お佳の心
香月よう子side
何か……ムカムカする。
お佳の気が立っている。
家路へと急ぎながら、お佳の心は乱れている。
何で。
あの娘……鳥羽さんがうのっちを好きだなんて、あのヴァレンタインの時からわかってたじゃない。
第一、私には何の関係もないわ。
あの二人が……つきあったとしても、私には何も……。
でも。
自分の気持ちが自分で信じられない。
私は。
遥人先輩が……好き。
それなのに……。
大地さん。
私の「初恋」の人。
好きだったけど。本気で愛していたけれど。でも。
もう「過去」の人。
なのに、どうして。
あの時……うのっちの存在が胸を掠めたんだろう。
うのっちなんて……!!
お佳の心に燻ぶり、わだかまる想いにお佳は唯、翻弄される。
遥人先輩。
大人で、優しくて……。
私を包み、私を守ってくれる存在。
何より、私が心から尊敬できる人。
そんな人は、もう二度と現れないかもしれないのに。
なのに、どうして……。
その時、お佳の足がふと止まった。
「雨……?」
気がつくと曇天の空。
二月の冷たい雨が降ってくる。
このまま、雨に涙が流されていけばいい……。
ぎゅっと両手で持っているバッグを抱き締めた。俯いて。
まるで、己が身の存在を確かめるかのように。
どうして──────
あのヴァレンタインデーのあの時。
どうして遥人先輩を拒んでしまったんだろう……。




