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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学2年生
135/160

ピアノ部強化合宿 ~前編~

香月よう子side

 挿絵(By みてみん)





「そこは違います! もっと基礎に忠実に! 先輩のバッハは中声が重い」

 優斗の声が講義室いっぱいに響く。


 もう一度、同じ小節から、お佳が弾き直す。

「今度は、少しはマシですね」

 優斗が薄いフレームのの伊達眼鏡をかけなおしながら、ようやくOKを出した。


(やってる! やってる)

(中井君、強気!)


 講義室のドアの陰から、ピアノ部の一年女子が覗き見をしている。


「そこ! 邪魔なんだけど。人の練習見るくらいなら、アルペジオの練習でもした方がいい」

 優斗の容赦ない言葉を浴び、二人組はそそくさと退散した。


「中井君。そろそろお昼休憩にしましょう。とっくに正午過ぎているわ」

「……そうですね。午後からは、僕に練習をさせて下さい。岡田先輩は譜読みでもどうぞ。貴女のアドバイスなど僕には不要です」


 優斗のすげない言葉にも、お佳は特別には反論しない。

そこまで馬鹿にされることもないのだが、優斗の主張はお佳も納得せざるを得ないところがある。

 それほどの実力が優斗にはあった。


「じゃあ、私は学食で食べた後、午後三時に戻ってくるわ。それからまた代わってくれるかしら?」

「わかりました」


そうして、お佳は講義室を後にした。


 合宿二日目からこれでは、あとの五日間の先が思い遣られる……。そう溜息をつきながら……。 



◇◆◇◆◇◆◇◆



 七月も下旬、「前期試験」も無事終わり、「夏季休暇」に入ったお佳。

 しかし、すぐに行われる「ピアノ部」の合宿に参加していた。

 二年生で「副部長」という役付きの為、お佳の参加は必然だった。


 鳴治館大学には、広く音響設備が整い、二台のグランドピアノが設置されている「音楽鑑賞室」の他に、アップライトピアノがある講義室が十室ある。

 その講義室のピアノの使用は本来、認められていないが、学生課に使用目的の申請をすれば、使用することが出来る。

 それで、ピアノ部は、音楽鑑賞室のグランドピアノも講義室のアップライトピアノも全て借り切って、夏季休暇中に、「強化合宿」を行うのが慣例だ。


 それは厳密に言えば「合宿」ではなく、「強化練習週間」という名前の「集団練習」である。

 朝から晩まで丸一日練習し、夜は各自の家に戻り、翌日また練習に通う。それを一週間行う。


参加者の顔触れ・人数により、綿密な練習スケジュールを組み、特に下宿生で家にピアノがない部員は優先される。

 皆、クラビノーバは所有しているが、やはり本物のピアノと電子ピアノでは、タッチから音まで全てが違う。

下宿生でも帰省すればピアノはあるわけだが、アルバイトの関係などで、長期帰省はしないものも多い。

 また、グランドピアノで思い切り練習できる機会は、すこぶる貴重だ。


 だから、部員はほぼ全員参加の強化合宿である。


合宿では、二人で一組のパートナーを作る。

 その二人で合宿中、お互いアドバイスをしながら、練習するのだ。

 パートナーは公平にくじで決める。

学年に関係なく、上手い方が下の方の指導をする。

 ある意味シビアな関係だが、鳴治館のピアノ部は毎年、たいしたトラブルなく順調に皆、練習に取り組んでいる。


 ところが────── 

 今年の合宿は違った。


 お佳が、元ピアノ部部長でお佳の彼氏である遥人の弟、医学部一年の優斗と組むことになったのだ。


“あなたのショパンは美しいけれど、間違っている”


 そう、断言した優斗。


 誰もが息を飲み、行方を見守ることになった。 

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