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めりーくるしみます

雛子と薫、そして美智。

三人で行われるはずのクリスマスパーティーがなぜこんな事態になったのか。

その元凶は、何を隠そう薫本人だった。

「ダメ!その日は絶対にダメ!」

「何も一日貸してくれって言うんじゃないんだ、昼間のほんの数時間ならいいだろ?」

「駄目!!」

腕で大きなバツを作り、断固として拒否の姿勢を見せる薫。

「慶一がどうしても望月さんとクリスマスパーティーをするってきかないんだよ…。

少しくらい譲ってくれたって…」

「断る!」

取り付く島もないとはまさにこのことだ。

事の起こりは数日前。

店に遊びに来た慶一を可愛がる雛子に、何気なく薫が言った「クリスマスケーキ、ミッチィどんなの予約したか聞いてる?」の一言。

薫としては、他に客もいなかった為、「僕と雛ちゃんは一緒にパーティーするんだぞ」という慶一への大人げない牽制も含めて声をかけたつもりだったのだが、幼児にはその牽制はまったく通用しなかった。

「ぼく、あかいのがいい!さんだんの、ひしもちみたいなの!」

「…菱餅…?どこでそんなの…って、慶一!お前に聞いてるんじゃないの!ね、雛ちゃん!」

「りかちゃんのおうちにかざってあったもん!」

「それは今聞いてないから!」

さすが幼児、雛祭りを密かに羨ましく思っていたらしい。

大人になれば興味も失せるだろうが、色位鮮やかなひな飾りはさぞ物珍しく写ったことだろう。

なぜ今それを思い出したかは謎だが。

「確か、チョコレートケーキだって聞いてますよ。ガトーオペラ?だったかな」

「おぉ~。なかなか渋い選択だね、さすがミッチィ」

「自分じゃ絶対作れないケーキだから選んだって言ってましたよ」

ちなみに一口サイズのチョコレート1個が500円近くするお店のクリスマス限定品だ。

クリスマスくらい本物志向で行きたいというのが美智のモットーである。

「ひしもち…」

「それは来年のひな祭りまで待て」

「本物を食べたいわけじゃないと思いますけど…」

残念そうに未練を口にする慶一に、その場は笑って済まされたのだが…。

「…は?慶一が雛ちゃんとパーティーするって聞かない?」

「…薫兄、なんか慶一を煽るようなこと言わなかった…?普段滅多にわがまま言わないくせに、なんか妙に薫兄にだけ張り合いたがるというか…」

困ったように首を傾げるのは毎度お馴染みの純也。

「一応ダメだとは言ったんだけど、強めに叱ったら泣いちゃってさ…。今は母さんが面倒見てるよ」

「薫さん……」

確実に、これは薫が悪い。

「昼間、1時間でもいいんだ。うちに来て慶一とケーキを食べてもらえないかな…?」

「私は別にいいですけど……」

そのくらいのことならお安い御用だ。

「ケーキとかは全部こっちが用意するから、身一つできてくれれば…」

「プレゼントくらい買っていきますよ。…慶一くん、何か好きなキャラクターとかありましたっけ…」

「!駄目!ちょっと雛ちゃん!なに行く気でいるの!?甘やかしちゃダメだって!」

「でも」

「でもじゃないの!そうやって甘やかすから付け上がるんだよ!?」

「…それ、薫さんの言えたセリフですか…?」

「僕はいいの!!」

わが身を振り返ってみろと言われたも同然の薫はあっさりと自分だけ例外にすると、「絶対ダメ!」と繰り返す。

「いいじゃないですか、1時間くらい…」

「僕が嫌なの!クリスマスはボクと雛ちゃんとミッチィの三人でって決めてたでしょ!?先を越されるみたいでイヤ」

「…そんなわがままな」

減るもんじゃなしに、と純也と共に説得するが聞く耳持たない。

「それならいっそ、慶一君もパーティーに呼びますか?子供一人くらいなら…」

「それもダメッ!!なんでそうなるの!?」

「なんでもへったくれもありません。大人なら妥協してください」

「くっ……!」

雛子を短時間貸し出すか、折角のクリスマスがコブ付きになるか。

…そこまで悩むほどか…?

ピロリン!

スマホの着信が鳴ったのは、純也だった。

「…おじさんからだ…」

着信名に、ちらりと薫の顔色を伺った純也。

嫌な予感がする。

「おじさんってまさか……」

薫と二人、顔を見合わせているうちに、「仕事の話かも知れないから、ちょっとごめん」と、着信を取る純也。

そういえば、純也は雄次郎の抱えるデザイナーの一人だった。

仕事の話、それだけならいいが…。

「なんか嫌な予感がするんだけど、僕」

「…同感です」

そして、その嫌な予感はばっちり的中した。

「薫兄…。おじさんが、慶一や望月さんを誘ってみんなでこの店でクリスマスパーティーをしようって言い出してるんだけど…」

「「……はぁ!?」」

「え?なに?薫兄に変わってくれって…?」

「もしもし!!ちょっと、誰の許可を得てそんな……は!?ちょっと待…!!」

ツーツーツーツーツー。

「あぁ!!ちょと薫兄!それ俺のスマホ!!」

「あのクソ親父っ!!」

思い切りスマホを投げつけようとした薫の手を、淳也が必死になって掴んで止める。

「……薫さん……?」

「あの親父、人の話も聞かずに切った…!!しかも今からこっちに来るって…!」

「…うわ」

ちょっと、今から帰らせてもらってもいいだろうか。

あれからほぼ毎日薫の店を手伝っているのだが、今回ばかりは話が別だ。

怒りに満ちた表情の薫が、額に青筋を立てながらも、雛子にだけはそれを見せまいと顔を引きつらせて言う。

「…雛ちゃん、帰ったほうがいいよ…。家で待ってて…」

「…そうします」

薫としても、雄次郎と雛子を合わせたくはないようだ。

そうして、先に家に帰った雛子だったのだが、その結果がどうなったのか…。

それは言うまでもない話だ。


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