伝承
シャーンはとある国の姫宮だ。その国には〈伝承〉が不変の真ととされ、民はもちろん、帝までがその〈伝承〉をもとに政をするほど、〈伝承〉は重要なものだった。
〈伝承〉は単純明快なものだ。
世界にまだ何もなかった頃、神は生命を生み出した。大樹や獣、花々が咲き乱れる美しい世界。そのなかに、神は人間を生み出した。人々は世界と共存し、たちまち世界は光に満ち溢れた。
やはり、人間の欲というものはどの時代にも存在するのだろう。
人間は夜、すなわち〈闇〉を欲した。そして、神は〈闇〉を生み出した。
人は歓喜し、光が満ちる朝は汗を流し、夜は星空の最中に眠った。
それから、人がつけ上がるのに時間はかからなかった。
人間は文明という力を手に入れ、大樹や獣、花々を蹴散らし、世界を己が物だと主張した。その姿を見た神は憤怒し、光を奪った。
すると〈闇〉が動いた。いままで眠るように存在していた〈闇〉が、人々を喰うようになった。
人間は絶望した。そして、悔いた。
神はその様を見て、人間に二筋の力を与えた。
〈奇跡の君〉と〈王の王〉である。
〈奇跡の君〉は翡翠色の髪に、両頬に赤い逆三角形の痣をもつ神々しい少女で、摩訶不思議な力を抱いていた。
〈王の王〉は逞しい青年で、雷のように剣をふるい、たちまち〈闇〉の勢力を退かせていった。
ふたりは瞬く間に〈闇〉を封じ、世界に光を取り戻した。
それから〈奇跡の君〉と〈王の王〉は時代の点に現れ、世界を困窮から救うようになった。
偶然か必然か、ふたりが出会わない時代はなかった。
そして、それはいまの時代にとっても、必然なのだろうか。