プロローグ 「能力無し人生」
何個か、書いたうちの一つを投稿します。前の二つは、引越しでどこにあるかわからない状態なのでお待ちください。
理不尽な世界は経験しても得られる技術は限られる。勉強できるのにスポーツが苦手な人や、
料理は出来るが機械が苦手な人とか、人と仲良くなれるが彼女がいないとか。
人にはさまざまなメリットとデメリットがある。一番の要因は能力<スキル>があるかないかだ。
だがそんな能力<スキル>を得るには膨大な経験と修練が必要になる。短くて1年、長くても10年以上。
だがたまに経験しても修練しても身につかない人も居る。たとえば彼のように・・・。
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「先輩、ここはどうすれば?」
黒いフレームの眼鏡をした、いかにも新人丸出しな会社員が先輩に聞いているのだ。
しかし、その背広は年季が入っている。張りがなく、かなりよれよれしている。
「おい、泉須<センズ>。お前この会社入って何年だ?」
こちらは不精ひげを生やして、いかにも経験豊富な会社員の格好をした人がいる。
あきれた顔をしながら、深々とため息を吐きつつ話しだす。
「お前な~もう3年も仕事してるんだ、そろそろ俺に聞くのじゃなく自分の経験から判断しろ」
「やだな~先輩、経験してるから先輩に聞くんですよ」
この会話は、入社してからずーっと続けてきた。3年間ずーっとだ。
もともと先輩は企画とまとめはできても、構図をしたり途中のことが苦手だった。
そこで俺が構図やらをして、あとは先輩がまとめることをする。
小さいプロジェクトをこつこつとこなしてきたので、今回初めて大きいのを任された。
ほかのスタッフもいるが、先輩と俺はこの大プロジェクトのチーフと副チーフだ。
企画を立ち上げてから早くも三ヶ月がたち、後は俺と先輩でまとめることだけだった。
「しかし、お前も変わってるよな。経験豊富な癖に身についてないってのもおかしすぎるだろ」
「どうしてでしょうね?ゲームだったらレベルは上がってるけどステ振りしていない感じですよね」
「なんか、スキルポイントとか多めに溜まってそうな人生だな」
意外かもしれないが二人はレトロなゲーマーなのだ。入社して以来、二人の会話は仕事のことかゲームのことだけになっている。
「加納猛<かのうたける>」先輩はファ○コン時代、俺こと「泉須忍<せんずしのぶ>」はスー○ーファ○コンだ。
二人ともRPG派なのでかなりやりこみを基本としている。今ではレトロだけならやったことのないRPGはないほどだ。
最近はMMORPGにもはまり、VRMMOにまで手をだしてる。
しかし世代的には古い、もしくはレトロな感じのやつばっかりだったりする。
ひとつ新しいのといえば、「スキル・アンド・スキル・オンライン」、通称SSOって言われるVRにはまっている。
「先輩はSSOはどこまで行きました?」
「『神官への挑戦』ってところだ。泉須はどこまでいった?」
「『神々の終焉』ですよ。今は次のアップを待たないと次のシナリオいけないですし」
「おまえ、たしかソロだったよな?」
「はい、一応トッププレーヤーってことになってます」
「なんでゲームだとそんなに強いのに、現実だとだめだめなんだろうな?」
「しりません。っと、これで終わり!」
「こっちも終わった。あとは俺がまとめれば終わりだな」
「では、俺はこれで帰ります。お疲れ様です先輩」
「おう、明日までにはまとまるだろうからやっと終わるな」
俺は苦笑しつつ荷物をまとめて、会社から出たのである。
夜はふけているが電車はまだあるので助かった。これでゲームができると少しうきうきした。
商店街にさしかかったとき、それは突然起きた。
人の悲鳴に似た音を奏でて、車が商店街に突っ込んできた。
それがなんでこっちに来たのかはわからないが、かなり目の前まで来ていた。
その場にいた人々は思考が止まっているようで、石像のように固まっていた。
俺は、そのとき冷静に周りをみた。まるで俺を狙っているかのようだが、予想外なのは俺の前に少女がいたのだ。その子は目を見開いて固まっている。
(やばい、あの子が巻き込まれる)
俺はとっさに動いた。その少女を車線上から手でどかすように。
少女は離れるように何歩か歩いてから倒れ、俺は車の正面に体をさらすことになった。
鈍い音をさせて俺は空を舞った。俺が見る世界は一気にスローモーションに見える。
空を見上げそして車の中まで見えるほどそれはゆっくりと動いていた、
運転している男は、まるで悪魔の形相で俺を見つめている。しかし俺はこんな男は知らないし、怨まれるほどのことをした覚えもない。
そんなことを考えている間にも空中で何回転かして、地面に叩きつけられる。
人生で何度も死にそうになったのはあったが、今回は完全に死んだな。
「----!----!?」
周りで人が集まってくる、何かを叫んでいるが俺は聞こえない。
雨が降っている音がする、体は生ぬるく濡れていく。
目線の先では少女が泣いている、なにか口に出してるが俺には聞こえない。
できるだけ笑顔を作ってその子を見た。片目が見えないがいいや。
「だい・・・じょうぶ・・・だったかぃ?・・・・」
少女はこくこくと頷くだけだ、流れる涙を拭きもせず。
俺はにっこりと微笑んでから、安心したように目を閉じる。
「-----!!!---!!!!!?」
周りが騒がしい。だがなんて言っているのかわからない。
雨の音がさらに大きくなる。目の前がまるで暗く沈んだ部屋みたいになっていく。
(ああ、眠いな・・・眠い・・・・)
そして俺の意識は暗い闇へと沈んでいったのだ。
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ーとある神の間よりー
「今年は忙しいの、なんせこの時期はとくに多すぎるからの」
神は特別な死に方をした者を見ている。基本、日本で言う変死や殺人で死んだものがほとんどだ。
死んだ者の人生を見て天国、転生、地獄と言う分け方をしている。
そしてある程度終わったときに、机に書類が2冊出現したのだ。
「また死んだか?どれどれ」
真っ赤な書類を開いてみるとその者の人生経験がすぐにわかるのだ、何処に居て何をしたのかが細かく書かれていた。
「ふむふむ、この赤のファイルからして地獄行きなのは確実じゃな。
最後は飲酒による暴走と人一人をひいて壁にぶつかりあえなく死亡か」
ぽんと地獄行きの判子を押すと、資料は押された後すぐに消える。
地獄へと資料を送られ、そこでさらに罪に応じた場所に送られる。
あの資料の男は、下手すると100年以上の責め苦を食らうことになるだろう。それだけ過去が真っ黒だったから。
「さて、最後の資料は・・・珍しいのう」
資料の量は多くないが、その資料をはさんでいるフォルダーは真っ白だ。
たまに居るがまじめな人間ほど空色に近い、白はかなりレアな時にしか出ない。
資料を開いてゆっくりとその者を見つめている。しかし、すぐにその顔は驚愕に変わる。
「なんじゃこの者の経験の数は!?しかもこのどれも熟されておらぬではないか!」
神もびっくりした。普通は経験を経て力をつけていくのが普通だが、この者は経験値だけあってそれすら力に変換されていない。
どんな人間でも経験をつめばそれに応じた能力を得るのだが、この者は経験だけ高く能力を得ていないのだ。
だがこんな事は普通ではない。どこかの馬鹿神がこの者の人生を狂わせたとしか思えない。
人生資料をみれば本当に経験のことだけを書かれた資料だった。内容も簡素なものだった。
「よくこの年まで生きておれたものじゃ、普通ならとっくに死んでおるわい」
下手な経験値をもつ男は下の地球に戻っても同じ事がある、とくに彼みたいに特異的な人間はそうだ。
「趣味はゲームか、ならあそこに送ったらいいの。
今持ってる経験値をポイントにすればかなりのものじゃし、特典もつければ問題ないじゃろうて」
神は一枚の紙を取り出すとその者の資料を作りだした。30分もして資料を完成させるとフォルダーの中に入れる。
「この者は転生でいいじゃろう、異世界転生ってやつじゃな」
判子が押されるとそこには異世界転生と書かれていた。その資料には「泉須忍<せんずしのぶ>」という名前が書かれていた。
つづく
最近、MMOしてない欲求がこの小説を書くきっかけになったりするw
一応2話投稿します、次回なしでw
修正しました。(3/23)