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24 黒い天の川(後)


「テンテンよ、その男のいうことに耳を貸すではないぞ」


 雲海天狗の、押し潰したように低い声が響く。

 敬愛する雲海天狗様の言葉に従うべきだと頭では解っている。だが不安で火花を散らすテンテンの心は、己に隠された異形の子という言葉の意味を、求めることを止められはしなかった。


「おらは何も悪いことしていない。どうして、子供のおらが厄災などと呼ばれなくちゃならないのさ」


 漆黒の着物に劣らず、深く底のない男の眼球から目を離さぬよう、テンテンは軋むほどに歯を食いしばった。


「異形の子が求めれば、誰にも止められぬのが天狗の古例であったな」


 含みを持つ男の笑いに、辺りは古老達の歯軋りが響きそうなほどに、静まりかえる。

 

「如月というその男、異形の子の話を盗み聞いたことがあってな。かなり前から、この小天狗が異形と呼ばれる張本人と知っていたさ。だからわたしはこういった。五百年の時を経て異形の子が姿を現すとき、それはその者が天狗の里全てを統べるのだと」


 如月の顔が歪んでいるのは、激痛のせいだけではないのだろう。

 テンテンを睨める視線は、面を通してなお憎しみに満ちていた。


「このままなら如月がこの里を治めることになったであろうに、当たり前と思い込んでいた予定が狂い、この男の中に嫉妬と憎悪の念が生まれた」


「如月の兄様」


 か細いテンテンの声は、如月には届かない。


「助けてやろうといったのだ。異形の子を殺し、天上天狗と雲海天狗の命を奪えば、この里はおまえのものとなると。そのために、苦緑神清丸を飲み込んだ人の子を攫ってこいと」


 くつくつと男が笑う。


「もちろん如月の裏切りは里に伝えてあった。親切心ではない。予定どおり異形の子が目覚めこの里に残ろうが、この里を出ようが、わたしには得る物があったからな」


 如月が、膝を擦って男に詰め寄る。


「その男は最初から、苦緑神清を得ることが目的だった。しくじり続けてどうにもならなくなったから、わたしを使ったのだ。この男は神を憎悪している」


「黙れ若造」


「わたしは愚かだが、真意を見抜く目は誰よりも長けている。おまえが使う術など、目の曇りが晴れた今では透明な泉を覘くようなもの。この男は天狗の里が邪魔だった。この男がしようとしているのは……」


「黙れ!」


 如月の言葉が、最後まで紡がれることはなかった。

 蹴り上げた男の足に弾かれ、如月の体が空に舞う。

 翼を失った体は、重力に抗うことなく森の底へ落ちていった。


「兄様! 如月の兄様!」


 テンテンは両の手で顔を覆った。

 誰も如月の兄様を助けようとはしなかった。天狗の世で裏切りの代償は重い。

 切り落とされた黒い羽だけが、血の跡と共に大地に横たわる。

 テンテンは顔を上げ、男を見据えた。


「全てを知りたければ、その手に抱えて必ず、ここへ戻ってくるがいい。人の子を連れて、必ずな」


 意味がわからなかった。

 テンテンから男までの距離は、小天狗達がよく遊ぶ川の幅にも満たない。

 手を伸ばせば届く近さではないが、テンテンの足であれば、不意を突いて飛びかかることのできる距離だった。


「翼がある者は、必ず飛べる。それとも見捨てるか? 運命を己の手で掴むがいい」

 

 崖の縁に立っていた男が、ぐいと腕を後ろに引いた。

 崖の外へ、人の子の体半分がはみ出した刹那、男の黒い着物の袖がバサリと揺れ、襟首を掴んでいた手が離された。


「止めろ!」


 支えとなるものを失った人の子が、仰向けのまま崖の向こうへ姿を消した。

 男が人の子の襟首を手放すのと、テンテンが地を蹴り駆けだしたのは同時。

 己が飛べないことなど、考えてはいなかった。

 助けようと伸ばした小さな手が届かずに、勢い余ってそのまま崖の外に放り出されたようなものだった。


 風圧に掠れる眼下に、驚愕に目を見開いたままの人の子が見える。

 体の軽いテンテンより、猛烈な勢いで落ちていく。

 距離が遠くて、助けようと伸ばしていた、小さな手から力が抜ける。


  チリン


 体を叩き付ける風圧のなか、鈴の音が響いた。

 あの優しい手のひらが、ほんの一瞬テンテンの頬を撫で掠めた気がした。


「ねえちゃん!」


 ダメだ! 駄目だ! 死んじゃ駄目だ!


 いや、違う。

 ねえちゃんが死んだら、嫌なんだ。

 死なせたくないんだ。


 落下する風圧の中、テンテンは鎌首をもたげるように前を向き、かっと目を開く。

 さっきまで体を押し上げていたものとは、明らかに違う疾風がテンテンの小さな体の周りで渦巻いた。

 離れるばかりだった人の子との間が、驚くほどの速さで縮まっていく。

 無意識だろう。人の子がテンテンに向けて手を伸ばした。

 攫うようにその身を掴み上げたテンテンの体が、重力に逆らって空に舞い上がる。

 テンテンは、ひたすらに崖の上だけを一心に見つめた。

 背には濡れたように輝く漆黒の翼が広がり、その内側は誰も目にしたことがないであろう、銀のように瞬く灰色の羽が覆っていた。



 崖の上に立つと人の子をどさりと手放し、テンテンは立ち尽くした。


「飛んだ、おら飛んだのか?」


 恐る恐る背後を見たテンテンの目に飛び込んできたのは、見慣れぬ灰色の翼。

 ひぃっ、と喉を詰まらせたテンテンに、嘲った男の声が投げかけられる。


「灰色なのは翼の内側だけ。その程度で驚いていて良いのか? おまえはどうやって人の子を掴んでここまで運んだのだ?」


 いわれてテンテンは己の手を見た。

 

「おらの手じゃない」


 震える声で何度手を引っ掻いても、引き抜こうとしても、痛みが走るだけで履き物のように脱げることはない。

 地に降り立った足は見慣れぬ形に歪み、先が岩場に食い込んでいた。

 テンテンの手と足先は、黄色く骨張った鷹のそれであった。

 翼以外は人の子と何ら変わらぬ姿であったのに、テンテンの手足は硬く三つ叉に割れた先に、黒く鋭い爪が尖っている。

 天狗とも、人ともつかぬ異形の者。


「五百年に一度現れる厄災と呼ばれし者が、異形の子といわれるの訳がわかったであろう? 醜いものよなぁ」


 転がったままテンテンを見る、人の子の目が驚きに揺れている。

 縋るように見た雲海天狗は、一文字に口を引き結びテンテンから視線を外した。


 そのような中、口を開いたのは天上天狗だった。


「わたしや雲海天狗様を含む、古老の者はみな知っていた。おまえが産まれたとき、折りたたまれた小さな翼に、あってはならぬ羽の色が混ざっていたからだ。里の者はそれを知らない。異形の子が産まれたことを知って良いのは、里の古老のみと、古の書に記されていたのでな」


 慕っていた天上天狗と雲海天狗が、こうなることを知っていた。

 知っていて沈黙を貫いた事実は、心に小さな亀裂を生むには十分だった。


「古の書に書かれていたから、己に罪はないとでもいいたいか? 天上天狗よ」


 狂ったように耳障りな、男の笑い声が山に木霊する。


「いいか異形の子。古老以外に事実を伝えぬのは、村の小天狗とおまえが仲良くなることのないようにするためだ。仲の良い者がそのような、異形に姿を変えたら辛かろう? 小天狗達の心を守るためにも、おまえが虐められるのは必要なことだった。だから、誰も咎めなかった」


 虐められて泣くテンテンを、優しく膝に抱いてくれた雲海天狗様。

 親の代わりに食べ物をくれた雲海天狗様。

 虐めてはならぬと、一度も止めに入らなかった雲海天狗様。


 心に僅かに入った亀裂が、布を裂くようにひろがる。

 テンテンの心が壊れるこの日まで、黙って見ていた雲海天狗様。

 テンテンの口から、小さく笑いが漏れた。


「おらは飛べないから、虐められていただけじゃないのか。産まれては、いけない存在だったんだな」


 いつか飛べるようになったら、友ができると思っていた。

 大人になったら、里のみんなと普通に暮らせると思っていた。

 だから、がんばれたのに。


「おらはもう、この里には居られないのかな」


「居られぬな」


 答えた男の真意を読み取ろうとしたが、朝靄に閉ざされたように、何一つ見えてくるものはなかった。


「その姿では、里の者が恐れるであろうよ」


 ふとすずを思った。

 片眉をつり上げた、いたずらっぽい笑顔が蘇る。

 ねえちゃんも、おらを気味悪がるだろうか。だからこそ姿をみせないのではないか。そんな思いが、テンテンの僅かな気力も削いでいく。


「異形の子は背負ったその苦難と引き替えに、ひとつだけ願いを聞き届けられる。その範囲は己の里にとどまらず、天狗里全てに及ぶ」


「どんな願いも?」


「そうだ。住みたい里に居たいと願えば、里人として受け入れられる」


「普通に暮らしていけるのか?」


 男の目が暗く細められた。


「用意された屋敷で、一生を終えることとなる」


 幽閉という言葉を思い出した。

 屋敷からでることの許されない、生きる屍。


「テンテンしっかりしろ! 飛べるようになって強くなっただろう? ぼくを助けてくれただろ? 虐められっ子のテンテンじゃないんだぞ!」


 人の子だった。

 蔑むように見下ろしていた男のつま先が、人の子の腹にめり込んだ。

 

「異形の子よ。孤独からおまえを救う方法を教えてやろうか?」


「それ以上無駄な口をきくな」


 雲海天狗が足を一歩前へ進めた。その身から怒りが立ち上っているのが、テンテンさえ見てとれた。


「黙れ! 古例に抗えぬ古狸どもが。逆らえるものなら止めてみろ。あるいは、革新に打って出てこの哀れな者を救ってみるか? 順を踏まずに厄災を受け入れたなら、この里に未来はない。なにしろ、天狗里の全てから、近づいてはならぬ厄災の里として疎まれるだろうからな」


 人の子は腹を抱えたまま蹲り、テンテンの為に声を上げる者はただの一人も居なかった。

 テンテンの中で限界まで伸びきって張った糸が、ぷつりと音を立てて切れた瞬間だった。


「方法を教えてくれよ。おらを助ける方法を知っているのだろう?」


「知っているとも。異形の子が己の姿を取り戻し、何一つ変わることなくこの里で暮らしていける方法をな」


 歪に形を変えた己の手を見ながら、テンテンは身を震わせた。

 夢にまで見た、普通の暮らしを送る方法があるのなら、この男が知っているのなら。


「どうしたらいい? おらは何をしたらいい?」


 にたりと笑った男が、ゆっくりと腕を上げ指を差す。袂の裾から毒々しい赤い色が覘く。


「人の子の腹を裂け。そして苦緑神清丸を取り出し、飲むのだよ。ただそれだけのことで、おまえは厄災の全てから解放される」


 まだ立ち上がれないのだろう。指差された人の子が、身を丸めたままじりじりと後ず去る。

 さすがにテンテンも、息をするのさえ忘れて身を固めた。

 他者の命を奪えといわれるなど、思ってもいなかった。


「翼が広げられたときの巨大な気は、吹き下ろす風にのって木々を渡り、他の里の隅々にまで届いたはず。異形の子が目覚めた知らせに、全ての天狗里が動き出す。その前に決断するがいい。苦緑神清丸を必要としているのは、おまえばかりではないのだから」


「人の子を殺すなんて、無理だ。おらにはできないよ」


「ならばその醜い姿のまま、朽ち果てるまで生きてみるか? 誰とも言葉を交わすことなく、思い出を分かつ友もないままに」


 そんな生き方はしたくない。

 普通にいきたかっただけなのに。

 たったそれだけなのに。


「忘れていたが、もう一つの道もある。 このまま里を離れ、どこの天狗里にも受け入れられることなく、この広大な森の、孤独な自由に生きる道」


 テンテンはもはや、里の者の方を見ることさえしなかった。


「聞こえるか? 森に点在する天狗里の者達が、一斉に飛び立ったぞ」


 鼓動が跳ね上がり、鋭く弧を描いて伸びる黒い爪が熱を帯びる。

 この様な爪では、触れる者全てを傷つけるだろう。

 夢にまで見たまだ見ぬ友の肩に、手を置くことさえ許されぬ生涯など。


 嫌だ!


 体に見合わぬほど大きく黄色い鷹の足で、テンテンは硬い岩場を蹴り、地を這う疾風のごとく土埃を舞上げ飛びかかった。

 鉤爪の下に押さえ込んだのは、人の子の胴だった。


「テンテン、止めるんだ!」


 押さえつけた腹に食い込む鉤爪に人の子が呻く。


「一生ひとりぼっちなんて、おらは嫌だ。おまえの中にある、苦力神清丸を飲めば、元の姿に戻れるんだ。里の仲間に戻れるんだ」


 乾ききったテンテンの瞳は、面の下で血走っていた。

 少しずつ力を込めるに合わせて、眼球の血管が切れていく。

 頑なに守り続けた己の尊厳が、心持つ者の良心が、ぶちりと音をたてて爆ぜていく。


「苦しめるな。早く楽にしてやれ」


 男の声は、人の死を楽しむ者特有の色を帯びていた。

 ねちゃりと尾を引く、暗く陰湿な怨念。


「テンテン、天狗でなくては駄目なのか? 天狗でなくては、友にはなれないのか?」


 もがく人の子をさら締め付ける。

 里に居たい。ここで暮らしたい。

 腹を押さえていた、テンテンの鉤爪が頭上高くに振り上げられた。


  リン


 鳴った鈴の音が、テンテンの頭の奥底を揺さぶった。


――ねえちゃんが、泣いている。


  チリン


「毎度毎度、邪魔立てしてくれるなよ。煩わしい」


 鈴に手を伸ばそうと踏み出した男の、着物の裾が捲れて赤い色がべろりと顔をだす。

 まるでこの男が吸い尽くしてきた、血の色のようだとテンテンは思った。

 

  リーン


 振り下ろされた鉤爪に、男の動きが止まった。

 人の子が、声にならない悲鳴を上げた。


 鉤爪は人の子の腹から、一寸ずれた岩に突き刺さる。

 真横に薙ぎ払ったもう一方の鉤爪が、男の肋を捕らえ吹き飛ばした。


 血走って乾ききったテンテンの瞳に、湧いて出るものがあった。


「やっぱり嫌だ」


 人の子が驚いた表情のまま、覆い被さるテンテンを見上げている。


「おまえが死んで、ねえちゃんが悲しむのは、やっぱり嫌だな」


 黒い面の下からぽたりぽたりと涙がしたたり、人の子の唇を濡らして落ちた。

 酒の滝ですずの胸の中泣いたときと同じ、子供の声でテンテンは泣いた。


「テンテンの涙、ぼくと同じだ。しょっぱいよ」


 人の子が微笑む。

 テンテンの頬に触れた人の子の指先は、すずと同じように温かかった。


「これで良いのか?」


 雲海天狗が背後に立っていた。


「いいです。もういいんだ」


 なぎ倒されて意識を失った男の体を、若い天狗が乱暴に掴んで崖の外へと放り出すのが見えた。

 覆い被さっていた人の子から身を剥がし、テンテンは立ち上がって空を見上げた。


「他の天狗里のみんなが集まってくる」


 テンテンの言葉に、居合わせた全員が空を見た。

 遠く山向こうの空に、どこからともなく細く黒い筋が蜘蛛の糸のように流れてきた。

 あらゆる方向から湧いたようにこちらへ向かう黒い流れは、やがて合流して一本の流れとなった。


「すごいな、まるで黒い天の川だ」


 人ごとのようにテンテンが呟く。

 やがて黒い天の川は、テンテン達のいる崖の上で弧を描いて回りはじめた。


「テンテンよ、おまえの言葉を待っているのだ。その生涯、どの里で過ごすかを、決めなくてはならない」


 天上天狗の声に哀れみが混ざる。

 あるいは贖罪だろうか。

 どんな古例があるのかテンテンは知らないし、今更知ろうとも思わない。

 はじめから見捨てたようにテンテンを里に置いていたと解った今でも、天狗の里を心から嫌うことはできなかった。


「天上天狗様、おらの願い、何でも叶えて貰えるの?」


「我らにできることであれば、何でも叶えよう」


 ひとつ頷くと、テンテンは巨大な雨雲のごとく空を舞う、天狗達をまっすぐに見据えた。


「ひとつだけお願いがあります。今宵この森で開かれる、四季神様の花見が何処で行われるのか知りたいんだ。時間がないから、必ず見つけてほしい。急いでくれよ」


『御意』


 天空から吹き下ろす風に乗って、天狗達の声が届く。

 蜘蛛の子のように、天狗達は方々へと散っていった。


「なぜそのような願いを? どこの里にも身を寄せないつもりか?」


 雲海天狗が、驚きを隠せないままテンテンに問う。


「いいんです。屋敷に幽閉されても、友達はできない。なら、この森を一人飛び回って友を見つけます。人の子のいう通り、天狗である必要ないから」


「だからって、どうして四季神の花見の場所を調べさせたりしたのさ」


 少し怒ったような人の子をテンテンは、つんと顎を上げて見返した。


「言っておくが小汚い人の子のためではないからな! ねえちゃんのためだ」


「すずの?」


「せっかく殺さないでやったのに、今夜の花見に間に合わなければ、おまえはその……色々困ったことになるというからな」


 三ヶ月ここに足止めを食らえば、人の子が死ぬといったバッテンの言葉は呑み込んだ。


「そういえば、バッテンは?」


 慌てて見回すと、泣きそうな表情で立っているバッテンがいた。

 恐る恐る側まで行き、テンテンは頭を下げた。


「ごめんな、バッテンの大切な人を、この爪で殺そうとした」


 バッテンの手がすっと持ち上げられ、テンテンはまた打たれるかと目を閉じた。


「テンテンに殺せやしないよ。だからわたしはここで見ていたのだから」


 バッテンの大きな手が、テンテンの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「だって、テンテンはわたしの友だろう?」


「バ、バッテンなんか、もうちょっとでオッサンじゃないか!」


「見た目は若いよ。それにあと五十年もたてば、テンテンだってオッサンだ」


 ふくれたテンテンはバッテンに背を向け、それをみてバッテンは声をたてて笑った。

 背を向けたテンテンは、白い歯をみせて笑った。

 嬉しくて体がむずむずして、だけどこんなに喜んでいる姿は、バッテンには見せずにいようと思った。

 友とはこうやって、少しずつこの手で見つけていくものなのかもしれない。


 遠くの森から角笛の音が響いた。


「良かったな、花見の場所が見つかったようだぞ」


 テンテンが微笑むと人の子は、少し哀しそうに申し訳なさそうに微笑んだ。

 黙り込んだままの里の天狗達に、テンテンはぺこりと頭を下げる。


「意味のない古い慣習を変える勇気が、天狗の里にはあると、おらは信じてます。親無しのおらを、育ててくれてありがとうございました。そして……さようなら」


 提灯に身を潜めたバッテンを肩に背負い、人の子の服を掴んでテンテンは空へ躍り出た。


「さあ、角笛の鳴る方へいこう。花見に間に合いそうだぞ」


 掴まれた服に腰を締め付けられた人の子が、うえっと声をたてる。


 森に散っていた天狗達が、役目を終えて徐々に集まり、山の向こうへと飛び去っていく。

 夕日に照らされた黒い天の川が、淡く輝いて天空高くを流れていった。


読んで下さってありがとうございます!

このあとは、四季神のお祭りへと続きますね。

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