再誕
「まだ…まだ病院は決まらないんですか?!」
運び込まれた救急車の中、一緒に乗り込んだ雛子を乗せて走り出した救急車だが、その行き先がなかなか決まらない。
既にコンビニにあったAEDを使用し、なんとか心拍停止だけは免れていたが、それでも既に危険な状況だ。
突然倒れたということから見て心筋梗塞が疑われ、搬送先の病院を探しているのだが、それがなかなか見つからない。
救急隊も必死に病院にあたってくれているようだが、結局搬送先が決まったのは10分以上経ってのこと。
その間にも、薫の脈拍はどんどん弱ってきている。
「薫さん…薫さんしっかりして…!」
たくさんのコードに繋がれ、だらりと落ちた腕を必死に掴み、祈る。
どうか、どうかこの人を…!
『死なせたくない。どんなことをしてでも、絶対にーーー!!』
ぐっと、力を込めて抱いたその腕が、ぴくりと動いた。
まだ、救急隊員の誰もがそれに気づいていない。
脈拍にもなんの変化も見られない。
だが。
「薫……さん……?」
「おい君、申し訳ないが少し離れて……」
覗き込んだ雛子を、救急隊員がやんわりと静止する。
その手が、雛子の肩を掴んだ刹那。
「…うわぁぁぁぁ!!!」
「なんだ!?」
ドンッ、っという強烈な衝撃とともに、救急隊員の男性が、腹に鉄球でも当てられたかのような勢いで一気に吹き飛んだ。
衝撃で車が揺れ、慌てて一時停止する。
「どうした!?何があった!」
電話をしていた別の救急隊員が慌てて駆けつけるが、吹き飛んだ男はピクリとも動かない。
「なんだこれは…スタンガンでも持っていたのか…!?」
「そんなわけはない!俺は見ていたが、その子は何もしてなかったぞ!?」
「じゃあ一体何なんだ…!!」
混乱する社内。
先ほどの大きな揺れで、薫に繋がれていた点滴の一つが外れ、地面にポタポタとこぼれ落ちる。
「わ…私は何も……!?」
何が起きたのか誰にもわからない。
もう一度、別の隊員が雛子にむかって慎重に手を伸ばす。
その手が、下から伸びた青白く細い腕ににぐっと掴まれた。
「薫さん…!?」
「……!!そんな!脈拍は、確かに弱まったままだぞ!?覚醒できるレベルじゃない!」
「…離してくれ…頼む…うっつ…!!」
「おい、大丈夫か、その手を離せ!!」
「薫さん…やめてください…!!薫さん!!」
確かに意識を失ったままの薫。
なのにその腕だけがまるで別の意思を持っているかのように動き、隊員の男の腕を締め上げる。
男の顔に、恐怖の色が浮かんだ。
別の隊員が慌てて薫の腕に駆け寄り、その腕を外そうとするが、びくとも動かない。
次の瞬間だった。
「おい君、どうなってるのかなにか……あぐ!?」
再び雛子に詰め寄ろうとした隊員を巻き込んで、隊員全員が、地にひれ伏した。
皆が首元を抑え、真っ青な顔付きをしている。
ーーーこれはなに?
薫さんが、これをやってるの…!?
「やめて…!薫さんお願いだから…!こんなことしてたら…あなたが死んじゃう…!!」
今は一刻も早く病院につかねばならない、だというのに…!!
『 な ぜ、 悲し む……? 』
「え…?」
『 お前に、触れた。人など皆滅んでしまえと、お前が 望んだのに 』
「か…おる…さん…」
『我は お前を お ま え の 』
頭の中に響く声。
人の声ではなく、まるで合成音のような感情のない音の集合。
「……そんな……」
目の前に、信じられない光景があった。
「聖獣……」
――――あの日見た、美しい獣の姿が、そこにはあった。




