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2話

「はぁ、私何やってるんだろう・・・」

咲は雲一つない夜空を見上げてポツリとつぶやいた。

咲にとって自宅というのは咲自身と両親をつなぐ唯一のものといっても過言ではなかった。もちろん、電話での連絡もたまにはしていたし、両親に愛されていなかったというわけでもない。実際、咲の両親が帰ってきたときは、いなかった分まで咲のことを愛していた。

でも、中学のときから半分以上は家に両親がいなかった咲にとって、自宅は大好きな両親が帰ってくるのを楽しみに待っている場所であり、単なる「家」ではなかったのだ。

だからなのだろう。咲は自分自身の家が全焼したと理解した瞬間、いてもいられなくなってその場から走って逃げてしまったのだ。どこへ行くという目的地もなく、ただ、自分の影が得ないものがなくなった現実から逃げようとして、行くあてもなく、ただ遠くへ、遠くへと走った。

そして、約15分ほど走ってたどり着いたのがこの緑ヶ丘公園だった。公園としてはそこまで広くはないが、近くに保育園や幼稚園があるためか、いつも園児たちの遊び場になっておりにぎやかな公園だった。咲も何回かだけだがきた記憶があった。

「これからどうすれば・・・」

ポケットの中にはポケットティッシュとパスモ、ケータイのみ、バッグの中には化粧品や生理用品などしか入っていなかった。そのうえケータイは昨晩充電し忘れて何の役にも立たないガラクタであり、パスモはお金をチャージしていないため、既に電車が走っていない今の時間帯ではただの金属板だった。

『(あれ?これ、もしかして・・・詰んだ?)』

咲には自宅に戻るという選択肢もあったが、今はとてもそんな気分には慣れなかった。しかしホテルに泊まろうにもお金がなく、誰か友人宅に止まろうにも電車が走っていないうえに、タクシー代すらない。誰かに迎えに来てもらおうにも連絡取る手段がなく、警察に頼ろうにも、確実に火事のことをうるさく聞かれることは間違いなかった。

『(残された手は・・・野宿か・・・)』

普段園児たちが遊んでいる公園と言えども、夜でも安全だとは全く持って限らない。幸いホームレスの人はいないようだったが、もしかしたら不良に絡まれるかもしれないし、下手をしたら、一生傷が残るような出来事がおこることになるかもしれなかった。

『(何かいい手・・・何かいい手・・・)』

咲は必死になにか両案を思いつこうと必死に悩んでいた。


「おい、大丈夫か?」

その時だった。必死に咲が下を向いて悩んでいると、上の方から声をかけられた。

その声に気付いて、顔を上げてみるとそこには咲と同年代、あるいは少し年上のように見える茶髪の少年が立っていた。

「え・・・えっと・・・その・・・」

咲は何か言おうとしたが、いきなりの人の登場に混乱してしまってうまく話すことができなかった。

「ここら辺は治安はいい方だが、それでも女の子がこんな時間に外に出てるべきではないと思うがな」

少年の言うことはまったくごもっともだった。

「そ、その、いろいろ理由があって・・・」

「だろうな、公園の入り口に立ってた俺にまったく見向きもせず公園の中へと必死に走っていったんだから、なにか理由がない方がおかしい」

その言葉を聞いて咲は初めて入口にだれか立っていたことを知った。

「その様子じゃやっぱり気づいてなかったみたいだな」

咲には返す言葉がなかった。

それから少しの時間沈黙の時間が流れ、次に口を開いたのは咲の方だった。

「入り口にいたのは分かったけど、あなたはこんな時間にそこで何をしていたの?」

「ちょっと散歩がてら懐かしいところに来てたら、つい終電を逃してしまってな、しょうがないから迎えを呼んで、入り口で待ってたんだ」

その言葉の直後、公園の入り口の方で車が止まるブレーキの音がした。

「どうやら迎えが来たみたいだ。俺はもう行くよ」

そういってその少年は咲に背中を向けようとした。

「ちょっと待って、えっと・・・その・・・

それを引き留めたのは咲だった。しかし引き留めたはいいものの咲はその言葉の続きを言っていいものかとても迷っていた。もしこの少年が悪い人間だったら取り返しのつかないことになる可能性だってあるのだ。

「そういや、お前、名前なんて言うんだ?」

「え?」

「だから、お前の名前」

「入谷咲です」

なぜいきなり名前を問われたのか分からなかったが、とりあえず咲は自分の名前を名乗ることにした。

「入谷咲・・・ねぇ」

その少年は咲の名前を言いながら咲の顔をじっくりと見た。

「えっと、なんでしょうか?」

さすがにじっくりと自分の顔を見られるのは咲にとっても気持ちいいものではない。

「咲、もしその勇気があるなら俺についてこい」

その少年はいきなりそういって、咲に背を向けて公園の入り口へと歩き出した。咲は一瞬戸惑ったものの、この場にずっといるよりは安全だと、そしてこの少年が悪い人ではないことを信じてその背中を追った。



公園の入り口へとその少年と咲がたどり着くと、そこにはメイド服の女性、そしてその隣には実物を見たことのない咲でさえ一目見ただけでリムジンだと認識できる車が停まっていた。

「真也様、お待たせしてしまい申し訳ありません」

「いや、こっちこそこんな時間に迎えに来てしまってすいません」

そのメイド服の女性は真也に深々と頭を下げたあと、咲の方へと視線を向けた。

「真也様、こちらの女性は?」

「ああ、ちょっとそこの公園に捨てられてたのを拾ってな」

「ちょ、ちょっと、人を捨て猫みたいに言わないで」

メイド服の女性はそんなやり取りをしている真也と咲を見て、

「なるほど、数年ぶりに真也様のおせっかいが出たわけですね」

と、何かを悟ったようだった。


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