終焉の日
「そんな馬鹿な…!では、私達一族は、一体…!」
愕然と地面に膝をつくレオナルド。
それに哀れみさえも覚えながら、しかし雛子は真実を告げる。
「魔女と国王との間に生まれた子供は双子だったの。あなたは、そのもうひとりの血統を引く子孫」
「…二人…?」
そう。
魔女としての外見的な特徴を何一つ引き継がなかった息子だけを手元に残し、王は魔女と同じ紫の瞳を持った息子を闇に隠した。
歴史の流れの中で、その子供がどんな変遷を辿ったのかはわからない。
けれど、奇跡のような偶然の果てに見つけたのだ。
自分とあの子供、二人以外に魔女の血統を確実に受け継ぐ存在を。
紫の瞳を持つがゆえに迫害され、奴隷として生まれ育った一族の赤ん坊を。
「かつての王が成したことを表沙汰にするわけにはいかなかった。
けれど、その子が魔女の血をもつ以上、己の保護下に置く必要がある。
……それには、私たち二人の子供とすることが何より都合がよかったの」
だから、公式にはどんな文書を調べたとしても、その事実が判明することはない。
魔女と英雄、そしてそこに随行した少年。その3人しか知らない事実。
「もっとも、あなたが私の母親の血統を引き継ぐ以上、血のつながりは存在するし、あの子も、自らの家族を全て失って、ようやく見つけた己と繋がりを持つ赤ん坊を大切にしていた」
そうして隠された魔女の血は受け継がれ――――現在のレオナルドが存在する。
魔女は英雄を愛した。
しかしそれは―――――男女の愛とは、少し違ったのだ。
考えてみればそれは当然かも知れない。
魔女の魂は子に受け継がれる。
つまり、自身の母親である魔女の血統を引く子孫は、無意識であったとしても、彼女――セレナにとっては兄弟、いや我が子同然だったのだ。
しかし、そのことを彼女自身はもちろん、聖獣ですらも見誤った。
正しく理解していたのは、恐らくは英雄本人だけだったのかもしれない。
彼は魔女に愛を求めることはしなかった。
愛していなかったわけではない。
ただ、それを押し付けることをしなかっただけ。
英雄にとってもまた、魔女は恋人であり、姉であり、母であった。
失うには大きすぎる存在だった、そういうことだ。
「これでやっと、世界はあるべき姿に戻る」
雛子は微笑む。
その体から、先程とよく似た光がいっぱいに溢れだした。
まるで、体中に閉じ込めた蛍が、一斉に飛び出していくように。
「待っ……!!」
聖獣の体が、光の中でゆっくりと溶け出していく。
そして、雛子の――――魔女の身体も、また。
かつて魔女が封印したすべての瘴気――――魂が、世界へと還元されていく。
自身の体もまた、ゆっくりと崩壊を始めるのがわかった。
指先の感覚から徐々に消えてゆくのが分かる。
聖獣の存在がなくなり、封じ込めた魂が解放されたことで、時を止めていた魔女の肉体もまた、消滅を始めたのだ。
本来であれば、もっと早くになされるはずだったこと。
己の身のうちに、たった一つだけ、消えずに残っている魂の光を感じる。
あぁ、これが薫だと、雛子にはわかった。
魔女にとっての父親がわりであり――――誰よりも、愛おしい人。
『帰りましょう、薫さん』
淡い光に包まれ、すでに己の唇さえも満足に動かなくなる中、瞼を閉じた雛子は、己の頭の中に浮かんだ薫の姿に向かって手を差し伸べる。
幻の中で、薫もまた雛子の手をとり、笑った。
「帰ろう、雛ちゃん」
はい。
「魔女様―――――!!!」
崩れ落ちていく魔女の肉体を崩壊から守ろうと、去っていく光をかき集めるかのような仕草をみせるレオナルド。
そんなことをしても無駄なのに。
哀れだ。
けれど、もうどうしてあげることもできない。
自分は選んでしまった。
この世界を捨て、彼と共に生きることを。
例えそれが、家族を――己の分身とも言える魔女たちを、見捨てることであったとしても。
『さよなら』
―――――もう、私は魔女じゃない。




