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ハローワークは出会いの場?

感想コメントお待ちしてます!よろしくお願いします。

「付き合っていた同僚が社長令嬢とできちゃった結婚の挙句、職場にて令嬢直々に式の招待状を頂いたので、邪魔者はさっさと消えろという意味かと思い辞職届を書かせていただきました」

ただ、聞かれたことの答えをそのまま返したつもりだったのだが。

その瞬間、ハローワークの窓口が一気に凍りついた。

背後に立っていた事務職の女性もぴたり、と脚が止まっている。

「…え~と…では自己都合ということで…手続きの方はさせていただいてよろしいでしょうか…?」

「よろしくお願いします」

年配の担当者は、書類に目を落とすふりでそっと雛子から目をそらし、書類にぽんっと印を押す。

「失業手当の支給は3ヶ月後からになりますので、4週間に一度の認定日には必ず失業状態の申告を行ってください。手続きを怠りますと、手当が受けられなくなる可能性があるのでご注意ください。

また失業保険を受けている間は、定められた回数分の就職活動実績が必要になりますので、ハローワークにお立ち寄りの際には、その印を受けるこも忘れずに…」

お決まりのセリフだけによどみなくスラスラと説明したあと、ちらりと雛子を見た担当者は、そこでこそっと声を潜めた。

「あの…もしよろしければそちらの勤めていた会社に連絡をとって、特定受給資格者として認定できるようこちらから訴えてみることもできますが…」

特定受給者とは会社側の都合でクビになった人間を意味する。

つまり、今回の退職理由は自己都合ではなく、会社からの圧力による強制的な退職であるとして正式に直訴をすることもできるという話だ。

その場合3ヶ月を待たずにすぐ失業保険を受け取ることができるという。

実際にそれで認定を受けられたケースもあると説明され、どうしますかと尋ねられた。

担当者の背後では、話を聞いていたらしい女性職員が、「今すぐ電話しましょう!」とでも言わんばかり熱意に満ちた顔でこちらを見つめている。

…彼女も何か過去にあったのだろうか。

非常に親身になってくれているところ申し訳ないのだが。

「…すみませんが、会社から直接何かを言われたわけではありませんし、今回は自己都合ということで結構です。

…借りは自分で返しましたので」

「…そ、そうですか…。では今日の手続きはこれで…。

後ろのファイルをご覧になってなにか気になる職場などありましたら、また声をかけてください…」

明らかに怯んだ様子の担当者に丁寧に頭を下げ、その場を後にする。

一応、このあとは簡単にだが求人情報を確認していくつもりだ。

溜まっていた有給を最後に全て使わせてもらったため、1ヶ月程度は働かなくても同じだけの給料が入ってくるが、急ぐに越したことはない。

大切なのはタイミングだ。

パソコンででも求人情報を見ることは出来たが、生憎席は一杯。

まずは新着の求人だけチェックしていこうと、ずっしりとした新着ファイルを手に取る。

手にしたファイルを眺めながら空いている席に腰かけた雛子だったが、その肩を背後からぽんっと叩かれ、ビクッと跳ね上がった。

「ね、お嬢さん。接客業とか興味あったりする?」

「…は?」

振り向けばそこにいたのは一人の男性。

年齢は…正直よくわからない。

掛けられた軽い声のわりに雰囲気は落ち着いたもので、40代より若いということは無いように思う。

どこかで見たことのあるような気もするが…恐らく初対面だ。

「ごめんね、さっきの話ちょっと聞こえちゃってさぁ。なんか面白そうな子だなぁって。

仕事探してるんでしょ。僕こういう者だけど、良かったらウチに来ない?」

そう言って差し出されたのは一枚の名刺。

「ここに書いてある《代表取締役 浅井雄次郎》ってのが僕ね」

差し出された名刺を眺める雛子の手元を覗き込み、店名らしき名前の書かれた箇所のすぐ下を指す。

にこにことした笑顔で、「労働条件は応相談!でも正社員雇用は約束するよ」と肩を叩かれ反応に困る。

もらった名刺にもう一度視線を戻し、一体どうするべきか考えた結果。

「あ、こら!無言で僕のポケットに戻すんじゃない!ここは最低限前向きに検討すべき所だと思うな!」

「じゃあ、それで」

「だーかーらー戻すな!…本っ当に面白いね、君」

「有難うございます?」

「そう思うならちょっとくらい話を聞いてくれても?」

「前向きに検討させていただきますね」

それじゃ、と笑顔で立ち去ろうとする雛子だったが、「待てって!」と呼び止めるその顔に、一瞬「あれ…?」と妙な既視感を覚える。

昨日も同じような事があったからだろうか?いや…。

「…浅井?」

立ち止まった雛子に、話を聞く気になったのかと喜色を浮かべるその顔。

似てる…?まさか、こんな偶然があるのか?

「…浅井薫」

「え?なにお嬢さん、薫の知り合い?」

ぼそりと呟いたその名前に、男の口から思いの外嬉しそうな声が返る。

しまった。大当たりだ。

「なんだそれなら話が早いや。もし気が変わったらいつでもいいから薫に伝えてよ。待ってるか…ら?」

そこまで言ってから、今度は男の方が何かに気付いたように雛子をまじまじと見つめ、「あ!」っと叫んだ。

「もしかして、お嬢さんが例のひよこちゃん!?そうでしょ」

「ひよ…はい?」

十中八九それは自分で間違いなかろうが、できれば聞かなかった事にしたいと否定の意味を込めて聞き返す。

「あーそーかそーかーお嬢さんか!」

だが、相手は雛子の言葉など聞いちゃあいない。

うんうん、と一人納得した様子で嬉しそうに雛子を眺めていた男だが、これまた突然「あちゃ~」と声をあげたかと思うと、大袈裟に天を仰ぐ。

「しまった。アイツのひよこちゃんを横取りしたなんて知られたら何を言われるかわかったもんじゃないぞ…。

やっぱり薫に伝えるのはナシ!そこの名刺に番号があるからそっちに電話して。なんなら僕のスマホに直通の番号を教えるから赤外線で…」

そう言って胸ポケットからスマホを取り出そうとするのを速攻で止める。

「いや、ですから結構」

「えぇ~。薫のひよこちゃんだって気づいちゃったら余計見逃せないんだけどなぁ。

ほら、なんならお義父さんって呼んでくれても…」

そこまで言った所で、不意にスマホの着信が鳴った。

雛子ではない。

目の前の男の持つスマホからだ。

「ちょっと失礼」

そう言って着信を取るため外に出ていく男。

雛子もまたこの機会に逃げ出してしまおうと考えたが、今すぐここを出ては入り口で再び遭遇してしまう事は必至。

少し考えて、手が空いていそうな先程の事務の女性に声を掛けた。

「あの…」

「はい?…あ、やっぱりさっきの件考え直して…!」

「違います」

即答してから改めて声をかけ直す。

「すみませんが、こちらって裏口とかありますか?」


読了ありがとうございました。

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