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君を守ると誓ったんだ  作者: シン
8/8

8話 2人の道

煙が晴れると周囲は見物人たちのざわめきで埋め尽くされていた。

突然処刑場に土煙が上がったと思ったらその中から男が現れ聖女様を抱えていたらそれは驚くだろう。

皆魂が抜けたように呆然と俺たちを見つめて立ちすくむ。


「誰だお前は!?」


1人の騎士が声を上げるとその声に呼応して人々は口々に俺たちを指さして何が起こったと言う。

そして勇者と目が合った時奴は子供が自分の思い通りにならなくて癇癪を起すように地団駄を踏んで忌々しそうに睨みつける。


「お前は…… 。 あの時の異教徒! なぜここに。」


「さぁコトハ行こうか。」


俺は勇者の言葉を無視して足に力込めてこの場を去ろうとする。

もうコトハを救出した以上この場にいる理由はない。


「僕を無視するな!」


勇者は憎たらし気に顔を歪めると背負っていた聖剣を引き抜く。

どうやらこのまま逃がすつもりはないようだ。

神の事前情報から勇者は"ダメージ無効化"の能力と聖剣を持っているのは知っている。

つまりはかなりのチート持ちってことだ。対する俺は脳筋な能力だ。

相性は最悪だ。戦えば勝ち目はないのは明白。


コトハを助けたらいの一番に逃げることしか考えていなかった。

だが勇者は早急に俺たちの退路を断って戦闘することしか頭にないようだ。

自分の思い通りにならないものは力でねじ伏せるってか?

どこの子供だ!


「悪いがお前と遊んでいる暇はない。」


そう言いきると勇者は余計に顔を真っ赤にすると言った。


「遊ぶだと…… 。この僕に。勇者の僕に向かって遊ぶだと。なめるな! 僕の力見せてやる。」


勇者のその言葉に取り巻き共の士気も上がる。

こんな子供でも勇者なのだ。騎士にとって憧れと敬意を集める存在だけあって部下は皆慕っている様子だ。


「ハヤト様私たちも加勢します。」


「いい。僕だけ十分だ。お前たちがいても足手まといだ。」


だが勇者はそんな部下たちの心遣いを無下にあしらった。

たとえ勇者と言う尊敬される存在であっても中身はクズだったようだ。

これでは彼らの忠義も報われないだろう。


勇者は一息に俺の元まで距離を詰めるとその大ぶりの両刃の剣を振り下ろした。

俺はコトハを抱いたまま横に大きくステップを取る。


「なんだと!」


当たるはずだった攻撃は躱されて勇者は驚愕の表情で固まった。

だが一度振り下ろされた剣は勢いそのままに真っすぐレーザーのように街を抉った。

怒りに正常な判断ができないのか背後の観衆をも巻き込んで。


聖女の処刑は突然の乱入者に勇者のご乱心で観衆はパニックになって叫び逃げ惑う。

当然だ。勇者の一撃で100人以上の命が失われたのだ。またあの技を撃たれれば死傷者がでるのは誰が考えても明白だった。


「カイト様。このままで民衆が恐慌状態になってしまいます。ここは剣をお納めくだされ。」


「うるさい。僕に指図するな。」


勇者の蛮行を咎める気概のある人物がいるようで忠告している。

だが愚かな男はそれを一刀両断で切り捨てて聞く耳を持たない。


勇者が仲間と揉めている間にコトハが服の袖を引っ張ると言った。


「純さん降してください。」


「今降りたら危ないぞ。」


勇者との戦闘は避けられない。となればさっきみたいな町や周囲に影響の出る戦いになるのは必然だ。

そんな状況でコトハを降ろしたら危険なのは間違いない。


「いいんです。それよりも町の人たちを避難させないと。」


俺の心配を他所にコトハが発言は予想外のものだった。

"町の人を助けたい" あれだけひどい仕打ちを受けてなぜ彼らのために行動しようと思うのか俺にはわからない。でも彼女のその心は美しいなって思う。


だから「わかった。」と答えるとコトハを降ろした。

もちろん奴《勇者》と戦ってもコトハに被害がいかないようにするし、

何かあれば彼女だけでも抱きかかえて逃げるつもりだ。


「それに純さんが私を守ってくれるんですよね?」


「ああ、お前はやるべきことをやって来い!」


当たり前だと即答するとこれから彼女が行うであろう行動を応援する。

やっぱりコトハ聖女様だよ。誰が何と言おうと彼女の心意気は聖女様そのものなのだから。


「はい!」そう力強く頷く瞳には俺とは違った強くて綺麗な光が宿っていた。

ぱたぱたと駆けていく彼女の背を見て俺はその光が消えぬように守り抜くことを再度心に刻みつけるのだった。


「うるせぇって言ってんだろ!」


罵声と共に肉を断つ禍々しい音が響く。勇者の方を向けば今まさに奴の剣で殺められた同僚《騎士》が力なく倒れていった。奴は同胞さえも手にかけたのだ。


その蛮行に騎士たちの連携にも歪みが生じる。誰しもが思うだろう。

こいつに付いて行って良いのだろうかと。


「仲間まで手を欠けるとは外道だな。」


俺は勇者の注意がコトハにいかぬように挑発する。


「この世界を神に委ねられた。僕は選ばれし者だぞ。言うなればこの世界は僕のものなんだ。」


選ばれて転生した勇者。以前はただの平凡な日本人が急に異世界に呼び出されて勇者となってもてはやされれば狂ってしまう人もいるのかもな。


だがそれを理由に大勢の人間を不幸にしていいわけじゃない。

もちろんそんなありふれた説教をするつもりはない。そんな事を言おうものならブーメランのように自身の行いの不実さを直視しなければならないからだ。


「傲慢な考えだな。神とやらはお前を当に見限っているようだが?」


なので諭すのではなく事実を伝えることで奴の心を揺さぶることにした。


「なんだと!? でたらめを言うじゃない!」


まぁそんことを言えば当然激怒して突っ込んでくる。

勇者といえど激情をむき出しにして戦う人間の動作は大振りで読みやすい。

右に左にと剣を振っても俺は軽く身を翻して回避できる。

問題なのは回避できても斬撃の余波を打ち消すことはできないので辺りに被害が出てしまうことくらいだ。


「なぜだ! なぜ当たらない。」


勇者がイラつきながら毒付く。

戦う内に奴の弱点のようなものが見えてくる。

勇者はダメージをすべて無効化にする故に防御と言う概念がないようだ。


しかも攻撃は聖剣によって出鱈目な威力の斬撃ができる。

要するに武器の扱いが素人のそれで回避をまったくしないのだ。


だから武術の心得があり同じくチート能力を持っている俺に軽く避けられてしまう。

だがこれでは埒が明かない。

俺の喉を目がけて突きをおみまいしようとする勇者の攻撃を躱すと右の拳を奴の腹に叩きつける。


「無駄だ。俺の能力でお前の攻撃は効かない。」


勇者が横薙ぎの一閃で俺を払いのけるながら自慢気に言った。

確かに渾身の一撃をヒットさせても薄い皮膜のようなものに阻まれているような感覚があるだけで相手に届いていないようだ。


「確かに厄介な能力だ。な。」


攻撃を身を屈めて回避するとアッパーを決めた。

避けるという動作を知らない奴はそのまま身体ごと浮き上がる。

そして俺はジャンプして両手を握りしめると浮き上がる奴を叩き落とす。


土煙が噴水のように噴き出すと辺りを覆い隠した。

土にのめり込む様に落としたから少しの間時間を稼げるだろう。

その間に考えなくてはならない。どうすれば奴を倒せるかを。


「げほ。げほぉ。くそ。よくもこの僕を土に叩きつけてくれたな。」


煙の中から徐々に人影が浮かび上がってきた。

風が吹き抜け視界を覆うものがなくなると怒り狂うとは今の奴のことを言うのだなと思うほど鬼の形相で怒りに震えている。

それと同時に全く関係のない無垢な声も聞こえてきた。


「けふ。けほ。ままーどこぉ? ままぁ。」


5歳くらいの少女が両手で涙を拭いながら母親を探していた。

偶然勇者が落ちたところに少女は近づいてしまう。


「おい、あの子危ないぞ。」


「そうよ、さっきも勇者様はお仲間を殺してましたわ。」


そんな周囲の言葉が聞こえるが俺は無暗に動けない。

ここで焦って距離を詰めれば相手の攻撃をもらうことになる。

勇者は攻撃を受けないがこちらはダメージを受けるのだ。慎重にならねば。


「五月蠅いぞ。餓鬼。ぴーぴー喚くんじゃねぇよ!」


自身の近くで泣きわめく少女にイラついた勇者は切りかかる。

それとほぼ同時だっただろうか。見慣れた人影が飛び出すのを俺は見逃さなかった。

そして戦慄する。このままではまずいと。


「何してやがる。あいつは!」


俺は強化された脚力で距離を詰めると振り下ろす大剣を両手をクロスにして防いだ。

本当は勇者を吹き飛ばせればよかったんだがそんな余裕はなかった

腕で剣を防ぐと言う愚策を取りざるを負えなかった。

一本目の腕が切断されても二本目で止められればいい。


「なに!? 腕で聖剣を止めるだと。」


だが結果は俺の想像とは違った。腕は切断されず勇者の驚きに満ちた表情にこちらが状況を読めずに困惑する。

とりあえず距離を取ろうと少女と少女を庇った馬鹿な奴を回収して距離を取った。


「大丈夫か怪我はないか。」


2人を安全なところまで退避させると言った。

コトハは少女を抱きしめたまま上目遣いで俺を見る。

そしてその視線が腕にまで下りてくると狼狽えて言った。


「私も彼女も大丈夫みたいです。って純さん左腕怪我してますよ!」


言われて見れば左腕が熱かった。傷を見ればぱっくりと皮膚が割れて血が溢れていた。

剣を受け止めたのにこれだけの傷ですんだのは間違いなく神様からもらった能力チカラのお蔭だろう。

コトハは慌てて治癒魔法を唱えると俺の腕を治すと言った。


「それにしても強くなってきたとは思ってましたが、いつの間にそんな力を手に入れたんです?

殴っただけで暴風がそこら中で吹き荒れますしあの勇者様と対当にやりあってもう無茶苦茶です。」


「まぁ色々あってな。」と適当にあしらうとコトハはあまりにも不満げに俺を睨むので後でゆっくり話してやると宥めた。

俺たちがそんな問答をしている内に周囲の人々から歓声が上がっている事に気が付いた。


「見ましたか? 聖女様が身を挺して少女を守ったぞ。」


「堕落の聖女なんて呼ばれてるけど本当は違うんじゃないか。」


「俺にはわかんねぇよ。魔王を倒した勇者が人を殺しまくって。

大罪人の聖女様が可愛そうな少女を守るなんて。どっちが正しいんだ?」


「そりゃあ。お前聖女様の方が正しい行いに決まってるだろう。」


「なら俺たちは聖女様に協力したほうがいいんじゃないか?」


「でも私たち聖女様にひどいことしてしまったわ。」


「こんな私たちを許してくれるのかしら?」


色々な会話が入り混じって局所的にしか聞こえないがそれでも1つわかる。

それは今のコトハの自己犠牲的な行動が民衆の心を動かしたということだ。


勇者と聖女様どちらが正しいことを行い従うべきなのか。

盲目的に教団の教えに捕らわれていた人々が今まさに自身の意志で決めようとしている。

どちらが善で悪なのか。


民衆の声が大きくなる中1人の老年の騎士が跪くと言った。


「あなた様にひどい仕打ちをした私ですが、何か。何かできることはありますか聖女様。」


その声に他の騎士たちも呼応する。1つの声が波紋のように広がって次第に大きくなっていく。

コトハは急な人々の態度の豹変に戸惑いを隠せない様子で「どうしよう」と俺を見る。

だが俺はそれに答えず視線で訴えた。「お前が思うことを言えばいい」と。


「騎士の方たちはみなさんの避難誘導をお願いします。みなさんは動けない方の手助けをしつつ落ち着いてこの場から離れてください。」


かつて教団の教えに縛られれ生贄になろうとしていた少女がテキパキと指示を出して人々を避難させていく様はとても感慨深いものだった。

だからこそ彼女を守るために勇者《奴》を止めなくてはならない。


「異教徒の方。俺たちも戦いますよ!」


1人の青年が勇気を出して踏み出すと包丁片手に俺に向かって言った。

その声に応じて血の気の多い輩が一斉に俺に加勢すると言いだした。

俺も聖女様を守ったことで彼らの味方だと思われたようだ。


「こら。異教徒なんて言ったら失礼だろ。」


早老の男性が青年を小突くと非礼を詫びて言った。

すると青年も言い方が悪かったと自覚した様子で謝罪する。


「す、すみません。」


「あり難い申し出だけど大丈夫だ。奴は人外の力を持ってる。

そんな相手には俺みたいに同じ化け物じゃないと渡り合えないだろう。

それよりもコトハの手伝いをしてやってくれ。きっと手が足りてないはずだ。」


俺はやんわりと相手の好意に配慮しながら加勢を断る。

そう、これは俺たち異世界人の戦いなのだ。君たちが犠牲になることはない。


青年は不服そうにこちらを見つめて反論しようとして止まった。

俺の腕を見て目をパチクリさせている。


「あなたの。いやあなた様のその腕の模様は勇者様と同じ神の御使い様の印。」


周囲の人々が一斉に注目する。左腕の古傷を改めて見れば青い模様が浮き上がっていた。

どうやら魔力が見れないとただの古傷に見えていたが魔法が扱えるようになってようやく神の御使いとやらの印が俺にも見えるようになったようだ。


人々は納得した様子でコトハの方へと手伝いに向かった。

神の御使い様がそう言うのだから聖女様を手伝おうと。


その時だった。それまで静かだった勇者が急に俺に向かって突進してきた。

俺は勇者の方へと向き直ると全力の拳を打つと風圧で突進の威力を相殺する。


「俺の聖剣を止めた奴は初めてだ。なんでただの一般人がそんな力を持ってるのか疑問だったがようやく解けたぜ。お前も日本人だったんだな。」


勇者は俺の腕を見て合点がいったと納得した様子で頷くと先ほどまでとは打って変わって冷静な口調で言った。

そして加えて挑発するように俺の能力を卑下して自身の能力をひけらかす。


「神からどんなチートを貰ったんだ? まぁ僕ほど優れた能力ではないだろうけど。

君の戦いからして筋力の底上げと言ったところだろう。

残念だったね。僕には物理ダメージは効かないよ。」


相手のペースに乗らないように注意しながら返答を選ぶ。

その間に頭をフル回転させて考える。どうやったらあいつを倒せるのか。

ふいに浮かんだのは土煙の中むせていた勇者の姿だった。


「そうみたいだな。さっきの打ち合いでそれは理解したつもりだ。」


「そんな雑魚能力を授けた神を恨むことだな! まぁ僕が優秀するぎるだけなんだけどな!

まぁいいや。君は絶対に僕には勝てない。そこの聖女を置いて逃げた方が身のためだよ。」


奴の言葉は右から左へと流れてゆく。ただ俺の頭の中に先ほの戦闘シーンが流れ続ける。

そして気が付いた。勇者はダメージを無効化できるがそれ以外のものはできないのではないかと。


例えば風呂場に頭を突っ込ませてそのまま窒息させたらどうなるんだ?

奴の能力は不意打ちでも有効だった。つまりはオンオフできるタイプじゃない。

もし全ての外界からの刺激ダメージを無効化していたら食事すらままならないだろう。


そしてこの仮説を証明するように奴は土煙の中むせていた。

つまりは煙の中では普通の人間と同じく苦しいのだ。

だったら俺のすべきことは1つだときっぱりと勇者の甘言を断ると言った。


「嫌だね。それにお前を倒す算段がないわけじゃない。」


人を小馬鹿にした視線で見下すと何馬鹿なことを言っているんだと笑いこける。

自身の力を信じて疑わないことが仇となるとも知らずに。


「ほう? それは興味深いな。だがそんな弱点はない!

やれるものならやってみるといい。」


手で「来い!」 とジェスチャーして挑発する。

俺はそれに乗って勇者に接敵すると言った。


「ならやらせてもらうわ。」


左上から右下にかけて振り下ろされた聖剣を身を翻して避けると剣の中心を狙って拳で打つ。

だが勇者は手首を捻ってそれを躱すとさらなる追撃を加えてくる。

俺はバックステップで距離を取るとすぐに距離を詰めて回し蹴りを聖剣の柄に当てた。


「何。聖剣が…… 。」


柄を攻撃されて聖剣を手放してしまった勇者は吹き飛んでいく剣に一瞬隙を作った。

俺は勇者の顔をがっしりと掴むと地面に押し付けた。

大きな衝撃音と共に円状に風が吹き荒れると勇者は雄たけびを上げて絶叫する。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


背中に膝を当てて身動きを取れなようにすると両手で頭を地面へと突き刺した。

勇者は必死に呼吸をしようと頭を上げようとじたばたもがき苦しむが俺のパワーがそれをさせない。


「ぐがはぶが。げほっ。げほ。ぐおおお。」


ダメージは無効化できても押さえつけることはできる。

このまま窒息死させてもらおう。これでお前と言う脅威は排除できる。

苦しいのか抵抗する力が一気に強くなるがせっかく捕らえた絶好の好機離してなるものかと必死に食らいつく。


「もう、げふ。げほぉ。やめ。げほげほ。おぇっ。」


あと一息だ。抵抗する力が徐々にピークを越えて弱まっていく。


「ぐえ。くる。げほっ。げほけほ、しい。」


「やめて! 殺しちゃだめぇ!!!!!!!!!!!!!」


コトハの悲痛な叫びに咄嗟に手を離してしまう。

しまったと思うも時すでに遅く勇者は俺から距離を取っていつの間にか聖剣をその手に納めていた。

なぜ止めたんだ! あれが千載一遇のチャンスだったんだぞ! そうコトハに詰め寄りたかったが目の前の敵の脅威度が上がったように感じられて言葉がでなかった。


だがそんな重厚な雰囲気はすぐに消えた。なぜなら勇者は突然糸が切れたマリオネットのように気絶してしまったのだ。


===========================================


あの戦いの後勇者は神に回収された。世界になるべく不干渉と言いつつも回収にくるなら神が勇者と戦えばよかったのではと思えてならないが万事解決したことを今は喜ぶとしよう。


結局最後にコトハに止められていなかったらまた俺は人を殺していた。

でもコトハというストッパーがいる限りもう俺が人を殺すことはないと思う。

あの時と同じで彼女がきっと止めてくれるだろうし、俺もコトハのためにしか力を振るうつもりはない。


あれからコトハは聖女様として再び戻らないかと教団に言われたらしいが断った。

勇者亡き今なら教団も少しずつ変わっていくだろう。

今度こそコトハが思い描く本当の聖女様になれるのにもったいないことをしたと思う。


「なぁ本当によかったのか? 聖女様にならなくて。」


舗装されていない山道を身軽な動きでピョンピョン跳ねながら前に進む。

そして振り返ると吹っ切れたような清々しい表情で言った。


「いいんですよ。私自身もう聖女に興味がないんです。別に聖女じゃなくても人を救えますしお祈りもできますしね。それにあの勇者との一件を知っている人たちは私に好意的でもそうでない人もいると思うんです。また襲われるのは嫌ですから。」


もうコトハがつらい思いをすることはない。なぜなら俺が守るからだ。

だからきっぱりと断言できる。


「そんな馬鹿な輩がいたら俺がぶっ飛ばすがな。」


そんな俺の迷いのない言葉に苦笑しながらお道化て言った。


「駄目ですよ。殺しちゃ。でも大切にされてるのはわかるから嬉しいです。

そういえば私を守るって断言したあの時の純さんかっこよかったな。」


あの一件を思い出して時めくコトハは満面の笑みで言った。

その笑みが眩しすぎて俺は照れ隠しのために視線を外すと動揺を隠すように平然を装った。


周囲をむせ返るほどの木々の香りで立ち込める中一陣の風が吹く。

コトハの銀髪の髪が風にたゆたうと女性らしい花のような甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「何言ってんだ。俺はいつでもかっこいいだろう?」


「何自惚れてるんですか。あり得ないですよ。」


確かにナルシストすぎる発言だったと思う。

だがここで肯定するとコトハを意識しすぎたせいで変な事を言ってしまったと認めるような気がした。


「そうだな。少し自惚れすぎてたかもしれん。」


コトハは少し山を登るとちょうど休憩できそうな石を見つけるとゆっくりと腰かけた。

そして後を追う俺をやさしく見つめて問いかける。


「少しじゃないでしょ。それにしてもあの時の言葉ちゃんと覚えてます?」


若干頬を赤らめたコトハが可愛らしくもじもじしながら返答を待っている。

確か"誓って言わせてもらう。ここにいるのは俺の意志だ。そしてお前は俺の大切な存在なんだ。二度と死にたいなんて言うんじゃない。"だったはず。


何か変な言葉を言っただろうか?

俺が答えを導きだせずに迷っているとコトハは少しむっと膨れた様子で言った。


「鈍いですね。私は純さんの大切な人だって言ったじゃないですか。これって告白でしょうか?」


そう問いかけるコトハに俺は今一度自身の言葉を振り返る。

確かに大人の女性にあの言葉を言ったら告白とも取れなくはない。

だが俺はコトハを異性としてではなくコトハという存在そのものを大切と思っただけだ。


「あ、あれは言葉の綾ってやつだよ。」


普通に答えたつもりがどもって挙動不審な動きになる。

そもそもコトハの一挙手一投足に視線がいってしまう段階で異性として意識していないと言うのは苦しい言い訳だ。


「ふふっ。焦った純さんも可愛らしいですね。でも誤魔化すのは男としてどうかと思いますよ。」


あの時はそう思ったとしても女性にかけた言葉なのだからコトハの解釈は正しい。

それに俺もコトハのことが異性として嫌いなわけじゃない。

むしろ好きに思う自分がいる。


「ああ、コトハは俺にとって大切な存在だよ。」


綺麗な花が咲き誇るように満面の笑みを浮かべて俺に微笑むと、

立ち上がり俺に駆け寄ってきて手を握った。


コトハ真っ赤に顔を染めて小さな声で誰もいない森の中にも関わらず恥ずかしいのか俺にだけ聞こえるように耳打ちした。


「私も大好きです。」


かつては大切な人を守れなかった。


でも今は違う。大切なコトハを守れてこれからも一緒に道を歩んでいくだろう。

俺たちは身を寄せ合いながら二人で平穏に暮らせる場所を目指して旅を続ける。

















最後まで御覧頂きありがとうございました!

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