シェアするヴァレンタイン・チョコ
香月よう子side
季節は早、如月。
その日、紅羽達いつもの四人は久しぶりに学食ではなく、カフェ「サティア」で昼食を摂っていた。
そして、食後の珈琲タイム。
お佳が、
「竣。うのっち。お待たせ!」
と、唐突にトートバッグの中から、何やら幾つかのカラフルな小箱を取り出しながら言った。
「何だ? それ」
うのっちが、珍し気にひと箱、手に取ってみた。
「うのっちは無縁よね。こういうのは」
お佳が悪戯っぽく笑う。
「でも、今日が何の日かくらい知ってるでしょ? 竣は」
今度は、竣に話の矛先を向けた。
「ヴァレンタイン……か。もしかして」
竣が低い声で呟いた。
「そうよ。「LUMUNOUS」の特設会場で適当なもの幾つか見繕ってきたの。みんなでシェアして頂きましょう」
そう言うと、お佳はさっさと箱にかけられているリボンをほどき始めた。
それは、4個から9個入りの大小様々なアソートチョコレートの詰め合わせだった。
そのほとんどはベルギーチョコだ。
何とも贅沢な「友チョコ」である。
「あ、あのね……。私もみんなに持ってきたの。チョコレート」
今度は紅羽がそう言うとプラ容器を二つ、手元のバッグから取り出した。
「お佳みたいな高級チョコじゃなくて、私の手作りだけど……アーモンドチョコと、それとチョコチップクッキー。紙皿を持ってきたから、取り分けるわね」
そして紅羽も甲斐甲斐しく、容器の中のチョコレートとクッキーを大きな白い紙皿に移した。
そして、みんなで適当にチョコレートをつまみ始めた。
「うわっ! このチョコ、なんだよ! めちゃうめえ!」
うのっちがびっくりしたように開口一番、そう言った。
「お佳の持ってきたチョコはベルギーチョコだもの。美味しいはずだわ」
紅羽も一粒口にして、舌鼓をうつ。
「紅羽の手作りも、かなりイケルよ」
竣がフォローするように、さりげなく感想を言う。
「全く、紅羽のもお佳のもどれも美味いな」
次々と、色々なチョコにクッキーにと手を伸ばすうのっちに、
「うのっち。あんた少しは、遠慮ってものを知りなさい」
と、お佳は軽くぴしゃりとうのっちの右手を叩いた。
「いってーなあ。ヴァレンタインデーくらい良いだろ」
思わず抗議するうのっち。
そんな二人のいつもの自然なやりとりを、紅羽も竣も去年までなら微笑ましく見守っていただろう。
しかし今は。
お佳には遥人先輩という立派な彼氏がいる。
遥人先輩なら、お佳に充分相応しい相手だ。
それはわかっている。
しかし、紅羽も竣も、口にこそ出さないが、うのっちの胸中を思うと複雑な想いを禁じ得なかった。
「もうそろそろ昼休み、終わりだな」
その時、うのっちが手元のスマホを見て言った。
「そうね。アセンブリーの時間だわ。私、文士会、行かなくちゃ」
「俺もテニス部」
竣が、
「紅羽。お佳。チョコレートにクッキーありがと。どれもすごく美味かったよ」
と、言って席を立った。
すると、
「あ、竣。残りのチョコ、どれか持って行って。うのっちも紅羽も、好きなチョコ持って帰って」
と、お佳が勧める。
「悪いな。じゃあ、俺はこれ」
「俺はこっちのにしようかな」
「なら、私。この箱の残り頂くわね」
と、三人はそれぞれ残ったチョコを受け取った。
「私、ジップロック持ってきたの。余ったチョコとクッキー詰めるから、良かったら後でまた食べて。お佳もね」
そう言うと紅羽は、手際良く三枚のジップロックに、チョコとクッキーを詰める。
「紅羽。お佳、サンキュ!」
「マジ半端なく美味かったぜ!」
竣とうのっちが、嬉しそうに笑った。
「どういたしまして。お口にあったのならね」
「ほんとに美味しいんだったら良かったわ」
お佳はいつになく謙虚に、紅羽はホッとしたようにそう言った。
「紅羽。サークル棟行くだろ」
「うん。ちょっと待って」
竣の誘いに、紅羽が急いでグレーのチェスターコートを着て、バッグを手にする。
「じゃあ、お佳。宇野君。また明日ね!」
「またな」
そうして紅羽と竣の二人は、それぞれの部室が入っているサークル棟へと仲良く向かっていった。




