ストーカーのマストアイテムは。
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「発信器ですか、それとも盗聴器ですか」
どこにしかけやがったと訴えているのがわかったのだろう。
「やだなぁ雛ちゃん。僕一般人だよ?ただのコーヒーショップの店長さん。
そんなもの簡単に手に入るわけないでしょう」
一見正論のようだが、実際にはどうだ。
「…秋葉原なら一万円も出せばそこそこな代物が手にはいるみたいですよ」
「え~?僕初耳」
「…ストーカー」
「ごめんなさい。ネタは明かせないけど少なくとも本当に盗聴器や発信器なんてもんじゃないから!」
安心して!とハンドルを握りながら力説する彼のどこに安心をすればいいというのだろうか。
「何かを仕掛けた事は否定しない訳ですね」
「えへっ」
「…」
こんな人だとは思わなかったとでも言ってやれば、この厚顔無恥な顔も多少は色を変えるだろうか。
「でも今若い子達に人気なんでしょ。ヤンデレ?だっけ」
「自分で認めるものではないと思いますが、それは俗にいう《但しイケメンに限る》って奴ですね」
「あ、じゃ僕セーフ。こないだ雛ちゃんが自分で言ったんだもんね、僕のこと女子にモテそうだって」
「少なくともイケメンとは言ってない」
「一緒一緒」
果たしてそれを認めていいものか。
「この車、本当にお店に向かってるんですよね…?」
「え?僕のマンションの方がいい?それならそうと…」
「言ってません。それ以上言うと警察呼びますから」
「勿論冗談です。ちゃんとお店に向かってます」
多少脅しは効いたらしいが、それでも安心はできない。
「もうそんなガチガチにならないでよ。悪いようにはしないからさ。
なんなら店についたらミッチイも呼んだっていいし」
「みっちゃんは今仕事中です」
当たり前だ。なにしろ平日の昼間である。
というか店の方はどうしたのかと聞けば、「個人経営ってこういうときは便利だよね」とあっさり白状した。
わざわざ臨時で店を閉めたらしい。
「ちゃんと二人で話し合ってさ、そてで夜になったらミッチイを呼ぼう。夕食くらい僕が奢るよ」
「夜までかかるほど話はないと…」
「僕にはあるから大丈夫!ほら、もう店が見えてきた」
そうして指差す先は確かに見慣れた店舗。
「僕にとって、彼処は自分の城みたいなものなんだ。一国一城の主、なんて聞いたことない?」
店の前に車を横付けすると、先に降りて助手席のドアを開き、雛子をエスコートする。
「さぁ、ようこそ僕のお城へ。美しい…お姫様?それとも麗しの魔女様かな?」
「魔女…」
まだそれをひきずっていたのかと一瞬イラッとするも、不意に脳裏に浮かんだのは昨日の夢。
どう贔屓目に見ても魔女としか言い様のないあの姿で、何故か毒殺された白雪姫のごとくガラスの柩に眠らされていたらしい、あれは…。
「まさか…店長さんが王子様だった?」
夢の続きはそういうことだったのか。
自分の深層心理とはいえあまりにストレート過ぎる。
「え、何々?なんの話?」
店の鍵を開けながら、聞こえてしまったらしい雛子の独り言に興味津々の様子だ。
「ただの…夢の話です。私が誰もいない部屋のガラスの柩に眠らされていて、目覚めた所で誰かが扉を開けて中に入ってくる…その寸前で目が覚めたもので」
「あぁ、眠り姫とかそう言うことかな。
ってことはもう少し長く夢を見続けてたら、現れた王子様は僕と同じ顔をしてたかもしれないってことか」
その言葉に、ぽんっと、自分の顔が赤くなるのがわかった。
「うわ。それってなんか凄く嬉しいかも。深層心理、だもんね?」
つまりは心の奥底ではいつも彼のことを王子様だと思っていたという…。
「死にたい…」
自分の脳内が恥ずかしすぎて。
「ふふ。なぁんだそっかぁ。僕は雛ちゃんの王子様だったのか」
だったらそれらしく振る舞わなきゃね、と笑った彼は、実に紳士的に店内へエスコートしてくれた。
羞恥に顔をあげられない雛子はその時の薫の表情を目にすることはなかったが、美智辺りがそれを見ていたらきっと容赦ないツッコミが入っていた事だろう。
『店長さんは王子様なんて上品なものじゃなく、赤ずきんちゃんを狙う狼のそのものでしょ』と。
読了ありがとうございました。