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事実は小説よりも奇なり

雛子の返事を聞き満面の笑顔になったジョサイは、早速手配を、と一旦部屋を出、すぐに戻ってきた。

「お待たせいたしました」

「いえ…」

むしろあまりに早く戻ってきたので驚いた。

所詮雛子の意思など初めから聞くつもりがなかったのではないかと勘ぐりたくもなる。

「そういえば雛子様は、この老いぼれに何か聞きたいことがあるとおっしゃっていたとか…。

答えられることなら、なんでもお答えいたしますぞ」

思う通りに事が進んで満足したのか、笑顔の老人に雛子の眉根が寄る。

だが、折角のチャンスだ。

「じゃあ…。ジョサイさんのご先祖様について、教えてもらえませんか…?」

例の擬人化BLの犠牲者と化した彼。

実際にはどうだったのか聞いてみたい。

「ご先祖様の話ですか。そうですなぁ…。どちらかというと、愉快なお方であったようですが…」

「愉快?」

なんだか奇妙な形容詞が出てきた。

「人を笑わせるのがお好きだったようですよ。どちらかというと気難しい聖獣様とも、それなりに親しい関係であったと…」

いわゆる、ムードメーカータイプだった、ということなのだろうか。

それよりも。

「聖獣…って、気難しかったんですか」

「魔女王以外の誰にも懐かず、英雄にすらも牙をむいたという話は残っておりますの」

それで、あぁいう絵画になったのかと納得する。

あの、魔女を取り合うような英雄と獣の姿。

聖獣は、ユニコーンのような性質の持ち主だったのかもしれない。

「あの時言ってた、意地悪っていうのは…?」

「さぁ…。私にもさっぱり想像がつきませんで…」

「そうですか…」

少し気になっていたのだが、残念だ。

だが、聞きたいことは他にもある。

「ご先祖様は、どうやって魔女と知り合ったんですか?」

その辺を書いてある本は存在しなかった。

気づけば旅の仲間になっているというのが多い。

桃太郎のお供と大差なく、食べ物に釣られてというのが多いようだったが。

「盗み食いした所を捕まったそうですよ」

「は?」

「魔女と英雄が野営をしているところに通りがかり、彼らの食料をさんざん飲み食いした挙句逃亡したそうで…」

なんだそりゃ。

「こっぴどく叱られてから、償いを兼ねて仲間に加わったと我が家には伝わっております」

「………」

現実は物語よりもタチが悪い。

「まぁ、その時には我が祖先もまだ子供だったという話ですから…。食うに困って悪事を働かぬように、お二人があえてそうしたという説もございますが」

「なるほど…」

子供のやることだとしたら、まだ許せる範囲だ。

「他に、なにか聞きたいことはございますか?」

笑顔で尋ねてくるジョサイ。

聞きたいことは沢山あるが、他に何から聞けばいいだろう。

そう考えた時、自然に口をついて出た言葉があった。

「私が初めに寝ていた場所」

「おぉ、神殿でございますな」

「あの場所に、一度連れて行って欲しいんです」

「…雛子様を、ですか?」

若干声のトーンを落としたジョサイに、こくりとうなづく。

「自分がどんな風に眠っていたのか、少し気になったので…」

本当はそれだけではない。

ーーーあの場所に、雛子が元の世界に戻るヒントがあるかもしれない。

だがそれはあえて口にせず、無難なことだけを伝え許可を得る。

「では、夕食のあとに陛下と共にこのジョサイがご案内いたしましょう」

それでよろしいですかな?と尋ねられ、一も二もなく飛びついた。

レオナルドも一緒、というのが若干気になるが、まぁいい。

「お願いします」

「神殿の祭祀として、喜んで、ご案内いたします」

主を案内できるとは望外の喜びだと語り、疑う様子もない。

「では、随分長居をしてしまいましたが、そろそろ夕食の準備も整う頃でしょう。これで失礼を…」

「あ…。ありがとうございました」

「!いえいえ、雛子様が頭を下げられる必要はございませぬ」

「…癖なんで…」

慌てて止められるが、日本人の大半に身に付いた習性のようなものだ。

恐縮するジョサイを見送り、再び椅子に腰掛ける。


――――なにか、見つかるといいな。


日本へ戻ることを、諦めることはできない。

時間を置いて考えた結論がそれだ。


先ほど夢の中で薫がいっていたセリフ。

とぎれとぎれで、よく聞こえなかったが…。


「…………台座を、壊して」


そう、聞こえた気がした。


台座とは、例の雛子が眠っていた場所で間違いないだろう。

あの夢が何かを暗示しているとしたら、それはおそらく帰還の方法。

薫が出てきたのは、薫が今の雛子にとって一番気がかりな存在である証かも知れない。

さすがの薫も、実際に雛子の夢の中にまで出ては来れない筈。

信じよう。


必ず、帰れると。


「ごめん、薫さん…。もう少しだけ、待っていて下さい…」


きっと彼は、雛子の帰りを待っている。

疑いもなく、そう信じられた。



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