お似合いのカップル
香月よう子side
季節は梅雨に入り、今日も朝からしとしと雨が降っている。
「じゃあ、紅羽。また明日ね!」
「うん、また明日」
「紅羽、またな」
「竣、宇野君。またね!」
大学二年になり、各自希望の講義を取った結果、一年の時ほどはいつも四人べったりということが少なくなった紅羽たち。今日は三時限目まで一緒だったが、四時限目、紅羽は一人、空きコマになった。
その日は、バイトまで大学で時間を潰そうと、紅羽はお決まりのサティアでぼっちお茶をすることにした。
しかし、
「紘子先輩!」
サティアの隅の席で、教育学部四年で文士会の先輩である小仲紘子先輩が、やはり一人でお茶をしている場面に遭遇した。
「紅羽ちゃん。久しぶり」
紘子も紅羽を認め、声を掛けた。
「おひとりなんですか?」
「うん。次のコマまで人と待ち合わせ」
「私もそれまでご一緒していいですか?」
「勿論! 私もお茶のお代わりするわ」
そう言って紘子は、席にハンカチだけを置いてバッグを持ち、席を立った。
二人はケーキセットを頂くことにして、紘子はホット珈琲とショコラケーキ、紅羽はミルクティーとチーズケーキをオーダーし、また席へと戻った。
「同じ寮の同じ階なのに、最近はご無沙汰してたわね」
「ほんとですね。……あ。先輩……」
「どうしたの?」
「また原稿見て頂きたいんですが……」
そう言うと、紅羽は携帯しているパソコンをバッグから取り出した。
「来月の「清流 夏号」の原稿なんですけど……。実は、今度は恋愛モノに挑戦していて……」
「まあ!素敵! 見せて見せて!」
恋愛モノが好きで得意ジャンルの紘子は、目を輝かせて紅羽の原稿に目を通した。
「うん。まずまずね。もうちょっと事件なり、山場が欲しい所だけど、雰囲気は出ているわ。……でも、あなた確か、第二外国語はドイツ語だったわよね? よくこの場面でフランス語持ってきたわね。洒落たオチがついていて、良いと思うわ」
「ありがとうございます! フランス語は親友が選択していて、辞書を見せてもらってたら、こんな風に書くことが出来ました」
二人は、その後も紅羽の恋愛小説「FIRST CONTACT」について語りあった。
紘子はさすが恋愛小説の通だけあって、褒めるところは褒め、的確なダメ出しもしつつ、あっという間に時間が過ぎて行った。
「先輩! ありがとうございます! 指摘して頂いた部分を書き直して、もう一度見直してみます」
「きっともっと素敵な作品に仕上がると思うわ。頑張って!」
その時。
「紘子」
誰かが、紘子先輩の名前を呼んだ。
「後藤君」
紘子は、彼の名前を呼んだ。
「ご、後藤部長……!」
それは、昨年度の文士会部長で文学部四年の後藤健だった。
「待った?」
「ううん。紅羽ちゃんとお喋りしてたから、大丈夫」
たったそれだけの会話だが、二人は明らかに二人だけの世界を築いていた。
「あ、あのう……。私、そろそろお暇します」
「あら、紅羽ちゃんはここにいたら? 私と後藤君は行くところがあるから」
「どちらに行かれるんですか?」
と、紅羽がやぶなことを問うたら、
「映画を観に行くの。リバイバル。フランス映画、あの大ヒットした「コーラス」をね」
そうにっこり微笑んで、紘子は席を立つ。
「その原稿、完成したら、また是非読ませてね」
「はい! またアドバイスお願いします」
そう言うと、紘子は健と連れ立って、サティアを後にした。
健は165㎝くらいしか背丈がないが、160㎝には全く足りない紘子とは、まさしくお似合いのカップルだった。
(素敵だなあ…… 先輩たち」
紅羽は、もうとっくにサティアを出てしまった紘子たちカップルの残映をいつまでも見送っていた。




