サークル勧誘は突然に
香月よう子side
それから。
四人で一緒に帰ろうとしていたところ、紅羽達は、サークル勧誘の波に吞み込まれた。
「テニスサークル「プリマヴェーレ」でーす! 大学生活はなんといってもテニサー!」
「来たれ新入生! 楽器が出来れば君もモテモテ! 軽音部で青春しよう!」
「そこの長身の君! 体育会バスケ部で一緒に汗を流さないか?!」
各サークルが、ビラを片手に、新入生の獲得に必死なっている。
(あれ……? お佳たちはどこ?)
その時、紅羽は、三人とはぐれてしまったことに気がついた。
(ど、どうしよう……)
紅羽がおろおろと動揺していると、誰かが、紅羽の肩を叩いた。
「あなた。お友達とはぐれちゃったの?」
それは、身長154㎝くらい、茶縁の眼鏡をかけた、どちらかと言えば地味目の女子学生。
しかし、にこにこと笑うその表情は、なんとも愛嬌が溢れている。
「え、ええ。四人で帰ろうとしていたんですけど……」
紅羽はどぎまぎしながら、そう答えた。
「大変ね! 下手に動かずに、私の話聞いていかない?」
それは巧妙な勧誘だったが、紅羽は何故か素直に、その女子学生の話を聞いてみようと思った。
「私達、「鳴冶館大学文士会」ていう「文芸同人サークル」なの」
「文芸部なんですか?」
紅羽は、大きな瞳を更に大きく見開いて言った。
「ええ、そう。……て、あなた興味有り?!」
眼鏡女子学生の目が、俄然輝いた。
「私、高校時代、文芸部だったんです。季刊誌とか出すんですよね? 私自身は、文章、全然へたっぴなんですけど……」
紅羽は、少し声を潜めた。
しかし、
「文章の上手下手なんて、全く関係ないわ! もうあなた、うちのサークルで決まりね!……ちょっと、部長! 新入生一名様ご案内~!!」
「え、ええ、えええ???」
戸惑う間もあればこそ、紅羽はあっという間に、四、五人の学生に取り囲まれた。
「君、名前は? 何学部? 僕は部長の文学学部三年生・後藤 健」
その中で、165㎝くらいの男子にしては小柄な、やはり眼鏡の学生が、紅羽に尋ねた。
「い、一条紅羽です……。教育学部新入生です……」
「紅羽ちゃんか。教師になるなら、尚更、我が文士会で文章力を磨いたらいいよ」
垂れ目気味の優しい瞳で、彼は紅羽に語りかける。
かくして紅羽は、文芸サークル「鳴冶館大学文士会」の一員になった。




