表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/65

プロローグ

アルファポリス様から移行中です。

まだまだ未熟なところがあるかと思いますが、感想、コメント等よろしくおねがいします!

ざわ…ざわざわ…。



賑やかな結婚式場の一角。


笑い声と楽しげなBGMの流れる室内に反してただ一箇所だけ、妙な緊張感の漂うテーブルがあった。


「おい、マジかよ」

「いや、あの子ってあれだろ?例の…」

「あぁ~、あれか!つか、呼んだの!?ここに!?」

「そりゃ呼ばれたからここにいるんだろうが…あの格好は」

「完全な意趣返しだろ」

「…まぁ、やりたくなる気持ちもわからんではないが…」


会社の同僚達、というくくりでひとまとめにされたそのテーブルに座る彼らに笑顔は無く、どことなくひきつった顔で、テーブルの右はじへチラチラと視線を送り、直ぐ様目をそらす。

テーブルに並べられた料理にもほとんど手がつけられず、隣の人間とヒソヒソと会話するその姿は、まるで通夜の招待客のような有様だ。

だが、残念なことに彼らの席は一番後ろ。

ほとんどの招待客が彼らの様子に気づかぬまま、壇上の花嫁に向かい歓声をあげている。


「やべぇ。俺腹痛くなってきた…」

「俺も…」

「つか、勘弁してくれよ…あいつら本気でバカじゃねぇの…?」

一般常識を持ち合わせた良識ある参列者の一部が胃の痛みを抱える中、じっと花嫁花婿を見詰める視線。

その先にあるのは一人の女。

その女の装束は全身真っ黒。およそ結婚式の参列者には似つかわしくない、喪のような装いだ。

よく見ればそれは喪服ではなくゴシックロリータ、と言われるたぐいの真っ黒なドレスであることに気づくが、それもどちらかといえばアンティークな雰囲気があり、映画に出てくる海外モノの喪服にも見えた。

よく未亡人が教会で着ているような、アレである。

そんな、明らかに場違いな女に対し、誰からも文句が出ない理由は二つ。


怖すぎて近寄れない。



そして、彼女がそんな常識知らずな真似を行った理由を、ほとんどの人間がしっているから、だ。


それも当然だろう。

二股された挙句に同じ職場の社長令嬢に乗り換えられ、その結婚式を快く祝福できる人間がいたら見てみたい。

むしろどの面下げて招待状を送りつけてきたんだか、その面拝ませろとでもいいたくなる。

―――まぁ、普通に考えて、よっぽどの恥知らずでなければ無理な蛮行であることは間違いないだろう。


「どうせ、あのバカ令嬢に『みんなから祝福して貰って、幸せな結婚をしたいんです…!』とか頭の中お花畑レベルの事を言われて間に受けたんだろうけど…」

ぼそりとつぶやき、「はんっ」と鼻で笑う。

周囲がぎょっとした様子で彼女を窺いみるが、周囲の視線など知ったことか。

どうせ会社はもう辞職届を出して、後は有給を消化するのみとなっている。

今更何を言われたところで痛くも痒くもない。

とりあえず今はあのバカ二人に祝福という名の呪詛を送ってやりたい気持ちでいっぱいなのだ。

会場に入ってきた新郎は、そんな彼女の姿に気づきあからさまに目を背けていたが、新婦のほうは一味違う。

一瞬だけ「ほんとに来たの」とでも言いたげな視線を彼女に向けたかと思うと、ガン無視である。

それなら呼ぶなよと毒づきたい所だが、こちらも承知できたのだから構うものか。

あからさまに剣呑な様子を漂わせる女の様子に、新郎新婦の友人親族の間でもチラホラと気づき始めたものもいるようだし、このまま是非険悪ムードを振りまきたい。

帰ってから噂の的にでもなればいいのだ。どうせ社内ではいいように言われている。

そう思って、わざとゴスロリ好きの友人から喪服にも似た黒いドレスをレンタルしてきたのだ。

今日のテーマは「アダ○スファミリーのママ」である。

顔も白塗りしたかったが、流石にそれは止められた。

その代わり、衣装を貸してくれた友人が、マスカラバッチリ、アイラインびっしり、口角を上げる真っ赤なルージュという大人も泣いて逃げ出すフルゴスロリメイクを施してくれたので良しとしよう。

ちなみに指に施したマニキュアは、この日の為に何度も塗り重ねられ、もはや装甲並みの強度を誇っている。

色はもちろん深紅だ。

嫌がらせのためにつけたものだったが、この真っ赤な指先は意外と気に入った。

しばらく落とさずにいるのもいいたん、と思い自らの真っ赤なネイルに魅入る彼女に何を思ったか、周囲からは「ヒィ」という押し殺した悲鳴が聞こえた。

…その爪で切り裂かれる幻でも見たのか。

本気だったら漫画の見過ぎである。

吸血鬼や魔女でもあるまいし、出来るのはせいぜい――――丑の刻参り程度だろう。

まぁ、やらないけどね、と思いつつ、女は改めて新郎新婦に視線をおくる。

二人は今まさにケーキ入刀を行おうする真っ最中。

会場全体の明かりが落とされ、真ん中に立つ二人がライトアップされる。


―――ハプニングが起きたのは、その時だった。

バンッツ!!!!!


「慶子!!!!」

締め切ったはずの扉をあけ、突然会場に乱入してきた男の手に握られていたのは、銀色の刃。

刃渡り10センチチョットといったサイズではあるが―――本物のナイフである。

何が起きているのか―――気づいた招待客の行動は早かった。

「きゃぁぁ!!!!!!!!」

「おい、誰かあいつを取り押さえろ!!」

一瞬にして騒然となった会場内。

新郎に庇われるようにして逃げ出そうとする新婦。

ちなみに、慶子というのが新婦の名前であることは、この会場にいる人間誰もが知っている。

だが、その男が誰なのかを知る者はこの会場はいなかった。

恐らく、新婦以外には。

招待客が何人かで男を取り囲もうとするが、むちゃくちゃにナイフを振り回され作業は難航していた。

しかもこの会場の出入り口はひとつ。その一つを男に塞がれた状態で、招待客にも―――もちろん新郎新婦にも逃げ場などはない。

「邪魔すんな!俺はそこのクソ女に用があるんだ!!」

「おい、やめろよ!冷静になれって!」

「ふざけんな!!そこのクソ女、俺のことをなんて言って降ったと思う!?金のなくなったATMには用はない、だぞ!!」

…うわ~~~~ないわ~~~~。

激昂する男の発したセリフに、会場全体がひとつになった。

一瞬にして招待客のほとんどが男に同情的になるなか、こそこそと逃げ出そうとしていた新婦にも冷たい視線がつきささる。

新郎でさえも『え、マジかよ』といった顔で引いているのだから相当だ。

恐らくその本性を上手く隠していたのだろうが…お粗末さま。

「殺してやる!おい慶子!逃げんじゃねぇぞ!!……クソっ!邪魔すんなっつったろ!?」

いくら同情される余地があるとはいえ、相手は刃物男。

なんとかして刃物を奪おうと飛びかかった一人の招待客がタキシードの袖口を切り裂かれ、会場から悲鳴が上がる。

幸い怪我まではしていないようだが、男の本気に誰も手を出せなくなってしまった。

―――おぉ、がんばるなぁ、ATM君。

別に逃げ出す理由もなし、完璧な傍観者気分で頬杖をつきながらそれを眺めていた女は、ふと刃物男と目があい、思わずひらひらと手を振ってしまう。

「な、なんだお前!?魔女か!?」

「失礼ね、ただ黒いドレスを着てるってだけでしょ」

明らかにぎょっとした様子の刃物男に、お前に言われたくはないと思いながらも言い返す。

「あんたと同じ、そこの主役カップルに痛い目見せらた女っていえば分かる?」

「そうか…あんたも…」

一瞬にして分かり会えたようだが、どうにも刃物男から同情されるのはいたたまれない。

「頑張ってね…と言いたいところだけど…」

女はすっと男の背後を指差し、告げる。

「どうやら、ちょっと遅かったみたい」

まるでその言葉を合図にしたかのように、二人が会話をしている間、密かに刃物男の背後に回り込んでいた招待客の一人が、男が振り向くよりも早く一気にその背に掴みかかる。

そしてその手首を後ろから掴むと、今度は前からチャンスを狙っていた別の一人が飛びかかり、素早く刃物を奪った。

こうなっては、もはや手遅れだ。

「離せ~~!!慶子~~~!!!」

「誰か、警察呼んでくれ。こいつはとりあえず縛り上げて会場の外にでも…」

「わかった。10分ほどでこっちに来れるそうだ」

何しろ刃傷沙汰だ、警察を入れないわけにもいかないだろうという判断だったが、これに反応したのが新婦だ。

「ま、待って!!警察はダメ!せっかくの結婚式が台無しになるし、彼が反省してくれたらそれでいいじゃない…ね!?」

なぜか自分が狙われたというのに、焦った様子で警察の介入を阻止しようとする新婦。

恐らくだが、男が警察に捕まって自分の過去の話が明らかにされるのを防ぎたいのだろう。

まぁ、先ほどのATMというあだ名で新婦の過去の男関係など容易く想像がつくが。

思ったよりも早く決着の付いてしまった事件に、「残念…」とため息をついた女は、ざわめく会場の中で一人冷静にツカツカと喚く新婦のもとへ歩をすすめる。

「な、なによ…!」

「あんた達に言いたいことがあったから、ついでに言わせてもらおうと思っただけ」

まさかこの場で女が前に出てくるとは思わなかったのだろう。

新郎が咄嗟に新婦を庇うが、なにしろ相手は昔の自分の女。

「…お、おい、まさかお前まで刃物なんてもってないだろうな…?そんな格好で式をぶち壊しておいて、それだけじゃ気がすまなかったのか」

「気なんか済むわけないでしょ、このクズ」

一言発すると、女は持っていたバックから、数枚の写真を取り出し、その場でいっせいにばら撒いた。

「…あんたのお友達の皆さんからの伝言よ。

結婚、おめでとうございますって」

招待客がばらまかれた写真を拾い上げ、そこに映っているものに「きゃぁ」とすぐさま悲鳴が上がる。

何しろそれは女性側にこそ本人特定ができないような細工がなされているものの、男の側ははっきりと新郎だと分かるような…ベッドの盗撮と思われる写真だった。

「誤解の無いように言っておくけど、撮影者はそこの新郎本人だから。

それを盾にして自分と別れろと揺すってきたから、こっそりデータを抜き取らせてもらっただけ。

…そんなことしなくても、こんなクズ、こっちからお断りだってのにね。

ついでに他に何人も同じようなことをしていたみたいだから、そっちも始末しといたわ。

皆さん感謝してくれて、くれぐれもよろしくと頼まれたの」

元データを破棄した上で、女性側の特定ができないように細工をしたこの写真を表に出すことも許可してくれた位だ。皆、よっぽど腹に据え兼ねていたのだろう。

こうなっては、新郎新婦、両家の親族が揃って青ざめた顔になるのも当然だ。

「…式は中止だ…!中止しろ!!!」

新婦の父親が顔を真っ赤にし、式の中止を宣言するが、もはや会場は収まりがつかない。

ウエディングケーキを運んでいた式場のスタッフが、どうしたらいいものかとキョロキョロと辺りを見回し、式の写真を撮影するために雇われていたであろうカメラマンは、面白そうに口笛を吹いてニヤついている。

―――さっきの騒ぎの中でもこっそり写真を撮っていたようだから、もしかしたらどこかの雑誌にでも売りつけるつもりなのかもしれないが、そんなもの女には関係のない話だ。

「式は中止ですって、勿体無いわね。

せっかく――――お似合いの夫婦になれそうなのに」




バカ女にクズ男、最高のカップルだ。



読了ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ