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世界の贄

魔女とは何か。

それは本来、「世界の調停者」であることが正しい。

その為の寿命であり、その為の力。

けれどその均衡は破られ、結果的に魔女の死が、世界を崩壊させるきっかけを作る。

理由は簡単だ。

魔女は調停者、つまり、世界のバランスを取る存在。

世界に存在するエネルギーをコントロールし、身の内に取り込んで力を得る。

そんな存在が、大量に存在しなくなったとしたらどうだろう。

食物連鎖の中で、天敵のいなくなった生物は確かに繁栄する。

だが、その繁栄は殆どの場合長続きはしないのだ。

それが人の世でも起こった、それだけのこと。


彼女が「魔女」として目覚めた時、既に周囲に彼女以外の「魔女」は存在しなかった。

それゆえに、彼女は「魔女」がどうして生まれてくくるのか、「魔女」とはなんなのか、それすらも知らなかった。


だからこそ、憎みながらも己と同じ姿をした人間を、見捨てることができなかった。

聖域に入り込んだ異物。

かつて魔女を陥れた王族の血を引く子供を――――――。



「セレスアテナ」

それは、人の子の崇める女神の名だ。

あの子供が付けた、彼女の名。



                       ※



しかし、随分と馬鹿な真似をしたものだ。

レオナルドが<あの子>の生まれ変わりなどということがありうるはずもない。

それどころか、魔女との子孫の中に生まれ変わるという伝承が正しいとすれば、彼は永遠に蘇るはずがないのだ。

なぜなら、魔女とかの者の間に、子など<存在はしなかった>のだから。


「レオナルド」


雛子が降り立ったのは、かつて聖域と呼ばれた場所。

魔女の血を引くものだけが鍵を持つ、封印の地。

そこに、レオナルドは立っていた。

「魔女様……おいでいただけたのですね」

微笑むレオナルドの周囲の草が焼け、煙が立ち上っている。

彼が、火を放ったのは一目瞭然だった。

レオナルド以外、ここに立ち入れるものはいない。


「馬鹿な真似をした、とは思わないの?」


「後悔などございません。……あなた様さえ、留まって下さるのであれば」

雛子さえ――ーいや、魔女さえそこにいればいいと言い張る傲慢。

その傲慢さを、彼女はよく知っている。



「昔、愚かな王がいた。

古の魔女に恋焦がれ、彼女を手に入れるべくすべての魔女を陥れ――そして自らも滅びた」


今のレオナルドは、かの王と同じ顔をしている。

――ー同じ血をひく、一族。



「あなたは本当は気づいているんじゃないの?自分が、魔女と英雄の子孫などではないことを」


真実は、必ずどこかに語り継がれているはずだ。

あの子供が、わざと真実を捻じ曲げたとは思えない。

どこかで、偽りが真実にすり替えられた。


古の魔女の一人と、かつて彼女を陥れた王との間に生まれた一族の、直系。

ただそれを、隠蔽するために。


確かにレオナルドは魔女の血を継いでいる。

だが、それはかつての雛子ではなく、別の魔女の血。


雛子―――――いや、セレスアテナと名付けられた魔女の、母親の血だ。


「聖獣の骸は、この手で始末いたしました。…もうあなたを、あちらに連れ戻すものはいない」

昏く微笑むレオナルドは、やはりすべてを承知していた。

「聖獣が鍵だと、どうして気づいたの」

「あの台座に施された仕掛けを読み解きました。あなた様の魂を異界に封じるための結界。その為の贄」

「封じられたんじゃない、彼は私を逃がしたのよ」

この世界という檻から、彼自身の魂も共に。

それが雛子であり――――――薫だ。

「魔女はこの土地に縛られた存在。瘴気とはなんだかわかる?怒りと憎しみで呪われた魔女の魂よ」

本来であれば浄化され、再びこの世界に誕生するはずの魔女の魂。

それが怒りと憎しみによって浄化をなされず、この地にとどまった。

それ故に生まれたのが瘴気であり、魔獣だ。

彼らは、魔女の魂の成れの果て。

そして、聖獣もまた同じ。

もともと、魔獣と聖獣とは、同じ生き物。

憎しみの魂から生まれるのが魔獣だとすれば、自然界の中で浄化されずに残ったわずかな魔女の魂のかけらから生まれた存在が聖獣。

薫は聖獣を自ら魔女に作り出された愛玩動物と貶めたが、それは違う。

魔女にとって、聖獣とはかつて自身の魂の一部であり、家族の魂の一部であった存在。

故に魔女は聖獣を愛し、彼らの安寧を望み数々の実験を行った。

聖獣に番を持たせることも、そのうちのひとつだ。

彼らは魔女による品種改良の結果繁殖能力を失ったのではない。

そもそも、繁殖することのできる<生物>ではなかったのだ。

聖獣は魔女の魂の欠片。

死すれば再び魂は世界に還元され、今度こそ完全に消滅する。

そして還元された力は純粋なエネルギーと変わり、この世界を維持し続ける。

言葉を悪くすれば、使い捨ての消耗品。

魔女の魂は生まれるたびに疲弊し、搾取され続ける。

それが、魔女の運命。

魔女はそれを知り――哀れなことに、聖獣はそれを知らない。

いや、あえて知らせることはなかったのだろう。



魔女とは、消しゴムのケシカスのようなものだと思ってもらえばいい。

本体から削り取られたかけらが、やがて再びまとまって形を得る。

そしてそこからまたかけらが削り取られ、僅かに小さくなって再生する――――その繰り返しだ。


人のように輪廻の輪に加わることすらできない、残酷な、連鎖。



「正確には、魔女には子は生まれない。

魂を引き継ぐもの、それが子と呼ばれるだけ。――――――つまり、魔女である限り、親と子が同時に存在することはありえないの」

なぜならば魔女の子は、親の魂を引き継いで生まれてくるから。

「けれど、ごく希な確率で魔女が人の子を孕むことがある。――――それが、あなたたちの祖先」

あの、子供だ。



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