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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
103/160

シェアするヴァレンタイン・チョコ

香月よう子side

 季節は早、如月。


 その日、紅羽達いつもの四人は久しぶりに学食ではなく、カフェ「サティア」で昼食を摂っていた。


 そして、食後の珈琲タイム。


 お佳が、

「竣。うのっち。お待たせ!」

と、唐突にトートバッグの中から、何やら幾つかのカラフルな小箱を取り出しながら言った。


「何だ? それ」

 うのっちが、珍し気にひと箱、手に取ってみた。

「うのっちは無縁よね。こういうのは」

 お佳が悪戯っぽく笑う。

「でも、今日が何の日かくらい知ってるでしょ? 竣は」

 今度は、竣に話の矛先を向けた。

「ヴァレンタイン……か。もしかして」

竣が低い声で呟いた。


「そうよ。「LUMUNOUS(ルミナス)」の特設会場で適当なもの幾つか見繕ってきたの。みんなでシェアして頂きましょう」

 そう言うと、お佳はさっさと箱にかけられているリボンをほどき始めた。


 それは、4個から9個入りの大小様々なアソートチョコレートの詰め合わせだった。


 そのほとんどはベルギーチョコだ。

 何とも贅沢な「友チョコ」である。


「あ、あのね……。私もみんなに持ってきたの。チョコレート」


 今度は紅羽がそう言うとプラ容器を二つ、手元のバッグから取り出した。

「お佳みたいな高級チョコじゃなくて、私の手作りだけど……アーモンドチョコと、それとチョコチップクッキー。紙皿を持ってきたから、取り分けるわね」

そして紅羽も甲斐甲斐しく、容器の中のチョコレートとクッキーを大きな白い紙皿に移した。


 そして、みんなで適当にチョコレートをつまみ始めた。


「うわっ! このチョコ、なんだよ! めちゃうめえ!」

 うのっちがびっくりしたように開口一番、そう言った。


「お佳の持ってきたチョコはベルギーチョコだもの。美味しいはずだわ」

 紅羽も一粒口にして、舌鼓をうつ。


「紅羽の手作りも、かなりイケルよ」

竣がフォローするように、さりげなく感想を言う。


「全く、紅羽のもお佳のもどれも美味いな」

 次々と、色々なチョコにクッキーにと手を伸ばすうのっちに、

「うのっち。あんた少しは、遠慮ってものを知りなさい」

と、お佳は軽くぴしゃりとうのっちの右手を叩いた。

「いってーなあ。ヴァレンタインデーくらい良いだろ」

 思わず抗議するうのっち。


 そんな二人のいつもの自然なやりとりを、紅羽も竣も去年までなら微笑ましく見守っていただろう。


 しかし今は。

 お佳には遥人先輩という立派な彼氏がいる。

 遥人先輩なら、お佳に充分相応しい相手だ。

 

 それはわかっている。


 しかし、紅羽も竣も、口にこそ出さないが、うのっちの胸中を思うと複雑な想いを禁じ得なかった。


「もうそろそろ昼休み、終わりだな」

 その時、うのっちが手元のスマホを見て言った。

「そうね。アセンブリーの時間だわ。私、文士会、行かなくちゃ」

「俺もテニス部」


 竣が、

「紅羽。お佳。チョコレートにクッキーありがと。どれもすごく美味かったよ」

と、言って席を立った。

 

 すると、

「あ、竣。残りのチョコ、どれか持って行って。うのっちも紅羽も、好きなチョコ持って帰って」

と、お佳が勧める。


「悪いな。じゃあ、俺はこれ」

「俺はこっちのにしようかな」

「なら、私。この箱の残り頂くわね」

と、三人はそれぞれ残ったチョコを受け取った。


「私、ジップロック持ってきたの。余ったチョコとクッキー詰めるから、良かったら後でまた食べて。お佳もね」

 そう言うと紅羽は、手際良く三枚のジップロックに、チョコとクッキーを詰める。


「紅羽。お佳、サンキュ!」

「マジ半端なく美味かったぜ!」

竣とうのっちが、嬉しそうに笑った。


「どういたしまして。お口にあったのならね」

「ほんとに美味しいんだったら良かったわ」

 お佳はいつになく謙虚に、紅羽はホッとしたようにそう言った。


「紅羽。サークル棟行くだろ」

「うん。ちょっと待って」

 竣の誘いに、紅羽が急いでグレーのチェスターコートを着て、バッグを手にする。


「じゃあ、お佳。宇野君。また明日ね!」

「またな」


 そうして紅羽と竣の二人は、それぞれの部室が入っているサークル棟へと仲良く向かっていった。


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