表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

同じ血

道中、やはり〈黒き者〉の襲撃は避けようのないものだった。力を増したそれに一行は苦戦したが、さすが精鋭。先日の国軍の中隊とは比べ物にならないほど、あざやかにそれらを撃退していった。ライラックもこれには素直に頷くことができた。


「ね、まだかしら。」


夕暮れの休憩の中、シャーンは何度も何度もライラックに尋ねた。シャーンにとって、ちゃんと城の外に出たのはこれが初めてだったのだ。


「もう少しですよ。ほんとに。あと・・・一時間くらいです。」


彼女は、木陰で休んでいるライラックにむくれたような笑みを浮かべ、木の葉の隙間からあふれる木漏れ日を仰いだ。


「この世界はとても綺麗。水は脈打つように流れ、樹はその神秘をたたえるように佇む。空気は甘くて、太陽の力強さに目がくらみ、大地にのまれないようにわたしは立つの。」


語りながら、ライラックの隣に座る。そして、彼の手の甲に自分の手を重ねた。


「でも、なんだかもの悲しい。」


そう呟くシャーンに理由を尋ねようとした瞬間。彼らの後ろに潜む草影が揺らいだ。

ライラックからは穏やかな眼差しは消え失せ、シャーンをかばい、ぐっと警戒心を高める。手はすでに剣の柄に添えられている。


「よっ、シャーン。ひさしぶり♪」


その人物はひょうきんな声を上げ、ガキ大将のような笑みを浮かべ、こちらに近づく。


「・・・春宮(とうぐう)・・・!?」


ライラックはさきほどとは違う警戒心を抱き、彼の肩越しにシャーンの頬は強張った。


「この鎧重いな~、兵士は大変なんだな・・・。」


ひとりでしみじみと語る武将のような髭のある青年。春宮・ラーマ。シャーンの長兄だ。

そうすると、今度はどかどかと怒りを含んだ足音が聞こえてきた。


「兄上!!!!!!」


「おっぶ!!!!???」


まだ幼さの残る青年はラーマの頭を引っ叩いた。身なりは、ラーマと同じく兵士の甲冑だ。


「・・・って~~~、ハミトぉ、私のことを兄だと思ってるか?一応、春宮なんだけど。」


「兵士とドンチャン騒ぎをしたあげく、作戦を無視していなければ。偉大な兄上だと尊敬しますよ。」


ハミトは盛大にため息をつく。この様子だと、ラーマは相当に自由奔放したらしい。


「それよりもな、ハミト。おまえもわかったか?兵士の甲冑があまりにも重いと思わないか?・・・これは早急に改善すべきだ。もっと軽く、なおかつ耐久性のあるものに!」


「それは私も思っていました。・・・じゃなくて!!!」


この兄弟のやりとりを、シャーンとライラックは文字通り、口を開けて見ていた。

とりわけライラックは、皇子であるラーマとハミトが口をきいている姿を見るの初めてだったため、ある種のダメージを受けていた。


「・・・あ、なんかひいてる。」


ラーマはにやぁっと笑うと、ライラックの方に腕をまわした。


「おいおい~、やっぱおまえたち・・・デキテルカンジデスカ?」


「は?」


ライラックは素のトーンで返事をした。


「だよなー。だって、こんっっっっなガキの頃から一緒だもんな~♪・・・どこまで進んでんの?」


「兄上!いい加減にしてください!!」


何故かハミトが顔を赤くして怒鳴り、兄の首根っこをつかんだ。当のラーマはそれすらも面白がっている。


「ラーマ兄上、ハミト兄上。なぜ、このようなところにそのような身なりで?」


シャーンはくすくす笑いながら、兄たちに尋ねた。


「そりゃ、妹の見送りだよ。でもさ、母上がなんだの心配性だから、こうやって兵士に変装してついてきたってわけ!」


「この護衛の兵士たちは、すべて兄上と私の息がかかった者たちだ。心配はいらんぞ。」


「で、シャーンの見送りをしようって言い出したのは~・・・ハミト兄ちゃんなんだよな!」


風がハミトの額にある傷をなでる。シャーンは少し顔をしかめた。シャーンとセリの溝の原因となったものだからだ。

幼少のシャーンは〈奇跡の君〉としての力の制御ができなかった。そんなときに、シャーンとハミトは些細なきょうだいゲンカをした。怒りはシャーンの力を引き出し、ハミトを傷つけてしまった。そこから、セリはシャーンを恐れるようになったのだ。


「ハミト兄上が・・・?」


「い、妹の見送りに行かないとなれば、兄としてのあれがだな・・・。」


ハミトは恥ずかしげに頭をかく。シャーンは嬉しそうに微笑んだ。


「それから、セナからの花向けだ。さすがにセナを連れ出すのはまずいからな。」


ラーマは懐から朱色の花が刺しゅうされた巾着を取り出した。シャーンは受け取り、中を開けた。

中からは、コスモスの花のしおりがでてきた。


「セナは一番綺麗なコスモスを探すんだと、秋空の中、3時間も城の庭という庭を駆け回っていた。」


ハミトは愛おしげにその光景を説明した。シャーンは幼く愛らしい妹をそっと思った。無邪気な子、セナはセナのままでいてほしい。自分のようにならないでほしい。そう強く望んだ。


「そして、私たちからはこれを・・・。」


ラーマはシャーンの首にそっと何かをつけた。鎖骨のくぼみに冷たい何かが収まった。


「・・・兄上・・・これは・・。」


濃い紫の玉は夕暮れの日にあたり、その輝きを増す。それは皇帝家に伝わる玉だった。それを銀の鎖に通し、首飾りとしたのだ。


「〈奇跡の君〉やら〈伝承〉やらを私たちは重んじている。私もハミトもそうだった。それらを敬い、それらを真としていた。・・・おまえが、人質になるまでは。

表向きは国の民のため。だが、ほんとうは〈伝承〉を成立させるため。〈王の王〉のもとへ〈奇跡の君〉を売ったのだ。恐れながらも、父上はそういう方だ。赤子のようにそれを信じておられる。

おかしいよな。実の娘が帳をまとうところへ行くというのに、〈伝承〉のためだと正当化している。・・・この国は、暗い。」


ラーマの言葉にハミトが連なる。


「どうか私たちを許さないでほしい。変える力のない私たちを。それがこの兄たちからの心からの願いだ。

そして、許してほしい。私たちとおまえとには、天変地異すらも変えられぬ、同じ血が流れているという事実を。私たちがおまえを妹として慈しむことを。」


シャーンの吐息が揺らいだ。ふたりの兄に抱きつくと、涙を流しながら言った。


「・・・そんっ、なの・・・許さない・・・!・・・わたしを妹と思うことに非を感じるなんてっ・・・許さないんですからねっ・・・!!」


ふたりは頬を赤くしながら、見合った。


「いや~、女心は難しいな。」


「・・・ですね。」


泣きじゃくるシャーンと兄たちの姿を見て、ライラックは改めて、赤い痣を憎く思った。


「ラーマ様はわりとガキ大将チックなんですね。ハミト様は意外と熱血漢だし。シャーン様の兄弟ってギャップの差が大きすぎでしょ。」


ラーマとハミトが城への帰路に足を踏み入れた後、ライラックとシャーンは馬に揺られながら語り合った。


「ほんとうに、とても素敵な贈り物だった。」


瞼を赤くしながら、シャーンは微笑んだ。あの血の玉が夕日にきらめいていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ