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君を守ると誓ったんだ  作者: シン
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6話 神誓

木に張り付けられ無理やり立たされている俺は激痛と共にゆっくりと腹から血を流しながらただ死を待っている。

腕はへし折られ両の足は粉砕された。辛うじて足は繋がっているが使い物にならないそれは立っているだけで鋭い痛みが脳を貫く。


目の前には罪人に罪を自覚させるためか黒の鉄格子が怪しく光に周囲は苔の生えた厚いレンガで覆われている。

俺の背後からは小さな小窓でもあるのか淡い光が差し込んでいるが張り付けられている俺は振り向くことも叶わない。今が何時で外がどうなっているのか。コトハはどうなったのか。

考えても何もできなかった。


「おっと、と。いやぁ久しぶりに下界に顕現したわい。」


急に世界は灰色となり神々しい金色の光を纏った老年の男性が降り立った。

長く白鬚を伸ばし顔を凝視しようとすると歪んで見えない。純白の法衣に青い宝玉の付いた杖を握り俺をやさしく見つめていることを感じる。

当たりの雰囲気は温かさを増し身体の芯まで染み込むと痛む身体が少し楽になった気がしてくる。

そして心地よい眠気のようなものが襲ってくると、このままこの暖かさに身を任せて眠りに落ちたらどんなに気持ちがいいのだろうという誘惑に襲われる。


だが俺はそんなぬるま湯な雰囲気に飲まれるわけにはいかない。激情に身を任せてそんな雰囲気を振り払った。

そう、俺はこの男の姿を忘れるわけがない。

この世界に俺を呼び出した最高神と名乗る男で、コトハを助けてほしいと依頼しておきながら彼女のピンチに何もしなかった神。


俺は神を見て腹から湧き出るような憤怒しか感じない。

なぜあの時助けてくれなかったんだ。どうして今更俺の前に姿を現すんだ。

遅すぎるだろう。何もかも…… 。


「ワシこれでも最高神なんじゃぞ? 顔を見るなり噛みつこうとするのはおかしいんじゃないでしょうか?」


「お前が"救え"と言ったんだろ? 魔法がある世界に俺が行っても救えるわけないだろ!

それじゃああの子を。コトハをただ傷つけるだけじゃないか!!!!!!!!!!!」


自制できない程湧き上がる怒りに身を任せて感情のままにただ叫ぶ。

動くたびに鎖がガチャガチャと音を立てて密閉された空間に反響する。


「そうじゃな。だが仕方ないことよ。お主の覚悟が見たかったのじゃ。」


淡々と感情もなく当然の如く"お前を試したんだ"と言う。

その試練のためにコトハは苦しんだのか! と俺は余計に憤慨する。


「覚悟だと! 無理やり異世界に送っておいて何が覚悟だ。ふざけるな。」


負った怪我のことを忘れたように目の前の神に一矢報いようともがく。

当然重傷を負った腹からは血が溢れ出して地面に滴る。

折れた腕から骨が飛び出し片腕はぶら下がり力が入らない。


「これこれあんまり暴れると本当に死んでしまうぞ。

そもそもワシだって本当は最初からお前さんに"力"渡してから"こっち"に行かせたかったわい。

じゃがな失敗した前例があったからのう。他の神々の反対も多かったのじゃよ。

"また与えた力で世界の理を歪めるのか""力を与えるなら相応の者にすべきだ"とね。」


失敗した前例。その言葉に思い当たる節があった。

俺たちを襲った勇者ハヤトだ。あの勇者様は神様に遣わされてこの世界に来たと言う。


確かに魔王を倒して偉大な功績がある人物らしいがそれと同時に酒場で出会ったババアの言葉が蘇る。


"勇者が今の聖女制度を作った張本人らしい"と―――――――


思い起こされるのは最高神に依頼されて聖女コトハを救うためここまで来たという事実。

つまり神の意向と勇者の行動に食い違いがある?

それが意味している事は、点だった情報が線となり1つの結論を導き出す。

俺は自身の推理を確かめるように神に問いかける。


「勇者のことか。」


「さすがに察しがいいのう。そうじゃ。

稀に滅亡を運命付けられた世界がある。この世界は魔王の登場で破滅に向かっておってな。


本来神は世界になるべく不干渉であれというルールがあるのじゃ。だが破滅に向かう世界であっても善き魂を見捨てることはできないと、

かの世界を救うため不幸にも亡くなった日本の若者をこの世界に送り魔王を倒すかわりにこの世界で地位と名誉を与えようというプロジェクトがあった。


人選はワシの末席に連なる女神に適当に選ばせてたんじゃが。

まぁ日本人は弱いからのう。女神から特別な力をプレゼントした。

その力で第二の人生をがんばってくれと餞別代りにな。


じゃが問題があった。魔王を倒した後にその勇者は何を思ったか世界を支配し始めてのう。

しかも無関係な人々を殺すわ。善い魂を持つ者まで殺してしまっては本末転倒じゃ。」


「善き魂?」なんのことだと心の中で考えていると最高神はそれをすぐに察して言った。


「簡単に言えばコトハちゃんみたいな子じゃな。皆のために自己犠牲さえも厭わない子が不幸な未来であっていいわけないじゃろ!


まぁ話を戻すと本来善き魂を助けるために送り込んだ使者がまさかどんどん善き魂を殺していってついには最高神である私の所まで彼ら彼女らの悲鳴が届くようになる始末だ。」


事の顛末を聞いても神の身勝手のせいで彼女コトハたちが苦しんだのではないか!

もし神が異世界の者を派遣しなければ可愛そうな聖女たちは生まれなかった。

だが同時に勇者がいなければ魔王は倒せなかったかもしれない。

でも他にもっといい方法があったかもしれないじゃないか!


「だから俺に力を与える資質があるか見極めたっていうのか。くそが、死にやがれ!!」


「ワシ最高神なのに。死ね言われた。しくしく。

お前さんが怒る気持ちわかっているつもりだが確かめねばならぬのじゃ。

だから今一度問う。」


悲しそうに涙を拭う素振りをするが表情は暗く影になって伺えない。

さすが最高神だけあって俺の心を察していると諭すようにやさしく、それでいて神の質問以外答えさせないと強制力のある言葉で問いかけた。


「お前はコトハを守ると誓えるか。」


「当たり前だ。」


即答だった。考えるまでもない。

俺はあの子を守ると決めた。だからここまで一緒に来たんだ!


「それは妹と似ているから守るのか。」


一瞬の逡巡の後、力を込めて真っすぐ視線を最高神の方へ向けて言った。

迷ったのではない、確かめたのだ。己の気持ちを。

だから言おう。こんな馬鹿げた質問をした愚かな神をあざ笑う様に、強い瞳に光をごうごうと燃やしてありたっけの想いを込めて言った。


「ふん。確かに最初はそうだった。だがあいつの。コトハの優しさに触れる内に俺は救われたんだ。

復讐を果たした俺は自身も気が付かぬ内に心はボロボロだった。


大罪を犯した人間に優しく接する人間はいない当然だ。でもコトハは違った。

あの子は俺にとって。妹と同じくらい。」


だから迷いなく断言できる。


「大切な存在なんだ!」


静寂の時が流れる。俺の想いの全てを乗せて話したつもりだ。

これで伝われないなら神と名乗ることをやめさせてやる。


「嘘偽りのない真っすぐな心しかと受け取った。ならば与えようお前にあのコトハを守る力を。」


老人の杖から白い光が球体が出現し、それが真っすぐと飛来して俺の胸に入っていった。

すると身体の熱くなり力がとめどなく湧き上がるような感覚と共に次第に牢屋の中の様子が変化していた。

青い光が網だくじのような幾何学的な模様が部屋中に装飾のように施されている。


「これが魔法なのか。部屋に力の流れのようなものが見える。」


「お前さんの力。迷ったんじゃよ。だがお前さんに今から難しい力与えても扱えるまで時間かかるからのう。とりあえず筋力を異様に上げといたからよろしく!」


確かに神の言う通り今までにない感覚がある。ソレを使いたいと念じれば身体に力が湧きあがる。

試しに力を込めてみると腕の鎖が砕け散った。無意識に力んだ力で鉄製の鎖がバラバラになってしまった。

俺が能力チカラを確認していると神は付け加えて言った。


「ちなみにじゃがコトハちゃんは無事じゃよ。まだの。

あの子は治癒魔法に長けておるから外傷は問題ないじゃろう。」


命は問題ない。その言葉に胸を撫で下ろす。

だが次の瞬間にはまた不安と絶望が心に染み渡るのだった。

身体は治せてもそれ以外はの部分が致命的に蹂躙されていたら?


「心は…… もう……… 。」


「いや性的な拷問は受け取らんから大丈夫じゃよ。今後のお前さん次第でいくらでも回復できる。」


どうして断言できる。あの子が可愛らしい容姿なのは十分理解しているつもりだ。

聖女の本当の役割からしてもまわされていてもおかしくない。


「なぜわかる? 身も心もボロボロかもしれないじゃないか!!」


コトハの事が心配で頭に血が上ってしまう。最後まで言いきって悟った。

目の前にいるのは一応神なんだと。


「なぜって。ワシこれでも最高神じゃからな! HAHAHAHAHAHAHAH。」


神は自身満々に毅然とした態度で言いきると俺の不安と心配を振り払う様にお道化て見せた。

そしてただ安心させるのではなく"今は大丈夫だ"ということ再認識させるため付け加えて言った。


「そうそう。コトハちゃんの処刑は夕刻だから。急いだほうがいい。間に合わなくなるぞい。」


神が手をかざすと俺の身体は傷も痛みもない状態へと回復した。

俺は無言で頷くと鎖を力を使って引きちぎると腕を回したり屈伸してみたりと感覚を確かめる。


どうやら全快しているようだ。いつも通り。いやいつも以上に軽い身体は自分の思い通りに動く。

これならたとえ魔法を使う相手だとしても戦えると確信する。


そして牢屋を出ようとすると神が背後から声をかける。


「ハヤトには注意しろ。奴は女神から"ダメージ無効化"の能力チカラと聖剣を授かっている。」


その忠告を聞いて俺は思わず怒りのまま突っ込んだ。

ダメージ無効化の能力を持つ奴と戦う可能性が高いのに筋力上げただけとか。


「おい! ジジイ。勝たせる気あんのか! あぁ!」


「ついにジジイ呼ばわり…… 。

げふん。何度も言うが言っておこうワシは最高神じゃ。理由もない力は渡さんよ。」


言うことだけ伝えると来たときと同じく唐突に消え始めた。

神の姿が光の粒子になってゆきそれらの粒が最後には1つに集まると球体を成して散り散りになった。

完全に消える直前小さく呟くようにぼそっと言葉を紡ぐ。


「頼んだぞ。純。お前さんだけがコトハちゃんを救えるのじゃから。」




最後まで御覧頂きありがとうございます。

# 次回更新は06/04 0時頃です。

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