教授からの依頼
香月よう子side
夏季休暇直前の七月の或る日。
お佳は、英語の教授・田中から教授室へ呼び出しを受けた。
(田中教授の用事て何だろう。呼び出しをくらうような成績はとってないんだけど……)
そんなことを思いつつ、
「失礼します」
と、お佳は、田中教授の講師室のドアをノックし、入室した。
「ああ、岡田君。待ってたんだ」
アラフォーの英語教授・田中は窓際のデスクに座ったまま、お佳に声をかけた。
「何か御用ですか?」
「うん。岡田君に頼みがあってね」
「はい?」
「君、夏季休暇は何か予定はあるのかね?」
「休暇に入ってすぐにピアノ部の合宿があります。一週間です」
「その他アルバイトや旅行、帰省の予定は?」
「アルバイトはしていませんし、する予定もありません。旅行も今のところは特には予定ありませんし、帰省は実家が隣の市なので、軽く帰るかもしれませんが、こちらに残って大学の図書館で勉強するかもしれません」
本当は、遥人と離れたくないので帰省に関しては迷っているのだが、まさかそれを言うわけにはいかない。
「そうか」
と、一言、田中は言った。
「実は、他でもない。君に、「家庭教師」のアルバイトを引き受けて欲しいんだが」
「え? 家庭教師?」
「うん。私の知人の息子さんなんだが、来年高校受験で、英語の成績が伸び悩んでいるらしい。それで、鳴治館の優秀な学生を紹介して欲しいと頼まれてね」
田中が続ける。
「君は教育学部の中でも英語の成績は抜群に良いし、どうかな。将来の「教師」の模擬授業と思って、引き受けてくれないか?」
「はあ……」
特に食指が動いたわけではなかったが、教授の頼みを無下に断ることも出来ず、お佳はその「カテキョ」のアルバイトを引き受けることになった。




