二度あることは三度ある
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「もったいなぁい!それで店長さんを振ってきちゃったわけ?」
背中のリボンを解きほぐしながら大袈裟に驚いたみっちゃんこと白川美智は、呆れた顔で雛子を見る。
「振ったわけじゃないけど、連絡先の交換はどうかなって思ったから…」
「それ、結局そのままフェードアウトする気満々なんだからおんなじぃ」
普通にご免なさいするよりもタチ悪いよ、という台詞には返す言葉もない。
あの後すぐに喫茶店から電車で2駅ほど離れた美智のアパートに転がり込んだ雛子は、彼女に先程の話を報告したことをすっかり後悔し、辟易していた。
「…とりあえず、そう言うことだから店長さんに聞かれても私の連絡先を教えたりしないでよ?」
「え~。個人的には店長さんに同情しちゃうんだけどぉ」
「美智!」
「はぁい…。いつもどおり余計な口出しはNGでぇ」
そう言って肩をすくめ、長い髪を揺らす。
ようやくゴテゴテした服を脱ぐことの出来た雛子は、やっとまともに息がつけるとその場逃れ座り込む。
見た目はシンプルなようだが、見えないところの装飾が実に厄介で仕方がない。
「みっちゃん、よくこんな服を毎日着る気になれるね」
面倒さも勿論だが、ここにくるまでの人の視線の痛いこと。
式場を出た時にはすっかり気分が高揚していたため気にならなかったが、冷静になれば悪目立ちこの上ない。
「目立つのそんなに好きじゃない癖に」
「それとこれとは別問題」
指摘された言葉をするりとかわし、美智は言う。
「私の場合、これはもう顔の化粧と一緒よぉ。素っぴんの方が恥ずかしいわぁ」
随分ド派手な化粧だが、そういわれては文句も言えない。
今日の美智の装いは、袖の膨らんだ白いシャツに、首には棒タイ代わりのベルベットの黒いリボン。
スカートもリボンと同色のベルベットだ。
いわゆる外出着用の服に比べれば幾分大人しめな服装だが、全体に小づくりな美智の体つきもあいまり、西洋人形のような風貌だ。
惜しむらくは顔が純日本人、むしろ日本人形寄りなことか。
正直な所、和装が一番似合いそうではあるが、それと本人の理想とは別問題だ。
「で、例のクズの方はどうなったのぉ?」
「クズ嫁自爆でざまあ倍率2倍」
こちらは喜んで顛末をかたってやると、美智が早速ネットを立ち上げ、YouTubeの検索をかけた。
ちなみに検索名は元の雛子の職場である。
「あらまぁ。どうやら雛が帰った後も中々の修羅場だったみたぁい。見るう?」
「遠慮しとく」
予想通り、早速ネットにアップしたものがいるようだ。
「ぷっ。削除依頼がかかる前に保存しておくから後で見てみなよぉ」
「そりゃどうも」
ちらっとだけ覗いたが、どうやら式は結局中止になった模様。
お互いの親族同士で大もめになってめちゃくちゃだ。
「因果応報ぉ」
それだけ言ってネットを閉じた美智は、再び雛子と正面で向かい合う。
「ねぇ…?所でさっきの話、本当にいいのぉ?」
店長さんの。
「真面目な話、あの店長さん、結構前から雛の事気にしてたみたいだし」
「…それ本気?」
全く気づかなかった。
「一途だなぁって感心してたのよぉ。
雛がクズと別れたって聞いて内心大喜びしてたんじゃないかしらぁ」
「それってみっちゃんの勘違いじゃない?みっちゃんだって店長さんとは仲良かったでしょ」
「そんなことないわよぅ。だってあの人、私に雛の事相談してきてたんだから」
「…はぁ?」
相談。それはいつなにを。
「だからね、私教えてあげたのよぉ。クズと別れて今がチャンスって」
「お前が全ての元凶か」
どおりでやたら押してくると思ったら、唆した人間がいたとは。
「ひどぉい。新しいロマンスがてぐすねひいて待っててくれたんだから、ここは乗ってあげるべきでしょぉ」
嫌なことはさっさと忘れて、と告げる美智には本当に悪気はないのだろう。
だが…。
「ごめん。今日はもう帰るわ」
今回ばかりは余計なお世話だ。
クリーニング代代わりに一万円を財布からぬき、机の上におく。
ゴシック系の気合いが入った衣装はパーツが多いだけにクリーニング代金が馬鹿高い。
「こんなのいらないから、店長さんに連絡してあげたらぁ…?」
「無理。メモ置いてきた」
開きもしなかったため連絡の仕様がないといえば、美智は不満そうに口を尖らせる。
「ねぇ…?雛子の気持ちもわかるけど…」
「じゃ、また連絡するから!」
「ちょっとぉ、まだ途中…」
いいかけた言葉を無視して扉をあけ、外へと歩きだしながら思う。
今日は逃げ出してばかりだ。
「疲れたな…」
早く帰ってお風呂に入ろう。
もう、ねむりたい。
読了ありがとうございました。