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やっぱり薄い本でした

「あの子のお姉さんは、結局どうなったんですか?」

先ほどの視線が気になり、オリビアに尋ねる。

「嫁ぎましたよ。幼なじみという下級貴族の元へですが、昔から恋仲だったという話ですから本人はさぞ満足でしょう」

「あ、そうなんですか」

てっきり未練たらたらなのかと思えば、そうでもないらしい。

ちょっとホッとした。

自分のせいで人生設計が変わってしまったのなら申し訳ないと思ったが、逆にいいことをしたようだ。

「さぁ、どうぞ雛子様。お好きなものからお手を」

オリビアが受け取った冊子をテーブルの上に並べ、「こちらなどいかがでしょうか?」と一冊を手に取る。

「今一番流行の恋愛小説ですが、英雄と魔女王をモデルとしています。史実と異なる部分は勿論ございますが、読み物としてはよく出来ておりますよ」

「へぇ…」

軽い気持ちで受け取り、ペラペラとめくる。

出だしは魔女と英雄の出会いからのようだ。

ひと目で惹かれあった二人が恋をし、魔女が英雄を助けて国を起こすまでがなんともドラマチックに描かれている。

途中でなぜか獣が擬人化し、魔女と英雄との三角関係に陥るあたりがまるでメロドラマのようだ。

結局魔女は英雄を選び、失意の獣はなぜか共に旅をしていた青年とソッチの関係に…。

「っておい」

「ふふ。勿論、後半は全くの想像でございますよ…」

まんま薄い本じゃないかとオリビエを振り返れば、どうやら確信犯だったようだ。

「この人…もしかしてあの神官長の?」

「…あくまでモデル…ですわ。史実でもお二人はとても仲が良かったそうで」

その仲良しに目をつけられてこんなことになった、というわけか。

「人と獣、どうやってもそのような関係になることなどありえませんでしょう?」

「…そうですね」

性別ならまだしも、種族の壁を越えるのは厳しい。

「聖獣が人に変身できた、とかいう話は…」

「ございません」

魔女がいるくらいだ、獣が人に変身してもおかしくはないと思ったが、そう上手くはいかないらしい。

「雛子様もご覧になったあの絵画。まるで、おふたりが魔女王を取り合いになっているようでしょう?

実際には勿論そんな話はございませんが、見る者の想像は自由ですから…」

よりロマンチックな方向に人々は思考を向けたがる。

「二人が出会い頭に一目惚れしたっていうのは?」

「それも創作ですわ。実際には、魔女王と英雄が初めて出会ったのは、英雄がまだ10にも満たぬ幼少の折りだったと聞いております。…ちなみに、その辺を描いているのはこちらのものですわね」

渡されたのは、日本でお馴染みの「若紫作戦」の男版。

要するに、好みの男(英雄)を見つけ、自分好みに育てて国を平定させた後、自分の夫としたと。

これはこれでまた何とも言えない。

「そういえば、魔女は歳を取らないんでしたっけ…」

「はい。次代がお生まれになるまでは」

だから、幼児を自分好みに育てたとしても年齢による外見差を気にする必要もなかった。

「実際に、この英雄と魔女とは夫婦になったんですよね…?」

「はい。英雄と魔女王亡き後、残された御子息がその後を継ぎ、国の王となったのです」

そこでふと疑問が湧いた。

「息子が初代の王…ってことは、その英雄本人は?普通その人が初代なんじゃ…」

「英雄は自らを王とは名乗りませんでした。それゆえに、魔女様が「魔女王」と呼ばれるのです」

「…なるほど」

王位を得たのは夫ではなく妻―――「魔女」の方だった。

「その理由は伝わってはおりませんが、一節に英雄は魔女様を深く愛するがゆえに王位を譲ったと…」

「…そういうものですかね…」

よくわからない。

「ご自分の死後も、魔女様に安住の地をと思われたのかもしれません。女王となれば、その地位は約束されますから…」

ただの王の妻では、その首を挿げ替えられてしまえば立場が危うくなる。そういうことか。

「この国を建国したのも、全ては魔女様の為だった、と」

「…それもあくまで言い伝え、ですよね」

真実は本人にしかわからない事だ。

それを否定することもなく、オリビアはすっと頭を下げる。

「私は扉の前に控えさせていただきますので、どうぞ、ゆっくりご覧になってみてください。

お気に召したものがございましたら、そのままお持ちくださいませ」

城下にゆけばいつでも手に入ります、というオリビエに尋ねる。

「城下…って、私も出られますか」

この城の外がどうなっているのか知りたかった。

「いずれ、陛下にお願いなさってくださいませ」

「………」

では私はこれで、と去っていくオリビア。

残された冊子を前に、どうしようかと考える。

ファンタジーや恋愛小説だと思えば読むのは容易いが、それが自分の過去の姿をモデルにしていると言われれば…。


「…」


絶妙に、嫌な顔になった。

しかし、せっかく持ってきてくれたものに手をつけないわけにもいかない。

ひとまず残りを見てみようと手を伸ばし、後悔した。


薄い本は、やはり薄い本だった。



「正しい歴史書…あとで借りよう」


余計に混乱してきた気がする。



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