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初めての話

初めてのお風呂の話。

作者: 野井紫苑



ここはとある高級な宿。その一室。


「風呂に入りたい」


ユーリスがぼそっと言った。

だらしなくベッドに横たわりながら。


「では、入りに行きますか」


サイは荷物を整理してた手を止めた。

ユーリスがサイの方に手を伸ばす。

仕方なさそうにため息を吐いて、サイはユーリスの手を引っ張って起こした。

ここ数日で、サイはユーリスの怠惰に慣れてしまっていた。

諦めたと言ってもいいかもしれないが。


風呂は大浴場になっていて、他の客も一緒に入る。

たが今は、まだ日の沈まぬ時間帯。

風呂はユーリスたちの貸し切りだった。

サイは手早く服を脱いでいく。

腰には白い布を巻いて紐を結ぶ。

これがここでのマナーだ。

サイがユーリスの方を見るとまだシャツすら脱いでいなかった。


「脱げない」


ユーリスは何故か偉そうだ。

どうやらボタンが外せなかったらしい。


「頑張ったことは認めます」


サイが下からボタンを外していき、全部外す頃にはユーリスもやっと上の一個を外せていた。

外し方がわかってきたらしい。

ズボンのボタンは包みボタンになっていて、摩擦が強く外しにくい物だったのでサイが全部外す。

下着は自分で脱いで、サイが腰布を巻いた。


浴場は湯気で煙っていた。

早い時間帯のためお湯がまだ熱いせいだ。

サイはユーリスをシャワーの場所に連れていく。


「まずここで身体と髪を洗います」

「そう」

「自分でできますか」

「やったことはないけど、できる気がする」


ユーリスはサイの見よう見まねで髪にシャンプーをつけて泡立てた。

いまいち泡立たなかった。

質は悪くなさそうなのに泡立たないシャンプーにユーリスは首を傾げる。


「ねぇサイ、泡立たない」

「数日間、洗ってなかったせいですね。一度流してもう一度シャンプーをつけるといいですよ」

コックを捻ると上から少し熱いお湯が降ってくる。


もう一度シャンプーで洗うと今度はよく泡立った。

身体もサイを見て、タオルに石鹸を擦り付けて泡立てたもので洗う。

自分で洗うのはめんどうだとユーリスは思った。

次からはサイにやってもらいたいが、サイは護衛であって従者ではない。

あまり、世話を申しつけると冷たい目で見られるのだ。


洗い終わった二人は湯に浸かった。

少し熱すぎるが入れないほどではない。

お湯が竜の口から出ていた。

壁に首だけ付いている竜はどこかシュールだ。


「なんで竜なんだろう。僕のお風呂はライオンだったけど」

「この辺りは竜信仰が盛んですから、その影響ですかね」

普通の風呂には蛇口しか付いてねぇよ、という言葉をサイは飲み込んだ。

「竜を信仰するの?」

あんなに恐ろしい生き物なのに、そんな顔で言う。

「畏れるからこそ、なのでしょうね」


人は敵わぬものを崇め、奉り、現実と切り離すことで、なんとか正気で生きていけるのかもしれない。

別に無くなるわけではないのだけれど。


「ふーん。そうなの。この辺りに昔いたの?」

「昔、ではなく今もいると言われています。迷宮の底に一千年前からずっと」

「見てみたいな、竜」


お伽話の中の存在。本物がいるなら見てみたくなるのも人の心理。


「誰一人として迷宮の底にたどり着けた人はいない、とも言われていますよ」

「じゃあ僕が初めてだ」

「行く気ですか。前人未到の地へ」

サイは呆れたように笑う。

「サイも竜に会ってみたいでしょう」

ユーリスはいつしか好奇心で恐怖を忘れてしまったかのようである。

「会った日が命日ですかねぇ」

サイの嘆息が風呂場に響いた。





二人は追っ手から逃れる旅の途中だった。

魔物が跳梁跋扈する迷宮の中まで、追ってはこないだろうし、旅の資金がこの日の宿代で尽きかけていた。

こんな高級宿に泊まった理由は、ユーリスが安い宿を嫌がったためである。

旅の資金を管理しているサイは、迷宮に入って稼ぐことには賛成だった。

決して、最下層まで行く気はさらさらなかったが。

世の中、思い通りにならない人間というのがいるものである。


次の目的地はもとより迷宮都市。

二人の運命はずっと前から決まっていたのかもしれない。




その後、何故か最下層に落っこちて、二人で竜に喰われかける。

とかね。


ユーリス

15才。

世間知らずのわがまま金持ち坊ちゃん。

初めての旅に浮かれ気味。

だが、追っ手がいたりと割りと死の危険があったり、なかったり。


サイ

ユーリスの兄がつけた護衛。

それなりに凄腕。

従者みたいなことをするのはプライドが許さないので、わがままな弟のめんどうをみているのだと自分に言い聞かせている。


続かない。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだかおもしろかったです。 正直どこがおもしろかったかと聞かれると答えられない気はしますが、おもしろかったです。
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