四年後には……
香月よう子side
色々なことがあった感慨深い『入学式』。
その翌日には、『健康診断』があり、そして、その翌日の今日は、『教科書購入日』だ。
教育学部一年生の【基礎科目】として、「教育研究入門A」「他文化共生と教育」「教育統計学基礎」「教育ドラマ論」など。
【実践科目】として、「教育ドラマ演習」。
【小学校教育科目】として、「国語科研究」「社会科研究」「算数科研究」「理科研究」「音楽科研究」「図化工作科研究」など。
そして、希望者のみ選択の【中学校理科教育科目】【中学校数学教育科目】【中学校国語教育科目】に、それぞれ必要な教科書。
【英語科目】として、テキスト「新世界、英語」、「LL」用教材など。そして、【第二外国語】として選択した【ドイツ語】の「現代独和辞典」「現代和独辞典」や「ドイツ文法」など。
それらを、紅羽は購入した。
教科書購入が無事に済むと、紅羽は、佳と竣、うのっち達と一緒に、構内のキャフェテリア『サティア』でお茶をすることになった。
ここは、学食より狭いが、雰囲気の良いお洒落なカフェで、しかも、ドリップ珈琲が一杯150円、ケーキが一個200円などと、非常に安価だ。
だから、学生達のたまり場となっている。
「一度にこれだけ買うと、かなりの出費だよな」
珈琲を飲みながら、竣が言った。
「そうよねえ。私なんか苦学生だから、両親に申し訳ないわ」
紅羽が、少しその綺麗な眉を寄せる。
「でも、紅羽は絶対真面目に勉強するだろ。ここに合格する為にも、担任の反対押し切って、猛勉強したじゃん」
うのっちが言う。
「紅羽らしい~!」
佳がパンケーキを食べる手を止めて、感心したように言った。
「でも、うのっちだって、それこそ死ぬ気で勉強したクチじゃないの? なんたって天下の鳴冶館。あんたが来る大学とは思えないわ」
「ひでえ!!」
ほぼ初対面のうのっちを相手に、佳は口さがない。
「ところでさ」
佳が続けた。
「みんなは、教師て言っても、小学校・中学校どっちの先生になりたいの?」
「私は、入学式の日にも言ったように、これからゆっくり考える。とりあえず、どちらも免許取って。だけど、中学の英語はないわ。苦手科目だから。それと、小学校の先生でも、特に音楽の先生なんかいいかなあ、て」
紅羽が、答えた。
「へえ。紅羽ってもしかして、楽器弾けるの?」
珈琲を飲み終わった竣が、問う。
「紅羽は、ピアノが得意なんだよな。高校一・二年生の時、卒業式で、ピアノ伴奏したもんなあ」
紅羽の代わりに、うのっちが答えた。
それが、表情には出さないが、竣にはなんとなく面白くない。
「ああ。これから四年間。どんな生活が待っているのかなぁ」
そんなことは露知らず、紅羽は、その大きな茶色の瞳を更に大きく、きらきらと輝かせた。
「新たな出逢い溢れる、学業も充実した素敵なキャンパスライフに決まってるじゃない」
確信めいた口調で、佳は言った。
「そして、四年後には、初々しい立派な「教師」になっている」
竣が一言、言った。
「だな」
「だよね」
その場の皆が、皆の顔を見つめあい、そして笑った。




