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シトロンのため息

作者: 蒼穹汰

 それは、疾風のごとく、怒濤のようにやってくる。

 文芸革新運動(シュトゥルムウントドラング)ではけしてない。


 運命とは、唐突に激しく扉を叩くやっかいごとの到来のことだ。


 わたしの目の前にはイケメン。

 そして、そのイケメンに被るように目の前に浮かぶものが……。


 ああ、来たよ、また来たよ。

 来なくてよかったのに!!



 * * * *



 父の転勤により、2年の4月から通うことなったこの高校の不思議は、異様にイケメンが多いというところ。美少年から美中年まで、……いや、美老人まで選り取りみどりである。

 男子が学校に受かる(採用試験含む)には、『顔』の選考でもあるのかって思うほど多い。

 フツメンもいますよ?

 ただ、えーと、何て言いますか、顔面偏差値が極端に低い方がいないとでも言いますか。


 女子も美少女から美女までいるけれど、まあ、わたしは顔面偏差値を下げている部類だ。

 そんなわけで、女子に関しては顔の種類の幅は広い。

 天国(ピン)から地獄(キリ)まで。


 初めはわたしもうきうきしてた。

 もしかしたら、イケメンとお近づきになれるんじゃないか。

 あわよくば、付き合っちゃたりなんかしたりしてー!!

 とか、テンション高く考えていたわけですよ、ええ。


 だから、初めはいろんなイケメンと仲良くなれるのが嬉しくてたまらなかった。


 同じクラスの寡黙な御曹司

 御曹司の友人で隣のクラスのフェミニスト

 可愛い系の小悪魔な後輩

 明朗快活な新聞部の先輩

 クールビューティーな生徒会長

 ホスト系の保健室の先生

 頼れる用務員のおじ……いや、おにいさん


 今なら空も飛べるはず!

 そのくらいに気持ちが舞い上がってた。


 そんななか、最初に激しく扉が叩かれたのは5月の運動会のころだった。


 わたしの高校は、5月に運動会がある。

 クラスの一致団結を図るため、らしい。

 1ヶ月たち、それなりに学校に馴染み、クラスに馴染み、級友に馴染み、さらに運動会に向けての練習により仲良し度は増して……そう、増しすぎたから起こったのかもしれない。


 運動会の競技で、クラス全員参加型の男女混合2人3脚なるものがある。

 クラスでくじ引きをして相方を決めたわけで、ちなみにわたしの相方は寡黙な御曹司だった。


 わたしはあまり運動神経がよろしくない。

 運動神経が神がかる御曹司についていけなくて、出だしから足並みが揃わない。

 何度やっても、わたしがこける。

 周囲の呆れも最高潮に達し、とうとう放課後二人で練習するところまで陥った。


 放課後も状況は変わらなかった。

 何度やっても上手くいかず、しまいには御曹司を巻き込んでド派手にこけた。


 ゴムの地べたにべたりと張り付くように倒れ付していると、目の前には手が差しのべられた。


「大丈夫か?」


 間違いなく御曹司!

 優しさに心震わせながら顔をあげたら、目の前におかしな光景が目に飛び込んできた。


 ぽかんと口があいた。


 何がおかしいって?


 1・笑顔で手をとる

 2・手にすがり付いて泣く

 3・手を(はた)いて一人で立ち上がる


 だって、目の前にポップアップして見えるんだよ。

 選択肢が。

 なんだこりゃ。


 いやどれもいらない。

 自分は一人で起き上がりたいが、手を叩きたいのではない。


 『笑 顔 で 一 人 で』起き上がりたいのだ。

 

 でも、何故か体は動かない。

 動いて! 動け……動けってばー!!!!


 そう思った瞬間、頭の中に色んな光景が入り込んできた。

 きっと走馬灯とはこういうものなんだろう。


 ああ、この世界は。


 スマホ乙女ゲーム『恋愛学園ラヴァーズ☆ゴシップ』……!?


 選択肢を残して、わたしの記憶はフェードアウトした。



 * * * *



 そこからは3択ポップアップ地獄だった。

 選択肢以外の行動をしようとしてもできなかった。

 選択するか、失神するかしないと選択肢は消えない。


 どうしても選べないときは失神を選ぶしかないのだ。


 そんな時に使うのは前世を思い出そうとすれば良かった。

 失神ができる。


 ちなみに、そこで見た前世の記憶とやらは、失神から目覚めるときれいさっぱり残っていなかった。


 いや、ちゃんと『ゲームの世界』と認識してるから、ほぼ残っていないという方が正しいか。


 既視感(デジャヴ)というものを感じることはとても多く、そんな中で今まで生きてきた。

 だからといって『自分』が揺らぐようなものではなかった。

 テレビで見たんじゃない?

 それですむようなものだった。


 たぶん、前世の記憶が曖昧なのは、今生の自分を守るためなんだと思う。


 そんな状況だから、ポップアップが起こらないと、どの人物が攻略対象かわからなかった。


 嫌なことに、意味わからないほどイベントが次から次に起こる。

 一度始まった(自分には始めた自覚はない)イベントは続くらしい。


 いや、確かにゲームとしての時間軸を考えれば、同時攻略を狙えばこんなペースなのかもしれない。

 学校のイベントやら季節のイベントやらの時期に重ねて、攻略イベントがあると考えれば、ね。


 でもね、限度がある。


 一気にいっぱいきても、対処しきれないし、お腹も胸もいっぱいになるってなもんですよ。


 わたしは穏やかに生きたいのよ。

 3択とかいらないし。

 自分で考えさせて。

 自分の好きなように行動させて!!



 * * * *



 恋に恋することができない少女、(こい)() 恋桃(れもん)

 目の前のイケメンには分からないように、彼女はそっと小さくため息をついた。

恋出(こいで) 恋桃(れもん)


ゲーム開始時のデフォ名。

恋が続きすぎて、じっと見てるとゲシュタルト崩壊が起こる…気がする。

恋する桃だけどレモン。

日本人だから、イニシャルR。


英語圏内だとlemonに良い意味合いはないので、イニシャルRで良いのかもしれない。

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