りのメニューを遥人は、お佳の目の前に提示する。
「私は……カクテルのことは、詳しくはなくて……」
お佳は、声を落として答える。
「でも、アルコールは大丈夫だったね?」
「はい。二十歳になってから紅羽と何度か飲んでみました」
「オレンジジュースは好きだったかな?」
「はい」
「だったら……」
暗い照明の下でも光る黒いサテン地のリボンブラウスにマーメイドラインロングスカート姿のやけにスレンダーな若いホステスに、遥人は何事かオーダーした。
遥人と過ごす二度目のクリスマス……正確には、恋人と過ごす初めての「クリスマス・イヴ」をお佳は遥人と共に過ごしている。
ここは、「クラウン・アソシアプラザホテル」の15階、メインバー「エストマーレ」の一角。
日常の喧騒を離れたクラシカルな空間。
「大人のための隠れ家」と称しても過言ではないそこは、夜を楽しむ大人の雰囲気に包まれている。
程なく、二人の前に二杯のカクテルが供された。
お佳の前には「ミモザ」……それは、鮮やかな黄金色のミモザの花に似たシャンパンベースのカクテル。
「遥人先輩のカクテルは……?」
「ああ。「スプリッツァー」白ワインをソーダで割ったカクテルだよ」
「乾杯」
二人のグラスが重なり合う。
「美味しい……オレンジジュースみたい」
「この世で最も美味しく、贅沢なオレンジジュースだからね」
そうして、最高にロマンティックなイヴを二人は過ごしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「綺麗……」
お佳が、アソシアホテルの48階の客室の窓辺から遥か眼下に広がる景色を見下ろしている。
小さく煌くビルのネオン。
車のテールランプがゆっくりと動いていく。
「佳」
「先輩……」
遥人が後ろからお佳を抱き締め、うなじに口づける。
「シャワーを浴びておいで」
遥人がお佳の耳元で囁く。
お佳は、「はい」と答えると、遥人の腕から逃れようとした。
しかし、遥人はなかなか腕の力を緩めない。
「先輩……シャワーが浴びられません」
拗ねたようにお佳が呟く。
仕方なさそうに、ようやく遥人はお佳を解放した。
お佳はバスルームへ、遥人はダブルベッドへと消える。
シャワーの水音が響く。
シャワーを浴びながらお佳は、まだドキドキと高なる胸の鼓動を意識する。
遥人とこうして「夜」を過ごすのは、何度目になるだろう。
あの夏の日からしかし、まだ数えられる程度にしか、お佳は遥人と肌をあわせていない。
それでも、お佳は今ではバスローブだけを纏い、ベッドへと向かうことが出来る。
そっと、ベッドの中に入ると、たちまち遥人に抱き寄せられる。
息づく吐息
熱い口づけ……
「佳」
「先輩……」
そう呟いたお佳に、
「ベッドの中では、「先輩」はやめてくれと言っただろう」
遥人が窘める。
「は、ると…さん……」
お佳にはその呼び方はしかしまだ慣れない。
頬を紅潮させ、目を閉じながらお佳は呟く。
それでも、厳かで華やかな「聖夜」の一晩をお佳は、遥人と共にたおやかに流されていく。
それは、あの熱帯夜の夜のように熱い夜だった。




