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BEAST KILLER  作者: チーター
STYLISH① ぶっ壊れた世界
1/2

Get down(跪きな)!!

ボクはにんげんがだいきらいだ。


ボクとボクのトモダチをいじめるんだ。


だけどボクがにんげんにぶたれると、トモダチはおこってかわりににんげんをぶってくれるんだ。


あかいおみずがおおきなおててについてたからあらってあげたよ。


キミのつめはながくてかっこいいなー。もふもふしたからだがあたたかいよ。


なんでにんげんはトモダチのコエがきこえないのかなー。



────ある少年が厳重に保管する、ボロボロの日記の一ページ。


───────────────────────

Sigh(あー)……this trashy(くだらねェ任務だな) mission……」


草木一つない枯れた大地の上で、青年は一人呟いた。


漆黒の髪とコートが風に煽られる中、右手に握られる五尺程度の刀を背に掛ける鞘に納め、少年は近くの場に腰を下ろした。



十八、九歳の外見をした青年────リンネ・リゲルは一息ついた後、頬に付着した赤黒い血を拭う。


この血は彼の白く細い体から出たものではない。それは彼の周辺に力無く伏す“異形の生物”達の血糊。


このご時世に生きる人間はそれらを“動物”と呼んでいる。



「イヌ討伐ご苦労様でした」


しばらく経つと、一人の青年がこちらに向かって来る。彼の名はロージ・シリウス。リンネと同じある組織の一員である。


「何で俺がこんなの殺すのに国外に出向かないといけないんだよ」



ロージの姿を確認するや否や、不機嫌そうにリンネは言った。



「同感ですが、司令官の命令です。さァ帰りましょう」


前髪がツンと跳ねた茶髪をいじりながら彼もまた不機嫌そうに言う。



「わかったよ」とリンネは立ち上がり、ロージと共に枯れた大地を行進していった。


途中、動物────四、五メートルある巨大な[イヌ]の死体を、ゴミ扱いするように靴で踏みにじりながら。



そう、動物だ。


人間と共存していた生物。


人間を生かすための食料。


人間と交流を深める友達。


そして、人間の都合により消される者。


その動物のほとんどが二百年前に“進化”し、“狂”った。


独自進化と狂暴化と呼ばれる二つの変貌現象により、弱い人間は喰われ、数を減らし、築き上げた文明は一度大きく衰退した。


それ以来、生き残った人間達は動物との関わりを閉ざし、今では動物は人間の敵とされている。


だが、何故か[水中に生息する]動物と[クローン]された動物は変貌せず、今でも人間の食料とされている。


小型のジープが二人の帰る[東京国]まで車体を揺らし、文明が消えたこの大地を駆ける中、


「隊長、例の件は忘れてないでしょうね」



助手席側の窓を全開にし、黒の瞳で遠くを眺める特攻隊隊長リンネにロージは問うた。


「あァ。行方不明の三人を捜す、だろ。まだ情報はないのか?」


「それについての朗報があります……が」


ふとサイドミラーを覗いたロージの表情が変わる。面倒だ。ダルい。そんな呆れた表情に。



異変に気づいたリンネも窓から後方を確認すると、やはりロージと同じ表情に変わる。その右手は愛刀を握り締めた。



数十メートル離れた所で[ネズミ]と呼ばれる動物がジープを追いかけていたのだ。


灰色の体毛に棘の尻尾。口から飛び出た鋭い前歯。体長約五十センチのネズミが群れを成して。


「朗報はあとだ。面倒くせェが全体ぶっ殺す!」



ネズミ討伐


任務開始



動物討伐組織エタニティ。


リンネとロージは若くしてこの組織に所属している。


主な仕事は名の通り、動物を討伐することだが、エタニティの最終目的は動物と人間との再共存。


化け物と化した動物を討伐し、研究、そして原因不明の二つの変貌現象を解消することが目的である。


志同じくした者は全世界で何人いることか。二人の所属する東京国エタニティでさえ一万人を超える。




その中で討伐部隊の一つ、“特攻隊”の隊長リンネは勢いよくジープから飛び出し、“守備隊”の副隊長ロージが運転するジープはその数秒後に止まった。



「手伝いましょうかァ?」


「いらねェよ。しっかりジープを守ってろ。壊されたら帰るのが面倒だ!」



駆けるネズミ。小さな地響きが僅かに感じる。それを戦闘BGMにリンネは鞘を宙に投げ捨てた。


突如[風]が吹く。




風はリンネが握る刀から発生していた。微風ながらも足下の砂が空を舞う。



その時には既に一体のネズミがリンネの細い体を喰い千切ろうと大口を開けていた。


だが彼は焦りの色を浮かばせず、まるでゴミを見るかのような瞳で、


「汚ねェ口を開くな」



と吐き捨てる。次の瞬間には喰い千切られるであろう者が言う台詞でない。


余裕な表情を浮かばせ、ネズミの前歯が肉に触れる直前に刀を一振り。それも軽く、右から左へゆっくりと振った。



刹那、刀から発生した剣風が眼前のネズミを斬り裂く。半透明な風はまるで鎌のような形状をしていた。



斬り裂く風を発する刀。これは人間が変貌した動物相手に対抗する武器[SEW]である。


Second Evolution Weapon。通称SEWは第二進化武器とも呼ばれ、全ての生物が秘めている“不可思議なエネルギー(アンノウンエナジー)”を具現化させる武器。


形は豊富で、そのほとんどが現在まで使われている武器の形状をしている。




リンネの体内に秘める“斬り裂く風”のエネルギーがSEW()を通し発生し、眼前のネズミを斬り裂いたということだ。



「動物も武器も進化したっていうのに、何で人間は進化しねェのかねェ……?」



呟き、血飛沫と共に伏すネズミを足場に、大きく飛躍するリンネ。


快晴の空を翔破するその姿は最早伝説の存在とされた“鳥類”を思わせた。


真下にはネズミが待ち伏せている。空から落ちてくる餌を楽しみに待つように涎を垂らしながら。


「悪いがこっちを喰ってくれ」



空中で懐から暗色の大型拳銃を取り出し、刀とは逆の手で数発放つ。


その銃弾は斬り裂く風を纏っていた。


この銃はSEWではない。しかし、風を纏った銃弾はネズミの体に接触するや否や、その箇所は斬り裂かれた。



これはSEWの特徴の一つ“伝通”。



直接体から発することができないが、SEWが体に触れていることで他の武器にエネルギーを付加させる能力だ。



斬り裂く風を付加した斬り裂く銃弾によって三、四体は倒した。リンネはその無惨な死体の上に着地すると、まだ不慣れた手付きでマガジンを装填する。



「そういや……イタチってお前らの天敵だよな?」



呑気にネズミに話しかけるリンネだが、その際に辺りを見回し、残りのネズミの数を見ていた。




残り五体。




その隙にネズミの一体は棘の尻尾で、一体は前歯で襲いかかる。避けることも可能だが、彼は戦闘を続ける気はなかった。



何せ、戦闘は終わったからだ。


突如、襲いかかるネズミの動きが止まる。残りの三体もまた、尻尾の一動すらしなかった。



沈黙の世界と化する。



「Get down(跪きな化け物共) monsters!!」


ニヤリと口元を緩ませ、沈黙の世界を歩く。


土を踏む音が一つ、また一つ。投げ捨てた鞘まで戻り、刃が鞘を掠る金属音が戦闘の終わりを告げる。




完全に刀を納めた時、リンネの後方から何かが裂かれる音がする。噴水の如く噴出する赤黒い血は枯れた大地を潤した。



鎌鼬(かまいたち)”。リンネはこの現象を起こした。


肉眼では確認できないほどの速さで刀を振り、発生した鎌風がネズミを裂く。


皮膚が柔らかいネズミに、この技は有効だった。



ネズミ討伐


任務完了

─────────────────────


それから数時間が経った頃。



動物との関わりを閉ざす巨大防壁に囲まれた発展国────東京国。


かつて東京、神奈川、山梨と呼ばれた地域を合併したこの広大な国の北側に居座る東京国エタニティ。


形はまさに城そのもの。白銀の艶やかな城壁は光を反射していた。


城内には研究所、訓練所、隊員の寮など様々な施設が設置されている。



その巨大城のある一室────司令室にリンネは呼ばれていた。



「入るぞ」


入室するや否や、ソファーに乱暴に座り込む。その対席で東京国エタニティ最高司令官の小柄の老婆────モーラル・アルタイルは口を開く。


瞳と頭髪は希有な桃色だ。


「討伐任務ご苦労様でした。早速ですが───」


「任務発令。内容は三年前に行方不明となった四人のうち一人の女性、ルナ・スピカ。その捜索……だろ?」


  


リンネにはロージからの“朗報”によって呼ばれた理由を熟知していた。



もう聞いた、と足を組み、ふてぶてしい態度をとるリンネ。最高司令官を目の前に、このような態度をとる者はそうはいない。


リンネには義務がある。


三年前に失踪したエタニティ隊員三名の捜索。かつてはリンネもその内の一人であった。


だが、ロージのしつこいまでの捜索と説得により先月エタニティに再帰還した。


リンネの失踪理由は自身とある少女の目的のため。モーラルと側近だけがその目的を知る。


その前に、三年の身勝手な失踪による罰として、他の三名を捜索することが義務付けられたのだ。



「こちとら目的の為にパッパッと終わらせたいんでね。場所を教えてくれ」



目的、と聞くとモーラルの表情は暗くなる。まるで我が子が間違った道に進んでしまったように。


「……目撃情報は北海道国。ロージとクルーを率いて、明日の明朝に出発してください。話は以上です」



冷静沈着で頭脳明晰、そして完璧な統率力を誇る彼女は一万人強の部下を従える者。


誰しもが崇拝する彼女に、リンネは少しばかりの憎しみが募っていた。


だからと言って態度で表しているのではない。


ふてぶてしく、無愛想でクールな性格は生まれついてのものだ。



「……了解。俺は早起きが苦手なんでさっさと寝るわ」



背を向き、じゃあなと手振りする。ところが、モーラルの「待ちなさい」の一言に、その足は歩みを止めた。



「……あなた達の目的に私は肯定も否定も出来ません。ですが、“復讐”の心だけで人間は生きてはいけませんよ」



その言葉にリンネは酷く苛立った。自身の目的を阻害されたこと。そして、


「バァさん。何度も言うが、俺は[人間]じゃない。人間の形をしたただの[化け物]だ。そうだろ?」


人間扱いされたこと。



首だけ振り返った時、その目は睨み殺すかのような目つきをしていた。


再び歩みを始め、やがて司令室を退出したリンネの背を見て、モーラルは一人拳を握り締め、小さな声で、



「そうでしたね……。[シンカビト]」


と呟いた。


─────────────────


「ちょっと……私の話聞いてる?」



「黙ってろ。てめェのくだらない話なんて聞いてられねェんだよ」



薄青い瞳が、横寝で雑誌を顔に被せたロージの姿を映し出す。



エタニティの食堂にて、彼女────クルー・ベテルギウスは、ため息をついて長い金髪をルビーのピアスをつけた耳にかける。



───敬意を持った人間には丁重に接するくせに。



国内絶対守備を行う守備隊のロージ、動物の生態を調査する偵察隊のクルー。



隊は違えど、同年齢、同期の二人はかれこれ十数年の付き合いだ。


だからクルーはロージという男を十二分に熟知している。


ルックスは爽やかなクセに不良のような口調、態度。しかし二十一歳の若さで副隊長の座に恥じない戦闘力、カリスマ性。


彼女は内心憧れにも似た情を抱いていた。


「リンネちゃんと話す時みたいに私にもしてみてよ」


暇を持て余したクルーが遊び半分に言うと、


「うるっさいので、しばらくの間その軽い口の中に自分の手を捻り込んでいてくれませんか?」



その言葉を最後に、彼は眠りにつく。毎度の事ながらもクルーは気にもしない。


これが二人のコミュニケーションというのを理解しているからだ。



食事を済まし、「明日は任務だからね」の一言を添えると、彼女は明日の支度の為に食堂を後にする。



すると懐から一枚の写真がゆらゆらと落ちた。



それは三年前に撮った写真。満面な笑みのクルーとは対に、無表情で小柄な少女が映し出されていた。



「私の義妹いもうと……無事でいてね」



呟くと、付着した埃を優しく払い、大切そうに懐へしまい込んだ。


STYLISH①


任務完了



ルナ(月の女神)捜索


任務待機





挿絵(By みてみん)



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