諦めの悪い血筋です。
「驚かす…とは?」
何を言ってるんだコイツ…とまでは言わないが、不可解そうな顔で首をかしげるレオナルド。
「いや、なんでもいいんでとりあえず衝撃を受けるようなことを。そうすればきっとこの夢から覚めるんで」
あ、なんでもいいとは言っても前回みたいな足にキスとかはちょっと…と告げようとし、ギョッとする。
正面から見た彼が、ボロボロと涙をこぼして泣いていたのだ。
「ちょ…!ちょっと…!」
ある意味驚いたがなぜ今!?
そして残念ながらこれでは夢は覚めそうにない。
「夢から覚めるなど…なぜそのようなことを仰るのですか…。
我が一族はただひたすらにあなたのお目覚めを待ち続けていたというのに…!」
いい男―――それも年上の王子様(正しくは王様らしい)の泣き顔というのはなかなかの破壊力だ。
「あぁ…えぇっと…そのですね…」
いくらなんでもこの相手に対し、お前は私の妄想だから早く消えろとは言えやしない。
というか、正直自分でもこれが本当に夢かどうかわからなくなってきている。
だからこそ早く目覚めたいと思ったのだが…。
「魔女王よ、これは夢ではありません。この地は貴女様のもの。貴女様が守護せし若者が、やがて王となり作り上げた王国!」
泣きながらすぐ目の前で追いすがられ、すっかり焦る雛子をよそに、更に彼はヒートアップを続ける。
「父も、祖父も、そのまた祖父も…。あなたが目覚めるまではと子をなせるギリギリの年齢まで独身の身を貫くのが我が王族の伝統なのです!」
…ん?
「そもそも貴女様に恋焦がれるのは初代の父である貴女様の夫君から受け継いだ血の成せる技…。
彼の方は魔女である貴方様の心を得るために、あらゆる手を尽くしてその心を捧げたと伝えられております」
紫の瞳を涙で濡らしながら力説するレオナルド。
つまりはなにか。先祖代々諦めの悪い一族だと主張したいのか。
「…あの…力説してる所で申し訳ありませんが…人違いでは?夫といっても…結婚した覚えすらないんですけど」
控えめに訂正する雛子だったが、その言葉にこの世の終わりだとばかりの顔見せるレオナルド。
「そんな…!何もかもお忘れで…!?我らは、我らはあなた様より生まれし初代英雄王の血を引くものにございます!!」
「…はい?」
生まれた、とは。
そういえば始祖がどうのこうのという話もしていたが…。
「この紫の瞳こそがその証拠!貴方様から引き継ぎし、正統なる王族の…」
「ちょっとまって」
そのまま話し続けようとするレオナルドを雛子が止めた。
「紫の瞳…って何のこと?」
当たり前だが日本人の瞳は皆一様に黒い。
だが今の言い方ではまるで…。
「まさか、ご自身のお姿をお忘れに…?ですがこちらをご覧になられれば…」
そう言って彼は部屋の片隅に置かれた鏡台の前に雛子を導く。
被されていた覆いを外せば、そこに映されたのは…。
「…は?」
誰だ、これ。
雛子の思考が、一瞬にして固まった。
思わずペタペタと自分の顔を両手で叩き確認したが、間違いない。
「…美化300%」
全く別人の顔、というわけではないのが逆に不可解であるが、明らかに自分の顔とは違う。
顔の造作をじっくり見れば確かに雛子本人に違いないのだが、肌の色はもはや血管が透けるのではないかというほど白く、全体的なフェイスラインもややほっそりとして唇は濡れるような深紅。
一番の違いは、その瞳の色だ。
レオナルドと同じ――いや、それよりも濃い、紫紺。
「なんじゃこりゃ――――!!!!!!!!!」
今回一番の、衝撃だった。
※
「なんにゃこりゃ―――!!!!!!!!!!」
ガバッ!!!!
「…!雛ちゃん!?目が覚めた!?なんにゃって…なんで寝言までそんなに可愛いの!!」
こんなに心配させて!!と抱きつく薫。
「…は?薫さん…?」
なぜここに。
とうとう不法侵入をと訝しむ雛子だったが、薫は真剣な表情のままじっと雛子を見つめる。
「雛ちゃんここがどこだかわかる?病院だよ?」
「…病…院?」
そう言われてまわりを見れば、そこは真っ白な壁に囲まれた小さな部屋。
「なんで病院なんかに…」
チクッとした痛みに下を向けば、腕には点滴が刺さったままにいなっている。
これはいったいどういうことだろう?
「雛ちゃん、事故で頭を打ったのが原因で昏睡状態に陥ってたんだよ」
………。
「…はぁ!?」
驚きすぎて腕の点滴がブチッと抜け、ナースコールが点滅する。
ピーピーピー。
「とりあえず目が覚めたって連絡してくるね!ちょっとまってて、雛ちゃん」
「はぁ…」
ナースコールがあるなら直接言えばいいんじゃ?と思いながら去っていく薫を見送る雛子。
そうこうしているうちに、通話口から聴こえてくる看護婦らしき女性の声。
『浅井さん、婚約者の方がどうかなさいましたか?覚醒されたようならすぐに向かいますので…』
「…あ?」
…婚約者。
『あら?浅井さん…。あぁ、やっぱり目覚めたのね。じゃあ今すぐに…」
恐らく薫がナースセンターに到着したのだろう。
どこか焦ったような薫の声と看護婦の会話がうっすら聴こえてくる。
「…婚約者?」
―――誰と、誰が。
つまり、あれか。
急いでナースセンターに向かったのはその嘘が雛子にバレないようにするためか。
「望月さ~ん。お目覚めの後すぐで申し訳ありませんが、検査を行いますので…。まずは血圧を測りましょうね」
すぐにバタバタとやってきた中年看護婦が雛子の顔色をさっと確認し、手早く血圧計を巻きつける。
その後ろにちょこんと立っているのは薫だ。
ちら、ちら、と雛子の顔色を伺っているあたり、嘘がばれていないか様子を見ていると思われる。
「雛ちゃん、雛ちゃんのお母さんとミッチィにも連絡したからね。お母さん、雛ちゃんの着替えを取りに一旦家に帰ってるからさ」
「…というか、私はなんで入院なんて…」
親にまで迷惑をかけたのかと思うと非常に頭が痛い。
「原因不明の昏睡で、今日でもう3日目だったんだよ」
「3日」
「あの事故の翌日、雛ちゃんに電話したんだけど全然繋がらないし…。
ミッチィも夜会いにいく約束をしてたけど連絡が付かないって言うから、心配になって部屋まで様子を見に行ったんだよ。そうしたら、ベッドに眠ったままピクリとも動かなくて…」
それですぐに救急車を呼んで入院という流れになったということか。
「ちなみに鍵はどうしたんですか?ちゃんと閉めておいたはずですけど…」
「婚約者がもしかしたら部屋で倒れてるかもしれないからって言ったら貸してくれました。
ミッチィからの口添えもあったし…」
嘘はそこから始まったか、と思いながらもふと気になる発言を思い出す。
「うちの母にも会ったんですよね?まさか、母にまで…」
「ごめんね…?どうしても自分の手で雛ちゃんの看病がしたくて」
ちらっと上目遣いに見る薫だが、人が倒れている間に着々と外堀を埋めているあたり抜け目ない。
どうしよう。うちの母は思い込みが激しいのに。
後からあれは嘘ですなんていえやしないし、信じないだろう。
一体、なんでこんなことに…。
「眠っている間に検査もしたんだけど、これといった原因が見つからなくて。
でも頭を打った直後だし、それが原因としか思えないからって…。
もう少し目が覚め無かったらもっと大きい病院に移される予定だったんだよ?」
頭を打ったのが原因による、昏睡…。
あんな夢を見たのも、それが原因…?
「薫さん…。鏡って、どこかにありますか」
まずは見慣れた自分の顔を確認し、安心したかった。
周囲の様子をみても、特に変わったところはないのだろうと思うが…。
「あ、さっきミッチィが置いてったのがあるよ!ほら、これ!」
そういってアナ〇イのゴシック調な手鏡を差し出す薫。
それを見た雛子は、もう一度目を見開いた。
「…なんで?」




