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めりーくまーず

「雛ちゃん……!いっそこのまま家に連れて帰りたいっ!!」

「あらぁ、店長さんったら相変わらず私のことは眼中にないのねぇ…ふふふ…」

「いやいや、お嬢さんもお似合いだよ。僕の目は正しかった。眼福眼福」

じゃじゃーんと登場した二人に、素直に拍手を送る純也、そして雄次郎。

瞳をきらきらさせてじーっと雛子を見あげているのは慶一。

登場早々、雛子を抱きしめようとして鉄槌を食らっているのが安定の薫だ。

「ひよちゃん、きれい!おにんぎょーのおねーちゃんも!」

「お姉ちゃんのことは、みっちゃんでいいわよ~?」

「みっちゃん?」

「ええ」

ぱぁぁぁっと顔を輝かせた慶一が、「みっちゃんきれい!」と改めて言い直す。

「可愛いわねぇ~。本当に持って帰りたくなっちゃう」

美智に抱きしめられ、慶一も嬉しそうだ。

「まずはメインのケーキよねぇ。一つは私の買ってきたケーキと…」

「めりーくまーずなの!」

「……めりーくりすます…?」

「ちがうの、めりーくまーず!」

主張する慶一。

「ふっふっふ。実はねぇ、おじさんが気合を入れて特注で頼んできたんだぁ~。見よ!この愛らしいフォルム!完璧なる3Dケーキ!」

「「「うわぁぁ……」」」

雄次郎が持ってきたケーキの蓋を開けた瞬間、慶一以外の大人3人が本気でドン引きした。

なぜならそのケーキは、確かに見事な立体の……。

「木彫りの熊……」

口には鮭ではなくなぜか一升瓶の酒を加えている。

ダジャレのつもりか……?

酒にはしっかりラベルらしきものまで付けられ、酒の銘はその名も「#久里寿鱒__くりすます__#」。

「くまーなの!」

「……確かに、熊だね……」

「……大人の悪ふざけって、こういう事を言うのねぇ……」

まだまだ甘かったみたい、となぜか反省する美智。

「というかこれ、どうやって食べるの……?」

「解体か……?」

「くまーは食べちゃダメ!!」

「……どうするよ」

むしろ、どうしてくれると雄次郎を見る。

「いやいや、これがだね、実は真ん中でキレイに分かれるようになってるんだ。割ると中からは真っ赤なラズベリーソースが…」

「それ以上はやめてください子供の前で」

「え?ケーキの話してただけ…」

「……目の前で切ったら一生のトラウマになりそうなケーキね……」

皿の上にクマの惨殺現場が出来上がってしまう。

「こっちのケーキは慶一君の見えない場所で切ってから出しましょ。先に私の方を…」

「うん、そうした方がいいと思う……」

「うちの父が本当にごめん…!僕泣きたい」

こんな大人にだけはなりたくないな、と皆一様に思った。

ひとまずリアル木彫り熊は後回しにするとして、料理の準備を終わらせると、パーティーはようやく本番となった。

「Merry Xmas!」

ぱんぱん!

雄次郎が持ち込んだクラッカーが勢いよく鳴らされ、ひらひら揺れる紙吹雪に慶一がパチパチと拍手する。

「いやぁ、息子とクリスマスパーティーなんていつぶりかなぁ。おじさん嬉しい!それに可愛い義娘と美人なお嬢さんが一緒だなんて萌えるよね!」

「…堪えて、堪えて薫兄…!!」

拳を握り、今にも雄次郎を殴り倒しに行きそうな薫を一生懸命抑える純也。

乾杯を終え食事が始まったあとも、薫は一人どんよりよどんでいた。

「大丈夫ですか、薫さん……?」

「大丈夫じゃない、今すぐ帰りたい…。ミッチィと三人でパーティーしたい…」

ぐすん、と言いながら雛子の胸元に顔をうずめようとし、即効で殴られる。

「まぁ、予定とはだいぶ変わっちゃったけど、これはこれで楽しいじゃないですか」

「…そう?……まぁ、雛ちゃんが喜んでくれるならいいけど……」

「楽しいですよ。料理も美味しいし」

「ありがと……」

「これ、お店で出す予定ですか?」

「ううん…。これはコストがかかりすぎて採算が取れないから…。今日だけ特別」

「美味しいです。また…作ってくれます?」

「うん!!雛ちゃんになら毎日だって!」

「毎日はさすがにちょっと」

薫の作ったビーフシチューはなかなか本格的で、雛子も笑顔だ。

そんな雛子に乗せられて、すっかり薫の機嫌も治ったらしい。

ケーキ二つもなんとか取り分け、(熊ケーキは後ろでこっそり解体した)それもあらかた食べ終わった頃。

「では、ここでプレゼント交換と行こうじゃないか!まずはおじさんからいっちゃうぞ!」

はい!っと、雛子と美智、慶一と純也、それに薫にも、それぞれひとつずつプレゼントが行き渡る。

「えっと…私たち、交換するプレゼントなんて持ってませんけど……」

一応慶一の分と、美智、薫の分はあるが、さすがに急遽参加の決まった純也と雄次郎の分までは購入していない。

「いいのいいの、僕の気持ちだから!」

さぁさぁあけて!といわれて、まず先に慶一が包みを開いた。

「わぁ!くまーだ!!」

驚くことなかれ、先ほどの木彫りの熊のミニサイズのぬいぐるみだった。

「売れるかな?これ」

「……やめたほうがいいと思います」

「だよね」

わかってるならやるな、と声を大にして言いたい。

いくらデザイナー雑貨だからといって、これはない。

この調子では、自分たちの分も一体何が入っているのか……。

「あ、我が息子の分は今開けるなよ~。家に帰ってからのお楽しみ!ひよこちゃんのもね!」

「………」

「私は開けてもいいのかしらぁ…」

「勿論!」

「…あ、可愛い。ブレスレッドね」

包みを解いて現れたのは、細いシルバーのブレスレッドだ。

雪の結晶をイメージした細かなチャームが一周ぐるりと飾られている。

雄次郎の店の商品だろうか。

「俺のは………」

純也のプレゼントの中身はベルトだった。

しかも、どこか見覚えのあるデザインだ。

「仮面ラ○ダー……?」

「実はバックルのデザインをバン○イと提携してみたんだ。こっちは来年からきちんと販売する予定でね~」

「……ありがとうございます」

さすが男の子、純也は結構嬉しそうだった。

こうなると雛子と薫のプレゼントも気にはなるが、後で開けろと釘を刺されている。

家に帰ってから、と言われているあたり、嫌な予感がしないでもないが。

「じゃあこれ……私とみっちゃんから、慶一くんへ」

「ありがとう、ひよちゃん、みっちゃん!!」

渡したのは、ドラ○エの巨大スライムが描かれた子供用パジャマセットだ。

早速着ようとして純也に止められている。

「すみません、プレゼントまで……、じゃあ、これは俺から…」

そう言って純也が出したのは、揃いの二つの時計。

「あ、これデパートで販売してた奴と同じ…」

「俺の作品で申し訳ないんですけど、これが一番売れてるものなんでよかったら……」

「でもこれ確か結構な値段が……」

「どうせ材料費だけですから気にしないでください」

確かに、作った本人ならそうだろうが、いいのだろうか。

取り扱っている張本人が横に居るが、そちらは全く気にしていなそうだ。

「薫兄には後で別なのを渡すから」

「…期待はせずにまってるよ。…じゃあ、次は僕ね。はいこれはミッチィ。行きたがってた舞台のチケット」

「え!?取れたんですかぁ!?素敵!」

きゃぁ!と差し出されたチケットに飛びつく美智。

「雛ちゃんにはこれ」

「……なんですか?これ」

「ディ○ニーランドのペアチケット」

にこにこにこと、満面の笑顔で答える薫。

これはあれか、プレゼントにかこつけたデートのお誘いということか?

「僕、いつでも予定は空いてるからね!」

「……空いてるもなにも、今ほとんどずっと一緒にいるじゃないですか……」

だが、前回行ったのは一体いつになるだろう。

確かにちょっとだけ行ってみたい気もある。

「ありがとうございます……」

「うんうん、いつでも誘ってね」

ペアでプレゼントしておきながら、自分以外を誘わせるつもりは皆無らしい。

「私とみっちゃんから薫さんへのプレゼントは、ロイヤルコペンハーゲンののコーヒーカップです。店では使えないかもしれないけど、個人的に使ってもらえたら…」

「ちなみにペアよぉ。もう片方は…ふふふ」

言わずもがなといったところだ。

「ありがとう二人共…。じゃあ雛ちゃん、今日おうちに帰って一緒に使おうね!」

カップの包みを胸に抱いて、ルンルン気分だ。

先に疲れて慶一が眠ってしまい、それを連れ帰るために純也が離脱したことで、そのままパーティーはお開きとなった。

美智と雛子は既に衣装を着替え、片付けを始めている。

美智は意外と衣装が気にったらしく、持ち帰る気でいるようだ。

「この衣装……また後で着てくれる?」

衣装を畳んだものの、どうしようかと考えていた雛子の耳元で、薫が囁く。

「来年も、またみんなでパーティーが出来るならいいですよ」


ええ~~!!!!!



ふたりっきりがいい!とダダをこねる薫に笑いながら、「さ、後片付けの時間ですよ」と彼をせき立てる。



テーブルの上にまだ、騒ぐだけ騒いで逃げていった雄次郎の置き土産があることだけが不安の種だ。


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