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そのぜろ.触らぬ女に祟りなし

「あのっ、長角さん!」

「ん?」

 長角由仁は肩から垂れ下がる房になった白髪を払いながら振り返った。

 階段を降りきったところに一人の女子生徒が立っている。細いフレームの眼鏡の奥で緊張を含んだ瞳が震えていた。呼吸に合わせて二つのおさげが踊る。

 由仁の内心に『またか』と『キター!』が同時に沸き起こった。

 つとめて冷静を装いながら、「何?」と言いたげに首を傾げてみる。

「そのぅ、ちょっと……いいですか」

 下校時間ともなれば玄関は生徒でごった返す。立ち止まった二人を邪魔そうに見る男子、面白いことが起きると期待してスマホを取り出す女子。人目を避けたいのか、眼鏡女子は人気の少ない廊下に視線を送る。由仁はお誘いをありがたく受けた。

「ああ、いいよ。行こう」

「ありがとうございますっ」

 まるで返事をもらえたかのような喜びっぷりが可愛らしい。

 ぴょんぴょんと跳ねる小さな背中を追いながら、由仁は小さく拳を握った。

――これなら、イケる!

 彼の一際目立つ深紅の瞳が期待に輝いた。角を曲がって奥へ、奥へ。

 校舎の片隅、半ば倉庫と貸した古い教室が並ぶ一角に入っていった。

 非常口前で彼女が振り向く。背中にも視線を感じたがあえて確認はしない。

 ひそひそと話す声から眼鏡女子の友達らしい。「恵美、ファイトっ」「あんたならゲットできるよ!」と励ましている。

 長身に引き締まったしなやかな肢体、外人でもそうはいない光沢のある長い白髪、

妖しく輝く紅い瞳…人間離れして整った容貌は、自然と女子を惹きつける。

 だからこうやって呼び出されるのも慣れたものだった。

「で、何の用?」

 分かっているくせに少し冷たく、突き放してみる。これは女心をくすぐるコツ。

 恵美の頬が赤く染まった。この容姿とクールさに墜ちない子はいない。

「あ、あのっ、私、ずっと、その、長角さんのことが好きでした!つき、付き合って下さい!」

 ほうら来た、としたり顔が出ないように気をつけて、差し出された手を握り返す。

 恵美の顔が綻んだのと、由仁の顔が渋ったのは、ほぼ同時。

「うっ……うう」

「長角さん?」

 由仁は強引に手を振り解きながら腰を引き、体をくの字に折った。

 呻き声を噛み殺しながら両手で股間を押さえる。湧き上がる衝動が弾けんばかり。

「ごめんっ、キミは、無理! 駄目! あえりない!」

「ええぇ!?」

 キッとあがった彼の視線は鋭く、敵意に満ちていた。由仁は躊躇なくその場から逃げ出す。

 角を曲がると案の定彼女の友達が二人隠れていた。飛び出してきた由仁に驚いて道を開ける。彼はそちらに見向きもせず、視界に入った男子トイレに一直線。

「なにあいつ、失礼じゃね?」

「やっぱ噂通りホモなんだよ。きっもーい」

「こういうのが好きって聞いたからわざわざやったのに。サイテー」

 背後で女子三人の怨嗟と罵詈雑言が渦巻いた。聞こえてないと思って本音が全開。

 生憎と彼の耳は特別製で一言一句漏らさず拾っていた。

「……理不尽だ」

 悲しく呟き、個室に閉じこもる。断れるのもまた、慣れたもの。

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