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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
106/160

それぞれのヴァレンタイン

香月よう子side

 竣と紅羽が、サークル棟へと続く道を二人並んで歩いている。


「……ねえ。竣」

「何?」

「宇野君の本当の気持ちって、竣は知ってるの……?」


 紅羽がぽつりと言った。 


「いや……。俺も正直わからない」

 竣は真面目に呟いた。


「あいつは人が好過ぎるんだよ。周りの人間の幸せばかり考えて、自分のことはいつも二の次だ。時々、とてつもなく歯痒くなるよ」

「そうね……。お佳とはお似合いだと思ってたけど、遥人先輩とお佳がお付き合いし始めた以上、もうどうにもならないわよね。遥人先輩とお佳もすごくお似合いなだけに、なんだか。宇野君が可哀想で……」


 紅羽の声は沈んでいる。

 お佳のお相手として、遥人以上の男性はなかなかいないだろう。

 それはわかっている。

 だからこそ、身を引くうのっちの胸中を思うと、紅羽にはやりきれない思いがするのだ。


「ま、あいつはなんだかんだでうまく乗り越えるさ」

 竣は、その場の空気を変えるように明るく言った。


「あ、あのね…。竣……」


 その時。

 急に紅羽は立ち止まった。


「どうした? 紅羽」


「あのね……。これ。竣に……」

 そう言うと紅羽はおもむろに、深紅の紙で綺麗にラッピングされた平たい正方形の箱をトートバッグの中から取り出した。


「何? これ」

「竣に…チョコレート……」

 その深紅のラッピング紙と同じくらい真っ赤になって、紅羽は右サイドの長い黒髪を耳に掛けながら、そう呟いた。


「これも、私が作ったの」

 それは消え入りそうな声で紅羽は言う。


「アーモンドチョコ?……じゃないみたいだね」

「うん……。恥ずかしいから、家に帰って開けてみて」

それは実は、プレーンな大きいハート形の紅羽特製チョコレートなのだ。


 竣は大事そうに受け取ると、

「サンキュ!」

 破顔一笑、はじける笑顔でそう応えた。


「帰宅してから一人で楽しみに食べるよ」

 黒いアーモンドシェイプのまなざしで、竣は紅羽を優しく見つめる。


 木枯らし吹きすさぶ中でも、この二人の温かい心の絆は揺るがない。 


 まだまだお互い「愛してる」というようなはっきりとした自覚や告白こそないが、しかし地道に確実に、純情な想いを育んでいく微笑ましい二人だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



その頃、一方で────── 


「サティア」には、お佳とうのっちが残っている。


「お佳もピアノ部なんだろ?」

「うん。そろそろ。先輩が……」

 お佳は、一瞬、言い澱む。


 実は遥人から、「サティア」までお佳を迎えに来るとさっきLINEがあったのだが、何故かお佳はうのっちにはっきりとそう告げることが出来ない。


その時だった。


「宇野さん!」


 よく通るソプラノの声がその場に響いた。


「鳥羽さん」


 うのっちの席に駆け寄ってきたのは、うのっちのバイト仲間のあの鳥羽詩織だった。


「よかった~! 探したんですよぉ」

「俺を?」

「はい!」


 詩織は、くるくると表情を変えながら、親しみを込めてうのっちに言った。


「これ。ヴァレンタインのチョコレートです」

「え?! 俺に?」

 うのっちは、心底驚いた。


 それには構わず詩織は、


「はい! 「EION(エイオン)」のショッピングモールで売ってる安物なんですけど……。でも、一番大きな袋に詰められるだけ詰めてきました。ハートやお星さまやうさちゃんとか。色々な形の小さなミルクチョコです」

と、明るくうのっちに持ってきた金色のラッピング袋を手渡した。


「あ、ありがとう」

 嬉しさよりも戸惑いの方が大きいうのっち。


「良かったじゃない、うのっち。こんな可愛い女の子から本命チョコだなんて」

 お佳はいつもの麗しい流し目ではなく、何故かうのっちから顔を背けるようにして、そう呟いた。


「ほ、本命チョコ……?!」

 うのっちには、にわかには信じ難い。


「あ、あの岡田さん。ですよね?……すみません。私一人ではしゃいじゃって……お邪魔でしたか?」

と、詩織が声を落とすと、

「ううん。全然! 鳥羽さん?だったかしら。うのっちをよろしくね!」

と、お佳はそれは見事に華やかな笑みを湛えて、そう言った。


「佳」


 その時。


「遥人先輩」

 いつからそこにいたのか、お佳の背後に遥人が立っていた。


「私、これからピアノ部だから。うのっち。鳥羽さん。二人でごゆっくり。……行きましょう。遥人先輩」

 そうお佳は落ち着いて言うと席を立ち、遥人の左腕を取りながらその場を立ち去った。


「素敵なカップルですねえ」

何の事情も知らない詩織が、無邪気にほおっとため息をついた。


「ああ、あれ以上のベストカップルはそういないよ」

 うのっちは呟く。


「宇野さん。今日もこれから一緒にLL教室で映画、観ませんか? 私、今日は「あいびき」が観てみたいんです」


「ああ。あの50年代の恋愛映画か。いいよ。観よう」


 そう言うとうのっちは、詩織が持ってきた詰め放題チョコレートの袋と、紅羽がジップロップに入れてくれたアーモンドチョコにクッキー。そして、お佳からもらったトリュフの残りの箱を、さりげなく全てバッグにしまった。


 しかし、それらの確かな重みにうのっちは、


(どうしたんだ、一体。今年のヴァレンタインは……)


と、訳のわからない胸に迫りくる想いを、しみじみ感じていた。


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