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レクタルヴ~風花の大地と少女~  作者: 創作サークル猫蜥蜴
第一章 パラファトイ(執筆者:しずる)
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幕間 船乗りの四方山話

 エルテノーデンの港は灰色の石で造られた重厚な見目の海岸である。船からも見渡せる陸に立ち並ぶ倉庫も、曲がりくねる海岸線を知らせる為に立ち並ぶ灯台も同じ石造りで、至る所に風と弓の紋章旗が掲げられ、荘厳な雰囲気さえ漂わせている。奥に続く広場も、人々の居住区も変わりがない。

 どこを見てもエルテノーデン様式の港だが、構造に関してはパラファトイが多くの助言をしており、建物も中を見ればパラファトイの家屋に似ている……というものも少なくはない。エルテノーデンもジノブットも、海を資源として開拓する折には多くパラファトイの手を借りた。パラファトイの船乗りにとって、二国の港は離れた領土のようでもあり、貿易船に乗るものは一年の半分を舟の上か、この異国の母国で過ごす。

「なんだか空気が悪いな。〈雪〉がこの辺まで来てるんじゃないか」

「まだ〈雨〉は降らんのかね」

「東のほうじゃちょっと降りだしたって聞くぞ」

「じゃあこっちのほうはまだまだか。あんまり長居したくないなあ」

 今日もまた多くの荷――特に食料を持ってエルテノーデンの第一港を訪れたベルシナーギンの船員たちが、積荷を並べながらぼやいていた。

 集団で、慣れた場所で、港に住むエルテノーデンの民との仲もそう悪くはない。港に暫く滞在するのは今までと変わりない生活の流れだ。しかし〈冬〉の到来とそれに伴う〈雪〉の出現に関しては、彼らは苦い顔をせずにはいられない。未だそれが目に付くところにはないとはいえ。

 エルテノーデン東部で発生した〈雪〉が齎す被害は甚大で、少なからず病人や死人が出始めているという。東部の山林は既に大部分の色を変えて荒廃し、資源は絶え、飢え始めた町も出てきている。しかし嘆願され続ける〈雨〉は未だ訪れず、人々は焦れている。

 パラファトイにとっては、それも一つ益のあることではあった。他の国が苦しいほどに、パラファトイは潤う。けれど。

 〈冬〉も〈雪〉も、三国の人々にとって忌まわしい。それがどの土地にあろうが、喜べるものではない。

「この国は畑を耕したくても耕せないってのに……あっちときたらな、折角〈雨〉が降ってるのに、戦などしているのだから。勿体無い」

「どこで聞いておるかもわからんぞ、悪口はしまっておけ」

 米の袋を静かに降ろした若者が内戦を続けるジノブットを揶揄して呟くと、その背をベルシナーギン船長の手が打った。前のめりになった部下と共にあれこれ話していた若い衆を一瞥し、まったくと溜息吐いて腕を組んで、積まれた箱の上に腰を下ろす。

「何か言っていたかい、あちらさんはさ」

「野菜も土ごと運べば、量は減るかもしれんが、運べるのではないかと。上の層はそれをお望みだ、とな」

「お上かい」

 港を管理するエルテノーデンの役人と話をして来た彼の言葉は、どうにもつまらなさそうな響きだった。

 量が少ないが需要のある物、というのは即ち高級品だ。富のある者にしか手に入らない。統領が存在するものの、年功序列と男女の性差だけがはっきりとして身分差を意識することの少ないパラファトイ人にしてみれば、治める側の者がそうした物を欲するというのは不自然なことのように感じられる。皆が集まって話し合いをして、そうした結果になるはずがない、と――船乗りたちは誰もが思う。

「まあ、塩漬けだけじゃな。気持ちは分かる」

 しかしながら。此処は自国のように振る舞えても自国ではないと、皆が理解していた。

「でもそれってさ、運んだ土が〈雪〉にやられてしまったり、しないのかな」

 一等に若い、少年と言ってもいいような船員が呟いた。皆が揃って彼を見て、暫し考える顔をして、顔を見合わせる。

「それは恐ろしいな」

 荷の土にも、〈雪〉は根を下ろしてしまうかもしれない。船の中に〈冬〉がやってきては大変だ。

 〈雪〉は恐ろしい。早く〈雨〉が降ればよい。

 それは三国すべての人に共通した意識、願いだった。

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