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1話

というわけで、完全に私の趣味から生まれた作品「紅葉邸の恋模様」を読んでいただきありがとうございます。

とりあえず1話は本当の導入編といった感じで説明ばかりになってしまっていますが、2話以降についに主人公の「少年」が登場します。



誤字脱字などがありましたら、ぜひとも教えてくださるとうれしいです

ほとんどの学校で終業式も終わり、そろそろ桜の開花予想の日に近づいてきている春真っ盛りの3月23日、彼女はいつも通り東京都豊島区にあるとある喫茶店でバイトにいそしんでいた。

肩まで伸びている栗色の髪の毛をまとめてポニーテールにし、喫茶店内を忙しそうに往復している彼女、「入谷(いりや) (さき)」は都内の都立高校に通う高校1年生だった。

高校の春といえば思いっきり遊びたいものだが、咲は春休みに入って以降毎日朝早くから夜遅くまでバイトをしていた。

というのも、咲の両親は昔から海外で仕事をしており、咲は今も一人で実家に住んでいた。生活費は両親が出してくれるものの、お小遣いは自分で稼ぐべきという親の意向から、お小遣いは一切親からもらっていなかった。高校があるときは勉強などもあり思う存分バイトをすることができないため、春休みを使って思いっきりバイト代を稼ごうと考えていた。

幸い、咲のバイト先である喫茶店は、咲の親友の姉がやっている店でかなりの融通が利き、またそれなりに流行っている割にはバイトの人数は少なかったため、バイトが食える分には喫茶店側としては何の問題もなく、逆に喜ばしいことだった。


「咲ちゃん、これ3番テーブルに運んでくれる?」

「はい、分かりました」

喫茶店の店長である古谷美夏(ふるたにみか)が入れたてのコーヒーをお盆に乗せて差し出すと、咲はいわれた通り3番テーブルへと向かっていった。

そんな姿をカウンター席から眺めていたのは美夏の妹でもあり、ここでのバイトを咲に紹介した張本人である古谷亜紀(ふるたにあき)だった。

「よく働くねぇ、咲も」

コーヒーを持っていった後、お客さんが帰った後のテーブルの片付けに向かいに行った咲と、その姿を見つつ、のんびりとだらけながらサンドイッチをほおばる亜紀は実に対照的だった。

「亜紀も咲ちゃんくらい真面目で働き者だと私も助かるんだけどな」

だらけてる妹の姿を見て亜紀は小さくため息をついた。

「私だってたまにちゃんと手伝ってるじゃん」

「本当にたまにだけどね」

亜紀の手伝いは本当に気まぐれで、基本的には美夏の店にいる時間はかなり長いものの、ずっとそこで読書をしたり、ゲームをしたり、のんびりしているだけだった。

「にしても、咲ちゃんさすがに働きすぎじゃないかしら?もう5日目よ、朝から晩まで働くの」

咲本人は大丈夫だと言っているものの、美夏は咲のことを心配していた。

「咲の家は特殊だからね~。お父さんもお母さんも海外だし」

「もちろん私としても、咲ちゃんがとても助かるんだけど、やっぱり心配になるわよね」

テーブルから片した食器を厨房のほうに持っていった咲の後姿を見てまた一つため息をついた。

「咲はあんまり体力ないからね。そのうちどっかで電池切れするんじゃない?」

「ちょっと、そんなマカロンをつまみながら、どうでもよさそうに言うことじゃないでしょ」

美夏に言われてようやく亜紀はマカロンを食べる手を止めた。

「そうだねぇ、今週の日曜にでも咲を連れてどっか遊びに行ってこようかな」

今、3月23日は木曜日なため、日曜日は3月26日だ。

「そうね、私からも言って、咲ちゃんのバイト、あけてもらうから2人で遊びに行ってらっしゃい」

この時は2人とも予想していなかった。3日後には咲がとんでもない状況に置かれていることに・・・・。そして、当然、咲も自分自身に降りかかる予想外の出来事を知るわけもなかった。



☆☆☆

「はぁ~、また遅くなっちゃったな。今日の夕飯は昨日の残り物でいいか」

独り言をつぶやきながら咲はすっかり人通りがなくなった駅前から続く大通りを早足で歩いていた。

喫茶店の閉店時間は22時だが、その後の片づけがあって、夜のタームにバイトを入れるとき、大体いつも喫茶店を出る時間は23時ごろだった。しかし今日は美夏さんの書類仕事を手伝っているうちに気が付いたら23時30分を回っていて、大急ぎで終電の一本前の電車に乗ってなんとか自宅の最寄り駅まで帰ってきた。

駅前から少し離れたスーパーは24時間営業だったが、さすがに咲もこの時間から料理をする気も起きず、また気づいたのは喫茶店を出るときだったが、自宅に財布を忘れてきてしまっていた。咲はパスモにもチャージをしないため実質お金というお金を持っておらず、スーパーで何かを買うことは不可能だった。

「お財布を忘れちゃうなんて、それに携帯の充電も忘れてたし・・・、亜紀が言ってた通り、今日の運勢最悪・・・」

バイトの休み時間に亜紀が見せてきた雑誌に書いてあった星座占いを思い出し、誰かが答えてくれるはずもない独り言をまた一つ呟いた。


暗い気持ちで歩いていたからだろうか?咲はちょっとした異変に気付くのが遅れてしまっていた。

咲の耳に遠くからガヤガヤとした喧騒が聞こえてきたとき、やっと咲は異変に気付くことができた。

「あれ?なんか人多くない?」

いくら都内だからと言って、もうすでに0時近いのにもかかわらず、大通りから横に行った小道に何人も通行人がいるのはおかしい。大通りの人通りは少なかったことを考えればなおさらである。

咲はふと遠くの方を見てみると、今近くにいる通行人とは比べ物にならない数の人だまりができているのを確認できた。

その時、咲はなぜか嫌な予感がした。自宅がその人だまりの方向にあるからなのか、それとも違う理由なのかは咲自身には分かりようもなかった。しかし、妙な胸騒ぎがしたのだ。

そして、咲は決心を決めて、その人だまりの方へと、さっきよりもさらに早い早歩きで歩みを進めた。


人だまりにたどり着いて、咲が人混みの間から眺めた景色は最悪だった。

朝、家を出るまではあったはずの家が何件か、黒い炭に変わってしまっていた。火自体は消化されたようだったが、家が何件も全焼していることからどれだけひどい家事だったかは咲にも容易に想像がついた。


そして、同時に咲は悟った。『私が帰る家はもうないんだ』と。

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