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お祓いをしよう!

幸いなことに検査ではなんの問題も発見されず、雛子はその日のうちに退院をすることが決定した。

料金の精算に関してはさすがに当日では間に合わず後で請求書が発行されることになりそうだが、その手続きは母親が代行してくれたため詳しいことは後で聞かなくてはならない。

雛子も目覚め、娘の旦那候補もしっかり確認できたことでよほど安心したのだろう。

母親の機嫌は比較的いいが、後でまたこの話をされるだろうことを考えるとうんざりする。

免許を持たない母はどうやらタクシーでここまで来ていたらしく、家まで一緒に乗って行けと言われたのを首を振って断った。

「大丈夫ですよ、お母さん。雛子さんは僕が家まで送っていきますから」

にこやかに答える薫が憎らしいが、今回ばかりは助かった。

その答えに納得したのか、あっさりひいた母がタクシーに乗り込むのを見送りながら、ちらっと横目で薫を見る。

「薫さん…しっかり話は聞かせてもらいますからね」

臨時休業とはどういうことだ。

「雛ちゃんが気が済むまでいくらでも付き合うよ。今日は雛ちゃんの快気祝いだからね」

全く悪びれのない薫は、車を止めた駐車場まで雛子を案内すると、そのまま助手席に乗せて走り出す。

「ちょっとお店の方によっていい?ちょうどお昼だし、途中で食材を買ってきて何か作るよ」

「え、そんな悪いですって…。まっすぐ家に向かって貰えれば…」

「だーめ。どうせ買い置きのカップ麺とかでお昼を済ませる気でしょ。病み上がりなんだから、ちゃんと食べなきゃ…」

見てきたように言い放つ薫。

心当たりがある雛子としては実に反論がしづらい。

それに部屋に入ったということは実際に見られていた可能性もある。

「そういえば、雛ちゃんが検査している間ミッチィから連絡があったよ」

「なんて言ってました…?」

「今日雛ちゃんの家に来るって言ってたから、お店の方に誘っておいた。

…ってことで、今日は夕飯も僕と一緒。ね?」

勝手に決めちゃってごめん、と言いながらも、それを覆すつもりは全くないらしい。

「…ただでさえ迷惑をかけたのに…」

「だから気にしなくていいって言ったでしょ?僕が好きでやってるんだからさ。元気な顔を見せてくれればそれでいいんだよ」

その言葉は何度も言われたが、なぜそこまで雛子の事を気にかけてくれるのか。

告白されているとは言え、正直そこまでの価値が自分にあるとは思いづらい。

ただでさえ、真剣な相手に対して3ヶ月という猶予までつけているというのに。

「薫さん…ずっと気になってたことがあるんですけど」

「ん?なぁに?」

「私に一目ぼれって…嘘ですよね」

実は話を聞いた時から嘘くさいなと思っていた。

だってあの時は本当にびしょ濡れで・・・。

とてもではないが見られた顔をしていなかったはず。

その雛子に対して一目ぼれというのは、些か話が出来すぎているのではないかと。

「え、雛ちゃん僕のこと疑ってたの?本当だよ!僕は君には嘘はつかないって!」

「婚約…」

「ごめんなさいそれは嘘をつきました」

即座に訂正した後で、近くのコンビニに車を止めると、薫はひとつ大きくため息を吐く。

「あのね、雛ちゃん…。言ったでしょ?ずぶ濡れで困った顔してる雛ちゃんが、可愛くて仕方なかったの。なんかその姿見てたら、無性に庇護欲を誘われるというか…。僕が守ってあげるよ~、もう大丈夫だよ~って、そう言いたくなったんだよねぇ」

こう、いい子いい子~ってさ、と雛子の頭をそっと撫でる薫。

「…それ、野良猫とかと扱い一緒」

というかまんまだ。

「雛ちゃんが野良だったら今すぐにでも僕が拾って飼うから安心して。

…じゃなくてさ。僕、もともとこんな誰かに対して庇護欲感じるような性格してないから。純也の奴が言ってなかった?僕の心が狭いって。本当だよ?雛ちゃんだけ特別なんだ」

信じて欲しい、とジッと見つめる薫。

「たくさん甘やかしてあげるから、早く僕のところに落ちてきてよ」

「…考えておきます」

「言っとくけど、僕諦めの悪い男だからね」

それはわかります、とうなづきかけてふと思い出す。

「そういえば…あの夢の…」

「夢?確か前にも言ってたね。王子様がどうのって…。もしかして、昏睡中もその夢を見てたの?」

「ええ・・・まぁ・・・」

びっくりした顔で問いかけられ、歯切れ悪くうなづく。

それから話の流れで昨日までの夢について話すことになったのだが、話の途中からだんだん薫の顔が険しくなっていき、終わる頃にはその眉間にはしっかりとシワが寄っていた。

「・・・なんかそれ・・・ちょっと怪しくない?」

「え?」

「もしかして、誰かに呪われてるとか・・・。もしくは生霊?」

そういう反応が帰ってくるとは思わず、一瞬呆気にとられる。

「だって、ずっと同じ夢を見続けるなんておかしいよ!一度や二度ならともかく、頭を打って気を失った時にも見たんでしょ?しかも今回は昏睡だよ!?おかしいって!」

「…まぁ、確かに」

それは否定できない。

「もしその夢から帰ってこられなくなったらどうするの!?今回は3日間で済んだけど…」

そう考えると確かに恐ろしい。

しかも、あの短時間で3日なのだ。

もっと長い時間あの夢を見続けていたら、それこそ…。

「よし、雛ちゃん。お祓いいこう」

「はい?」

「お祓いだよ!!お祓い!近くにそれなりに有名な神社があるからそこに行こ!ね!?」

「えぇ~え?」

なぜそうなる?

「鰯の頭も信心からっていうじゃない?ほら、前僕が言ってた御神水のある神社!そこで御札とお守り買ってこよう!」

「じつはその御神水に怪しい薬でも入っていたのかとちらっと…」

「雛ちゃん!?」

「冗談です…」

予想以上の剣幕に押し黙る。

どうやらもう薫の中ではそれが決定事項らしく、車は今来た道を逆走するように走り出す。

「1時間位あれば着くから…。そこからお払いしてもらってなんだかんだで…」

う~ん、と考え込む薫。

「じゃあ、ちょっと惜しいけど今日のお昼はお蕎麦にしよう!神社の側に同じ水を使った美味しいお蕎麦屋さんがあるから…山菜の天ぷらもあるよ!そばを使ったケーキなんかもオススメ」

乗り気ではない様子の雛子を誘惑するためか、わざと食べ物の話題に持っていこうとする。

「蕎麦ケーキ?」

「うん!そば粉を使ったタルト生地に、豆乳入りのそばプリンを入れて焼いてあるんだ」

案の定食いついた雛子に、満面の笑みを浮かべて説明する。

「じゃ、決定ね!」

やる気みなぎる薫を前に、またしても食べ物に釣られた事に気づくが既に遅し。

だがまぁ、病み上がりでお腹がすいているのは間違いないし、蕎麦のケーキというのは心惹かれる。

それにこの辺にそんな有名な場所があったとは初耳である。

「ちなみに、その神社の名前は…?」



「水子守<みこもり>神社だよ」


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