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聖獣の骸

神殿、というよりもそこは聖堂と行ったほうが正しいのかもしれない。

ほんの数分でたどり着いた場所は、確かに見覚えのある部屋だった。

「ここで…眠ってたんですか」

見覚えのある台座の前に立ち、じっと見降ろす。

「その通りでございます」

「…こんな所で…」

数百年もの間、本当に眠っていたというのか。

「我ら一族はずっと、あなた様のお姿を見守ってまいりました」

今となっては、居心地の悪い話だ。

「なんで…この場所だったんだろう…」

棺の乗せられた台座以外何もない、ある意味殺風景部屋だ。

いっそ、墓だと思えば当然なのかもしれないが。

「この台座って…初めからあったんですか?」

「さて…どうでしょうなぁ…」

ずいぶん昔の話で、そこまで伝わってはいないらしい。

台座の側面には、神殿に描かれたエンブレムと同じ、獣と女神―――否、魔女の姿。

直接彫りこまれているようだが、実に精緻だ。

触ってみてもいいだろうか?

台座を壊せ、そう言われても、まずその方法を考えなくてはいけない。

闇雲にたたいて壊れるような代物ではないだろう。

咎められることがないのを見て取り、台座の前にしゃがみ込むと、彫刻の獣に指で触れた。

ぴくり、と震える指。

一瞬、何かが身体の中に流れ込んできたような、そんな感覚があった。

―――何?

もう一度、今度は慎重に、彫刻に手のひらを押し付けてみる。

すると。


「!!!なんと………!こんなことが……」


ジョサイの慌てふためく声が聞こえたが、雛子の耳にその声はほとんど届いてはいなかった。

目の前で、さらさらと砂のように崩れ落ちていく台座。

そこから現れたのは。


「………聖………獣………?」


「おぉ…まさか…このようなところに…」


ライオンにも似た姿ながら、それよりもさらに数倍大きな白銀の獣。

雛子の知るどの動物とも異なる特徴を持ち合わせた一匹の獣が、そこにいた。

「死んでる…の?」

ピクリとも動かないその体。

今までずっと台座の中にいたのだとしたら、生きているのだとは思えない。

「聖獣は…魔女王を守って命を終えたと…」

そう。少なくとも、伝承では死んだと伝えられていたわけだ。

だが。

「…お前は…………」

本当に、死んでいるの………?

「…雛子様!」

獣に触れようとした雛子へジョサイが鋭い声をあげる。

だが、その動きを止めようとは思わなかった。


これは、<私の獣>だ。


すっと、伸ばした手が獣の体毛へ触れた瞬間、わかった。

「そう…お前は待っていたのか」

――――私の戻りを。

ならば。


「戻っておいで、私の獣」


呼びかけた雛子に従うように、獣の体毛が、ぼんやりと輝き始める。

瘴気を払う、白銀の聖なる輝き。

横たわる獣の体に起こる変化に、ジョサイはもはや声もない。

雛子はその開かぬ瞳の前に立ち、確信をもって呼びかけた。



「薫さん」



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