うのっちの母
菜須よつ葉side
玄関の鍵を明け、嬉しそうに声をかけるうのっちの母。
「さぁ、入って入って!」
ひとりテンションが高い。それだけ息子の友達が来てくれたことが嬉しくて仕方ない様子だ。
「お邪魔します」
竣と紅羽は凄い歓迎の様子に少し驚いたやらホッとしたやら。
「たくちゃん、ふたりに座って待っててもらって! お茶の準備してくるから」
嬉しそうにキッチンへ向かっていく母にあきれるうのっち。
「リビング行ってろってさっ」
「お母さん、嬉しそうね」
「友達連れてこいって煩かったからな」
「いいお袋さんだな」
「騒がしいだけだよ」
リビングの隅に荷物を置かせてもらい買ってきた手土産を持って席に座って喋っていると、
「お待たせ!」
トレイにジュースとお菓子を乗せてニコニコ笑顔でリビングに入ってきた、うのっちの母。
「さぁ、ゆっくりしてね」
「高遠 竣です。ありがとうございます」
竣が頭を下げる。
「一条紅羽です。お招きありがとうございます。これ二人からです。お口に合えば良いんですが」
買ってきたものを渡す紅羽。
「まぁ、気を使わせちゃったわね。有り難く頂くわね竣君と紅羽ちゃん。ありがとう」
嬉しそうなうのっちの母
「母さん、嬉しそうだね」
「竣君と紅羽ちゃんと楽しくお喋りするんだから、たくちゃん邪魔しないでね。どっか行っても良いわよ」
母の言葉に呆れるうのっち。
「ねぇねぇ、たくちゃんが迷惑かけてるでしょ! ごめんなさいね」
「母さん、普通『迷惑かけてない?』だろ」
うのっちが反撃する。
「いや、たくちゃんの事だから絶対に迷惑かけてるわよ」
自信満々に語るうのっちのお母さんの言葉に
「迷惑と言うより心配ですかね」
竣が会話に参加した。
「ほら、ごらんなさい。どんな心配させてるのかしら?」
うのっちのお母さんは竣を笑顔でみつめてお喋りが大好きな事がうかがえる。
「課題を一人で仕上げられなかったり、サークル時間に遅れを取り戻す時間に充てれば良いのに映画鑑賞会だけで終わってしまうところですかね」
「前回の課題はE単位だったよね」
紅羽が口を滑らせる。
「紅羽!」
うのっちが制止するまもなく告げられてしまった
「だろうと思ったわ。児童なんちゃらの単位がS単位って威張っていたから、後の報告無かったからまぁ、そんなものよね」
さすが、うのっちの母!
ドンと構えている。
色々と楽しくお喋りも進み時間があっという間に過ぎている。
「あらやだ、こんな時間なのね。お夕食の準備をしなくちゃ!」
名残惜しそうに席をたちキッチンへ向かっていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆
うのっちの母の手料理が並ぶ豪華な食卓。唐揚げ、フライドポテト、ブロッコリーと海老のサラダ、酢豚、麻婆豆腐、そして手巻き寿司の用意がしてあった。
「わぁ、凄い!」
紅羽が思わず声に出てしまうほどの豪華なお料理だ。
「さぁ、食べましょ!」
うのっちお母さんは楽しそうで、かいがいしく世話を焼いていた。
「宇野、お前が羨ましいよ」
「俺は、お前が羨ましいよ」
お互い羨ましく思っている内容には大きな開きがある。竣はうのっちの母を、子供思いの優しい母に見守ってもらえていることが、うのっちは竣そのものが……
「仲良しさんね」
うのっちのお母さんは微笑ましく二人を見ていた。豪華な夕食も楽しいひとときだった。
夕食後もお喋りして過ごし、入浴して就寝という時間になりうのっちのお母さんは爆弾発言が飛び出した。
「竣君はたくちゃんのお部屋で良いわよね。紅羽ちゃんは私と女子会しましょうね」
「母さん、いい加減に解放してやれよ」
うのっちが言葉を返す。
「えっ? 私なら構いませんよ。宇野君のお母さん楽しい方だしお喋り楽しいから」
紅羽は、久しぶりに母かの温もりを思い出して懐かしく感じていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日は本当にありがとね。たくちゃんと仲良くしてくれてありがとう」
「私の方こそ、ありがとうございます。とても楽しい日でした」
二人は布団を並べてリラックスした中で女子同士の会話を楽しんでいた。一方うのっちの部屋では
「いい母さんだな」
「喋るのが好きなだけの親だよ」
「お前が『たくちゃん』なんて呼ばれているとは思わなかったけどな!」
「お前は『竣ちゃん』か?」
「大学生にもなって『ちゃん』付けで呼ばれてるなんてどうかと思うぞ」
「俺も言ったんだよ、そろそろたくちゃんはやめてくれって」
「うん、そしたら?」
「たくちゃんはたくちゃんでしょ! でバッサリだったよ」
「良いんじゃね? たくちゃんで!」
「ヤバくない?」
「少しな」
何だかんだと盛り上がっていた男子部屋のふたり。竣は、何かあったら『たくちゃん』を使ってやろうと思っている。
ゴールデンウィークは、こんな調子で過ぎていった。




