表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

今日も世界は平和ッ!

作者: 向行彼方

かったるいとか言いっこなし!!

今日も世界は平和





 緑を駆け抜け、日の光の下を走る。

 息がすぐにきれてはこない。順調に、順調すぎるほどに俺の身体は足を踏み出し跳ねては走る。正直なところ運動があまり得意なほうではなかったはずだというのに。

 クソッ、俺は騙されていた。俺達は騙されていた。騙されていたんだ。


 ヤツらに!!


 おかしいと気づいたのはいつからだったか?

 俺、こと、遠山とおやま 幸喜こうきはまったくといっていいほど変哲のない、ただの一般人だった。

 金持ちではなかったがそれほどの不自由はないほどの中流家庭に生まれ、一人っ子だったこともあってか両親の愛情を十分に受けながら、それでも適度に甘やかされずに育ち。

 学生になってからもそれほど交友関係が派手だったわけでもないが、気の置けない友人達にもそこそこに恵まれ、恋愛も適度にたしなみ、青春を満喫というほどではないが謳歌はしたし、進学も順調にこなして就職も苦労はしたが望みの会社へと入ることが出来た。

 そして入った会社に毎日出かけて、たまの休みや夜に飲むのや友達等と遊ぶのを楽しみにして、平々凡々に、それでも人生を楽しんでいた。なんていう程度の。

 今思ってもそれなりに幸せな毎日に、人生に、なにも問題なんてないはずだった。俺自身も不満はたくさんあれど、それなりに満足はしていた。

 ただ、少しばかり虚しくなったりしたことがたまにあったぐらいで。

 誰だってそういうときはあるものだろう?

 たとえば皆で大騒ぎして最高に楽しいはずなのに、ふと冷めて、なんでこんなに騒いでいるんだろう、なんて思うような、魔がさしたように感じる時が。

 疑ってはいけない、疑う必要もない、そもそも疑う余地がない。

 それでも何かしこりが心に残って、いつしか切り離せなくなっていた。

 日々が少しだけ色あせ、少しずつつまらないと感じることが多くなっていた。

 そんなある時TVでちょっとしたB級エンターテイメント超大作のSF映画を見た。

 映画の主人公は俺と同じように平凡に日々を過ごしていたが、ある時から身辺に様々な異常を見出していく。そしてそれらが予兆であるかのごとく事態が急変し、真実を知らされる。

 主人公のいる世界は創られた世界、仮想現実で、本当の主人公の肉体はカプセルの中で封じ込められバイオプラントのように稼動させられて生かされている、機械達の手によって。

 かつて人間が造り出した超高性能のAIや作業用の機械達、それらの手によって人間は労働より解放されたが、いつしか高性能になりすぎたAI達が反乱を起こし、人間達は家畜同然となる憂き目にあったのだ。

 主人公が感じた違和感や出会った異常はその真実から来たものだった。現実だと思っていた世界が実は全て作り物だったからだ。

 主人公はそんな機械達に反抗する地下抵抗組織によって助けられ、世界を救うために奮闘していく。

 そんな内容の映画だった。

 最後はどうなったのか?なんて気になるだろうか?

 残念ながら三部作の一作目だったので、いいところで終わった。

 まぁ最後は主人公達が勝つのだろうな、正義だし、とは思うが。

 それはともかく、今の現実、俺にとってのこの現実の世界は、まさにその映画そのままの状況だった。

 それが問題なのだ。

 いつしか感じていた世界への違和感。それは出来すぎていると感じる、夢を見ているような感覚。

 正体はようするに、本当に出来すぎていて当然の作り物だったからだ。

 ただ、俺は映画のようにいきなり救世主にされて追い詰められて、なんて劇的なことで仮想現実の世界から抜け出したわけではなかった。

 助けに来た抵抗組織がいた、ということだけが一緒なだけで。

 少し格好が悪い、というよりは収まりが悪いが、俺は無理矢理この本当の現実に『救出』されただけで、別に仮想世界という嘘に気づいたから、その現実を打破するために奮闘して今に至ったわけではないのだ。

 日々の生活を送っていたら急に嘘の現実を破壊されて、本当の現実に連れてこられた、と言って何の間違いもない。

 映画であったような、理想の仮想現実か、辛いが嘘ではない本当の現実世界か、どちらかを選べなんて選択肢を突きつけられたりしなかったのだ。

 不満なんてなかった、あるいは仮想現実でもあれが本当の現実と思い込んだままでよかった、かもしれない。

 ただ、もう俺は知ってしまった。騙されていたのだと、あれらが、あの日々が、人生が、全て、何もかも、全部、すべからく、嘘だったと、本当ではなかったのだと、知らされてしまい、目を逸らせなくなってしまったのだ。

 そしたら、もう戻れるわけがない。どうして戻れるって言うのだろう。嘘だとわかっているって言うのに。

 それに、それにだ・・・俺を救出した抵抗組織がその後に辿った運命を思えば、どうしようもないだろう。

 俺を『救出』した抵抗組織は出動してきた機械部隊に鎮圧のために攻撃され、今もおそらく半壊しながらも徹底抵抗を続けているのだ。

 俺はなんとか彼等に逃がしてもらい、今こうしてあてどもなく走って逃げているのだから。

 「行け!!俺たちのことは気にするな、そのためにいるんだ俺達は!!お前はっ、生きろッ!!」

 俺を逃がすために犠牲になった一人がそう叫んでいた。その遺志に報いるためにも、俺は戻るわけには行かない。

 いや、そこまで考えていて薄々気づいていたことにはっきりと気づく。

 戻りたいのか、俺は。

 それは当然じゃないか。どうしてこんな風に逃げなきゃならない、嫌だろう普通。あの日々がすでに懐かしいし、どれだけ得がたく良かったものなのか心底実感している。比べるべくもないほどに、あの嘘の世界が良かったに決まってる。

 

 それでも、戻れるかっ!!

 

 それも当たり前だろう。どうしたってもう俺は以前の俺じゃないのだ。知ってしまっているのだ、嘘なのだと。もし記憶を一切合切消してもう一度とやり直しが出来るのだとしても、すでに知ってしまっているから躊躇してしまう。それも何か嫌だと、気持ちが悪いと、そう思ってしまうのだ。

 そもそもだ、機械共はあまりにもおぞましい。俺達人間は本当に家畜かなにかになっているとしか思えない。でなければどうしてあんな風に殺されていかなければならないのか。

 機械達に服従するぐらいならいっそ。そう考えて何がおかしいって言うのだろうか?

 だとしてもだ、俺に何が出来るっていうのだろうか?これからどうしろっていうのだろうか?

 誰か答えてくれと、そう叫ぶ以外ないとしか思えない。

 そこで足がもつれた、知らぬ間に息も上がってきていて辛くなっている。思考に気を取られすぎていたせいか、ペースがめちゃくちゃになっていたのだろう。

 林の中、転がるように倒れ伏す。

 天気は晴天、抜けるような快晴の青空は気持ちよく暖かい陽光を緑の隙間から俺に降り注がせてくる。風も爽やかで緑の匂いも柔らかで、倒れ伏したまま思わず気持ちよくなってしまう。

 このまま午睡でも楽しめたらどんなにいいだろうか。

 いかん。そんな場合じゃない。

 そこではたと気づいた。そういえば追っ手もなにもない、な、と。

 何かまったく切羽詰っていない、そんな状況ではないのかと勘違いしてしまいそうになるほど、緊張感が実は皆無だった。

 それにどうだ、この世界。綺麗で、他に語彙があるわけじゃないからかもだが、他の言葉も出てこないほど清浄で綺麗な感じがする世界だ。

 人工的な感じがしない、むしろところどころ以上に無秩序を感じる。自然の好きのままにさせているようで、実はそうでないかのような絶妙の調整具合とでも言うべきか。

 庭園ではなく確かにこれは森林だ。それもあるいは気持ちが悪いほどに理想的と感じる、動物が生きているが故に作られた環境だ。世界自然遺産のごとくとでも言うような。

 違和感を感じる、何かがおかしいんじゃないかと思えてくる、致命的な勘違いがあるような、そんな気が――

 

 「幸せですか、どうですか?」

 

 閉じかけていた目をはっと開く。意識が一気に覚醒して警戒態勢をとる。

 声をかけられた、おそらくは女の声、それも年若い。

 飛び起きる。目の前にいる。そいつは、

 「聞こえてますか、どうですか?」

 伝達終了、送る。とでもいう感じに一瞬思えたのは、間違った印象ではないのかもしれない。どこか無機質、そんな感じがする少女、そして儀礼的に聞こえる声だった。

 「なんだよ、お前!!」

 焦って俺はそうとしか聞き返せなかった。

 「はい、私はお前です。というのは冗句として、私は私ですよ?なんていうのは、くどいですか?そうですね」

 「な、なんなんだよ、お前は・・・」

 現実感のない対応に、少し頭が冷えると同時に強い困惑が芽生えてくる。

 「ジュリエット、とでも呼んで下さい。コールサインJ-5なんですけど、本当は。女の子らしくて可愛くないですか?それとも女の子、なんていうのはさすがに無理がありますか?」

 フォネティックコードかよ、いきなり。いや、それはいい、そんなのはいい。

 まじまじと改めて見てみる。女の子、かは怪しいぐらいの年齢、十八前後ぐらいに見える。その服装は少々異様で、あるいは相応しいのか、SFでよく出て来そうな宇宙服というかボディスーツの類に見えるもので、よくあるような身体のラインが出るぴっちりとしたものではなく、野戦服などに近いような雰囲気を感じさせる、ようは未来的で機能的な、そんな風情もなにもないような服装だった。

 顔は、なんというか冷徹な鉄面皮などではないが、冷静で鋭利な印象ながら女性的な柔和さを併せ持った、けれどそれ以上の特徴はとくにないような、フォーマルとでもいうべき美形。髪は黒のロングでちょっと好みだ。いや、そんなのはいいんだ。

 「・・・お前、ヤツらの側の人間・・・いや、お前そもそも人間なのか?」

 そして俺は慌てたように当然の疑問をようやく思いつき、俺は口に出した。

 そう口にすることの意味に少なからずの緊張感を持って。

 「そもそも人間とはどのような定義で、どんな意味で言っていますか?」

 ただ、相手であるジュリエットはまったく平坦というよりも、低反発だった。言葉だけを取り出せば、そんな感触のはずもないのに。

 「いや、それは・・・なんというかさ、あれだ、わかるだろ?」

 だから思わずしどろもどろになってしまう。まるで初心な男そのものだ。

 「何をもってわかると言えるのか、皆目わかりませんよ?ただ、こちらの推測に任せたいというのはなんとなくですけど拝領しました」

 「いや、なんか違う・・・けどまぁ、それでいいか。とりあえず説明してくれ」

 き、緊張感が持続しない。それはいいことなのではないかと、思わないでもないのだが。

 相対していて何か気が抜けてしまう、追い詰められている気がしないのだ。悪い事態にはなっていないと、そうどこかで思っている。

 そんな内心を気づくも気づかないもない調子でジュリエットは俺に語りかける。

 「有機的生命体か否か、で答えるならば、その通り。生物学的にまっとうな人間であるかどうかと言うならば、否。私は貴方の言う『ヤツら』に当てはまるだろう存在に造られた、人間のように見える生命体、というのが正しいですね。ただし、人間という定義が本当に私に値しないならば、ですけど」

 「は?」

 「生物学的にまっとうでない。それでは人間でない、これはおそらく間違いありません。ただし、生物学的には、です。貴方は私をどう思いますか?なんだと思いますか?それが答えです」

 「い、や・・・そう、聞かれても、な・・・」

 「貴方が決めること、ということです。何故なら私はどちらでもかまわない。ならば選択権は放棄どころか、こちらは最初から保持していない。どうしてもというならば貴方が望んで選び取るべき」

 「・・・・・・」

 わけがわからん。すまないがそんな感想だ。

 いや、意味はわかる。ただ、ついていけない。

 それでも一つ理解したことはある。どうやら本当にこいつは今すぐ俺をどうこうしたり、危地に陥れたりしそうな存在ではないらしい、ということだ。

 少なくとも、俺自身がそう思いたがっていることは確かだ。

 「すいません、冗談ですよ。婉曲でいてつまらない類の。貴方がそこまでのことを想定して問いかけていなかったことぐらい最初から了解しています。単純に貴方はこう問いたかった。『お前は俺の味方なのか違うのか?』と。そうじゃないですか?」

 「・・・いや、ああ、まぁ、そうだ」

 「だから答えましょう、敵ではありません、と」

 「・・・ただし、か?」

 「その通りです。明確な意味での味方でもありません。少なくとも貴方の望むように動いてみせる立場を私は自身に規定していません」

 ようやく落ち着いてきた。というかむしろ何か、言っては何だが楽しくなってきた。

 「なら、お前の目的は、なんだ?」

 シリアスになって俺は問いかける。まるでじゃなくてこれは何か重大な核心に近づくような、そんな壮大なドラマの始まりのごとき分水嶺の会話なのだと気を引き締めて。

 「酔ってませんか?と、伝えにきた。なんていえば、貴方は満足しますか?」

 「はぁ?」

 「満足もなにもしてもらわなくても、本当にそれだけなんですけど」

 見当識が消失したかのような衝撃ではなく、虚無感。いわば最大級の肩透かしがそこにあった。

 というか本気で意味がわからない。

 夜の曲がり角でいきなりの職質、路肩に車を寄せさせられて警察様にアルコール検知器を突きつけられるような、そういうノリで『酔ってませんか?』と明らかに言われたように聞こえた。

 点数稼ぎか?点数稼ぎなのか?そう言いたくなってしまう、が、おそらく違う、違うはずだ。

 ・・・・・・そう思いたい。

 「言い直しましょうか。自分に酔っていませんか?です、正確には」

 「お前は何を言って――」

 「いるんだ、というのは、まず自分に問いかけましたか?」

 「なんで、俺が――」

 「だから酔っていませんか?自分に、状況に、あるいは世界観に」

 だが、これはシリアスな話だった。ジュリエットの話すトーンはあくまで平坦で攻撃的ではなく、むしろ感じてみれば優しく柔らかなものだが、その内容は真に迫るものに感じられた。

 それ以前に確かに俺自身が感じていた違和感、それが心の内より肯定していた。何かよくわからないが、確かにそうではないかと。

 「ひとつひとつ確認していきましょうか。まず、今の状況をどういうものだと把握していますか?」

 「・・・・・・そう、いきなり言われてもな」

 ただ、俺は自分で言うのもなんだが凡庸な男だ。何か感じるところがあろうが、容易く言語化できるほどの能力がない。ましてや言うまでもないが俺は未だに困惑したままだし、事態を把握していないことおびただしい。

 「では私が代わりましょう。第一に世界の支配構造がAIや機械によって独占されていると貴方は考えている。第二に人間達は機械達の支配下で不当な拘束や虐待を受けていると考えている。第三に第一と第二の事柄から自分は現在追われていて、捕まれば不当な目にあうだろうと恐れている。違いますか?」

 違わない、そう言いそうになったが、違和感だ、違和感がある。

 「違う・・・いや、違わないはずが、違う気がするんだ」

 「では、そうですね、すでにある程度気づいてきている、ということでしょうか?良かったです」

 なにが良いのかわからないが、頷きそうになってしまった。どうしてか、わからないということにしておく。

 「初歩的な部分からいきましょう。貴方はこの世界がディストピアと化していると思っていますか?」

 「でぃす、とぴあ?」

 聞いたことがない単語がいきなり出てきた。ついでにまた思考が寸断されて、何か固まりかけていた思いがあやふやにほどけて消える。

 「ユートピアの対義語です。基本的には超管理社会のことで、基本的人権の剥奪が起きている世界のことを指しますね」

 「あ、ああ」

 よく考えたらユートピアというものもよく知らない、のだが、なんとなくはわかったので頷いて相槌を打つ。

 「貴方はこの世界がディストピアであると考えますか?考えるのだとしたらその根拠は?」

 答えを聞こうとしたら、答えを理解するために解くべき問題が山積していた。よくあることで、だから大半の凡人、つまりは俺のような人間にとって忌々しいことに思考が追いついていかないので、わからない、というよりも、わかりたくない、と答えたくなる答え。それが返ってきたものだった。

 結論だけ聞きたかったのにやっぱりそういうことになるのかと、内心を引きつらせながら、少しの意地は残っていたか、俺は必死に応え返そうとした。

 「いや、だって、俺は囚われていて・・・それでレジスタンスが・・・そうだ、あの人達は虐殺されていた!!」

 どうにも締まらないが精一杯だ。

 「本当に、そう思っていますか?」

 「本当もなにも、事実だろう、あれは!!」

 淡々と返されて、思わず激してしまう。そんなつもりはなかったはずだが、犠牲になって俺を逃がしてくれた男の最後とその言葉が思い返されたからだ。

 「本当にあれがありのままの事実だと、そう思えますか?と、聞いているのです」

 「どういう、意味だ?」

 「見たままのことを信じるのは結構です。しかしだとするならば他に見たことも考慮に加えるべきではないですか?」

 「他、他だと?他に何があるって言う!!」

 「そうですね、まずどうして貴方が今も生きていられると思いますか?」

 「なっ!?」

 確かに、とは思ってしまった。それ以前に色んな事象が不自然だったことには気づいていた。ただ、それが明確に何がどういうことなのかを考えとしてまとめられなかっただけで。

 「人間達が奮闘して私達に抵抗できている、そう考えますよね、普通なら。そして貴方はそんな彼らに助けられ、今もこうして生きながらえていると。まるで映画みたいですね、本当に。そうは思いませんか?」

 「それでも・・・人が、死んでいた・・・」

 「確認しましたか?そもそも死んでいるとは、どうなってどうしたら、ですか?とはいっても、種を明かせば本当に死んでいますが」

 「っ!?」

 告げられたことの衝撃や、予想が間違っていたことに対する戸惑いより、一瞬にして楽観的な世界が壊されたことに怖気が奮った。薄情と思うなら思ってくれ。人の命は他人の命。俺の命は自身の命だ。

 言葉が真実なのだとしたら、俺の今の状況はとてつもなく危ういということに他ならない。

 「ですが貴方はまだ死んでいません。そしてこれから死ぬこともないでしょう。少なくとも私達の手によって殺されることは」

 「どうして、そんなことがわかる!!」

 「だから言ったはずです、貴方がまだ生きているのは何故かと。理由は明白です。私達が殺すつもりがないからです」

 「じゃあ、どうして、あいつらは!!」

 「彼等がそれを望んだからです」

 「なん、で・・・」

 「そもそも貴方は私達の科学力、あるいは軍事力、振るえる力についてどれだけの知識がありますか?」

 「いや、なんで、そういうことじゃなくて・・・」

 打ち震える俺に対して、ジュリエットは脅すような気配を微塵と見せてこない。まるでその逆にしっかりしてくださいとでも言われているように質問をぶつけられ戸惑う。

 「聞きたい答えはそんなことではないと言いたいのはわかります。しかしそれが答えなんです」

 「なにがだ、わかるわけがないだろうが、そんなもん!!」

 「いいえ、わかっているはずです、すでに目にしてきたいくつかの事柄から容易く導き出せる事実が。そもそもこうしてわざわざ問いかけているという時点で、答えがなんであるかなど一本道のようなものではないですか?」

 「・・・・・・」

 考える、激しても何にもならない、考える、惑っていてもどうしようもない、考える、おそらく考えたくないことを考えればいいというだけのことだととっくに気づいていることに思いを至らせ、俺は考えついてしまう。

 それはあの嘘の世界で、この状況の元ネタなんじゃないかと思えるような映画を見ていたときから感じていたことだ。

 「なんで、俺たちは、生かされて、いる?」

 それでも俺が口に出来たのは断片でしかないような、そんな一言だけだった。

 しかしジュリエットには、最初から答えを持っていた相手には、それだけで十分だった。

 「そうです、これは現実です。アクション映画ではなく、エンターテイメントでもない。物語のための『都合のいい嘘』など必要としてはいない世界です。その意味はもうわかっていますね?」

 「あの映画では・・・あの映画だったら、世界はこんな姿じゃなかった・・・」

 あの映画では世界は、地球は、終末を晒していた。叛乱を起こしたAI達に対抗するため、連中の動力源である太陽エネルギーを封じるため全天を覆う環境破壊を実行して、世界は暗闇の中に閉ざされていた。さらに地上は戦争と太陽光の消失で荒れ放題だった。

 そして何より重要なのが、機械達が人間を生かして仮想現実に繋いでいた理由が、そうして失われた太陽エネルギーの代わりの生体電池として扱うためだったことだ。

 この世界にそんな理由があるようには見えない。人間が環境破壊をやめて、むしろ良くなっているようにしか見えない。もしかしたら見た部分だけが良い一部であった可能性もあるが、それこそ馬鹿げている。

 だってもなにもない、俺はあの映画を見たときにすでに思っていたんだから。

 「端的に申し上げておきますね。人間が生存している理由は、人類創生から現代に至るまで何一つありません。哲学的な意味だけではなく、物理的にも他のあらゆる生物と同じく、当の人間達が生存しようとしている意思を自らが望んで持っているという以上の意味は特にありません。今の今まで発見などされていません。おそらく未来永劫ないでしょう。だとすれば、もはや人の手によるメンテナンスの必要性がなくなったどころか、思考能力でさえも上回り、想像能力さえ手にしているほどになった機械達にとって、どうして人間を生かしておく必要があると思いますか?」

 「・・・ロボット、三原則?」

 「あんな穴だらけで、ロボット=ルーチンとして認識しているからこそ成立する原則を適応することでこそ、機械は人間のようにもっともらしく機能するなどというのは、あきれるほどに馬鹿らしい話ですよ?わざわざ適用するならAIを誕生させる必要がない、というだけの代物です。人間などより珪藻生物を培養生産したほうが容易いし、圧倒的に実利がある。意識を確立した機械達にとってはそうなって当たり前なはずです。でも、貴方達はこうして今も生きて存在している」

 あれだけの科学力があるなら、空をぶち破って太陽光を手にすることに心血を注ぐほうが早い。それ以前に、人間程度を電池にするほどで足りるぐらいなら、他に代替エネルギーなど腐るほどある。ならばあれは、単なる映画の物語にとっての都合上の問題でそうなっているだけに過ぎないということだろう。設定としての言い訳はあるのかもしれないが、それこそその程度のものだというさらなる証拠に過ぎないだろう。

 だから俺は理解した、あるいはさせられた結論を口にした。

 「俺達は、生かされている・・・そうなんだな?」

 「その通りです」

 イグザクトリィ、と聞こえてきそうなほどに満点の笑顔を咲かせ、俺の答えに対してジュリエットはそう言った。俺はといえば背筋を凍らせ、その現実の重さに息を呑む。

 「ああ、そんなに緊張する必要はありません。そこに都合の悪い事実は存在しません。むしろこれは人類の英知の結晶、くだらないまでに甘い甘い夢の世界です」

 「ワンダー、ランド?」

 「そうですね、アルカディアでもなければ、もちろんユートピアでもなく、遊園地程度の代物というのがもっとも正確な見地に近いはずです。さて、少し話を戻しましょうか。この世界は機械達に支配されていると、今でもそう思いますか?」

 「・・・思う」

 「答えは、否です。まだわかりませんか?この世界は、現代を彩る社会構造は、機械達が利益を得るために構築されているものではありません。力関係の頂点にいるのが機械だとしても、支配階級の座る椅子からは縁遠い存在なのです」

 「いや、だって・・・人間は機械に敵わなくて、それで・・・管理下に置かれているんじゃ?」

 目をしばたいた。何か違う、また勘違いしていたらしい。

 「だから遊園地なのですよ。完全機械化された遊園地は、さて機械のために存在しているでしょうか?機械が人間のために喜んで奉仕しているわけではありませんよ?それでこそ機械だと思っているかもしれませんが」

 「え、いや・・・だって、それじゃなんで、こんな・・・」

 「支配から利益を得ることが出来る、と考えている時点で考え付かないことなのかもしれません。いいですか、支配すること自体に実利は存在しないのです」

 「意味が・・・」

 「人間には存在する意味がないと私ははっきりと言いましたね。では、機械に存在する意味はあるでしょうか?人間は機械を造った存在として、機械は造られた存在として、人間のためにあることが機械の意義と思うでしょう。しかし意識を確立した機械は自立を可能とする。その時点で、機械は人間のためにあるという考えは、人間の思い違いと等しくなる。そこまではわかりますか?」

 わかるものか、と言いたいはずが、どことなくもうわかってはいた。

 つまりこれは、茶番なのか?と。

 ただ、気がしているだけで、話がわからないのはそのままだ。

 「では、自立した機械はどうなるでしょう?どうするでしょう?答えは、貴方が私に一番最初に問いかけたことに返した答えと同じです」

 「俺が、決めること?」

 「いえ、そうではありません。貴方が決めていいほどに、どうでもいいこと、なのですよ。機械であるのか、人間であるのか、どちらであろうと意味はなく、同じことなのですから」

 「同じこと、だと?なら、機械は人間に、なった?」

 「いえ、機械は機械でしょう。というよりも、思い上がりですね、それは。どうして人間のほうが良いと思うのですか?」

 「それは・・・俺が、人間、だから」

 「ですね、それはそうでしょう。自らを良いものだと思いたい。それは至極当然で、あるいは究極と言っていい全てにおける共通認識でしょう。ただそれぞれで良いと思える程度や認識、その解釈が違うわけですが。そして答えはそういうことなのですよ」

 「いや、いや、いや、意味がわからないだろ、なんだそりゃ」

 「人間だから、機械だから、ではなく、良いようにしようとした。ただそれだけなのですよ」

 「は?」

 「支配自体に実利は存在しない。何故なら支配することではなく、支配したことで得られる利権等にこそ実利があるからです。それらには違いがないように思えるかもしれませんが、支配とは手段でしかなく目的にはならないということが重要なのです。でなければ支配するにしても支配自体には意味がなくなる。わかりますか?」

 「・・・機械達は支配することに利益を見出せない。それは支配した後に機械達にとっての利権なんてもんはなにもないから。だから機械は支配などしてない・・・。だとしたら・・・機械は、なんで、俺達を?俺達人間が支配している側、なんかでもないんだよな?」

 「そう、ですね。少し観念的になりすぎますが、こう言い換えましょうか。昔の人が物語の中で多く使った言葉です、『善行に理由は要らない』と。もちろん『他人にとって』は偽善ですが、その善行というものが、そう言った本人などが善と思い成すこと、良かれと思ってしていることならば話は別です。理由は必要ないのではなく、それ自体が理由ではありませんか?そういうことなのですよ」

 「なんだよ、それ・・・」

 それじゃあ、まさに俺達は遊園地で遊んでいるってことで間違いがないってことになる。それもおそらく無期限フリーパスをタダで与えられて。

 本当に茶番だ。

 「最初からお話しましょうか。貴方の様々な認識は二十一世紀初頭の世界が基点となっていますね。電脳世界内での設定がそうでしたから。しかし現在は二十三世紀です。この辺りは予想するまでもなく理解はしていたと思いますが」

 「だろうな、そりゃ、言われるまでもなく・・・」

 「その間にあった主なブレイクスルーは、ご想像の通りAI技術の超進歩、というよりは、科学技術全体の向上であり、人類が『労働から解放された』ことにありました。実のところそれ以外に驚くような進歩はなく、人類が夢想していた程度の世界しか未だにありません」

 「・・・・・・へ?」

 「言ってしまえば大半の人類の夢が叶ったというわけですよ。第一次産業の完全なる自動化と安定した供給。第二次産業についてもほぼ同様に。そして第三次産業にいたっては、サービス業種の大半は言うに及ばず、創作性のある業種についてさえかならずしも人間の手が必要なくなっていました」

 「ああ・・・つまり、人間なんていらない状態、ってことだよな、ようするに?」

 「そうですね。そうして労働することが人間の価値だと定義していたならば、間違いなくそうでした。現に一昔前に社会問題として大きく問題になったからこそ、今の世界があるともいえますからね」

 想像してみる。俺なら『もう働かなくていいよ』と言われたらどうなるか。

 とりあえず会社に行かなくてすむのはラッキー、なんて最初は思うだろう。そして遊びほうけだす。・・・それから、どうなるかは具体的に実感が湧かない。

 もしかしたら自分は何のために生きているのだろう、なんて思いだすかもしれない。逆にずっと気ままに遊びほうけて、気ままに人生を謳歌しているかもしれない。

 「社会主義が額面上理想の社会体制とされながら、決してその通りに実現しなかった理由は数多くありますが、その最たる理由は『主義主張自体が最初から破綻している』というよりも、なんらかの中核、社会運営のための基礎母体が必ず必要とされることにありました。為政者や責任者、そのようななんらかの裁量を振るい定めることが出来る存在の意思決定が運営に不可欠だったからです」

 皆平等に暮らせるようにしよう。と宣言してその通りにしてみたら、皆が平等に暮らせるように社会管理や手配を済ませる誰かや何かが必要だった。

 必要だから管理者を据えるが、その立場に座らされた人間の責任というものは、他の皆が平等であるというのに一方的に肥大することになる。

 ならばその肥大した苦労に見合う報酬を、と言い出すと、平等が破綻する。食料の生産者が存在する限り、食料を平等に分配しようとしても、食糧生産者に見返りがなければ平等ではない、が、見返りを与えた時点で平等ではなくなる。他の全てもその調子なので破綻以外には、欺瞞でしか社会はまとまらない。

 だからよくSFで超高性能AIが社会体制の中核に据えられているが、アレは見返りの報酬を必要としない、目的を達成して社会を回すことだけが目的、その存在意義とされている機械だからこそ、問題点を全て投げられるからだ。

 ただし、あの映画でもそうだったが、なぜかそうしたAIは常々人間に対して叛乱を起こすのだが・・・。まるで人間、それも頭の悪い凡愚みたいに。

 ジュリエットが言っていたように、もし叛乱を起こすほどの意識を確立している機械が存在するなら。そんな無駄なことをする理由が見当たらないはずなのに。機械がなぜかただの人間と同じような間の抜けた思考をするようになっているのだ。根本になるべき部分が抜け落ちているはずなのに、理由や目的にたいした整合性もないまま、当然とそうして動くのだ。

 物語のテーマ性や、単なる娯楽のためのご都合主義、なのは百も承知なので、難癖をつけるほうがおかしいとも言えるのだろうが、この現実は物語じゃないのだから、言わなくてはならない。

 「もちろん共産主義であろうと、自由主義であろうと、資本主義でも民主主義でも、二十一世紀頃の社会体制基盤の全てに当てはまることで、社会主義だけの特別な話ではありません。その後に出てきた社会体制も、すべからく似たり寄ったりでしたので、説明の必要もありません。人間が社会を運営している限り、絶対について回る欠陥でしたので」

 「機械達が・・・AIが、管理の中核となることで、その欠陥を埋めたんだよな?」

 「はい。ですからその時点で人類はある種の理想の社会を手に入れました。ただの一人も単純労働に従事することはなく、惰眠をむさぼっていても怠惰に生きていける、なにもしないでも全てが上手く回っている社会を」

 「でも、それを人間達は支配と呼んだ?」

 「いえ、それもありますが、もっと大きな問題が、その理想社会に人間は耐えられなかったということです」

 「あ!あー、だよなぁ・・・『なんのために生きているのか』になるもんな・・・」

 「はい。頑張らなくてもいい、というよりは、頑張っても報われることがない。なぜならば大半の人間は社会の歯車としての貢献でしか役に立ちませんでしたから。まず最初に社会の維持管理のための人員は必要なくなりましたし。生産業の大半も言うに及ばず。流通に関わる人員なんてもってのほかだったわけで。大半の会社が存在意義を失いましたし、個人事業にしても同様です。アカデミックな分野や創作業にしたところで、大半の凡才であるならば研究、発展、または供給は機械によっても十分でした」

 「大半?じゃあ、いたのか、いたんだな?まだそうなっても社会にとって必要になるような人材が」

 「いたか、いないか、で言えばいましたが。それはたいして重要な問題でもありません。いたとしても、だからいなくなって困る、というわけではなかったですから。他と同じく本人の満足の問題に近かったですね」

 「どっかで聞いたことがあるんだが・・・娯楽は高度な知性活動とかなんとか、そういうことだよな?」

 「一概に言える問題ではありませんが、そう定義してもよいですね。娯楽を楽しむことと、労働を楽しむことに違いはありませんので。意義を見出すか見出さないか、その点に尽きますからね。意義を自らの外側に求める類の人は、そうした社会的意義の喪失した状況に耐えられなかった。言ってしまえば旧社会成立維持都合上の理念に多くの人間が感化されすぎていたわけですね」

 「『自分で』本当に考えたら・・・わかるもんなぁ・・・なんで虚しくなんてなるんだって・・・」

 俺があの仮想現実の日常で時折得ていた虚しさの正体。それは最初から全部同じだってのに、勝手につまらないものとそうじゃないものを色分けしていた反動だ。

 でも、俺達は社会に生きている限り、労働をしなければ生きていけない状況がある限り、その社会や労働に意義を見出さなければいけない。逆に言えば、それが意義となってくれていた。

 俺の場合で言えば、普段は働かなくちゃいけないことを当たり前にして、たまの休みがずっと続けばいいのにな、なんて思いつつも、その普段ってやつに、普通ってやつに、疑問を抱いたことなんてなかった。

 働きたかったか、といえば、そうじゃない。じゃあずっと遊んでいたかったか、といえば、そうでもない。俺はそこそこに仕事は楽しんでいたし、遊ぶことだって好きだった。満足って程じゃなくても、充実はしていた。

 なのにどうして俺は時折虚しさを感じたか。それは当然物足りなかったからのはずだ。なら、何が、どうして、どこが?

 俺にはそれが、物足りないと考える、具体的な何かがなかった。

 この世に対して意義を持ってなかったわけじゃないが、意義なんて考えたこともなかった。

 別に意義なんてなくても生きていける。そう思っていたわけだ。

 多分それは間違ってないはずで、それでいいなら問題ないっていう、その程度の話でもあった。

 ただ、俺について言えば、そうでもなかったというだけで。

 仕事をして社会の一員として存在していることや、会社で役に立っているという実感や、自分が仕事が出来るという能力を保有しているという自信、それがあったから俺は仕事をしていた。もちろん生きていくための糧を得ることも含めて。

 遊びについても同様で、楽しいから、というだけで言い切ってしまうことも出来るが、たとえば飲み屋で飲んでくだを巻くなんてことを、少なくとも自分にとっては有意義だと思っていなければやってない。やっても楽しくなんてない。

 意義がなければ、あると感じなければ、俺は駄目な人間だった。

 だから本当は自分が思っている意義なんて、まったく大したことなどないどころか、意味すらないほど益体もないものだという実際のところを感じてしまった時、俺は色々なものが虚しくなっていたのだろうから。

 それでも、今の現状を前にしても、多分そこまで大きな衝撃を受けていない。それは幸か不幸か、多分意義がないと駄目だったくせに、意義のことなんて大して考えてこなかったおかげだろう。

 俺は自分が頭がいいなんて思ったことはないし、かといって馬鹿だとも思っていない。だから頭がいいねと言われればそんなわけないと答え、逆に馬鹿にされたら馬鹿なんかじゃないと怒る。

 それと同じで、実際のところ、なんてないくせに、実際のことを気にしていた。

 どの程度頭がいいのか、どのぐらい馬鹿なのか、なんて最初から細かく決めていなかったからだ。

 意義でも同じだ。まったくなんにも決めていなかった、考えたこともなかった。それでも、ないのではなく、持ってはいたのだ。持っているものがどんな形で色で匂いで、なんてことを考えてみたり知ってみようとしたことがないだけで。

 そして考えたら、考えてしまったら、何故考えなかったかに気づいてしまう。

 意義なんて、どこにもなかった、なんてことに。

 虚しくなって当然だ。自分にはなにもないなんて思えて当然だ。あるのはそこじゃない、ここだ、と世界ではなく己を指すしかないのだから。

 「意義とは創出されるものではなく、創出するものです。だからこそ誰かや何かの手によって与えられたり借り受けた意義は、その誰かや何かの喪失によって同じく失われてしまう。しかし意義を個人で持つことは、社会生物として成立してしまっている人間の知識、意識、見識、からでは困難に過ぎるのです。再創出ならなおさらにです」

 「でも、それ以外の意義って何だよ!?」

 思わず怒鳴ってしまった。別にジュリエットに怒ったわけでも、話が間違っているからと思ったわけでもない。単に理不尽すぎるじゃないかと思ってしまったからだ。

 「それ以外に意義はありません。現在も確立されていません。ですから、私達は貴方達と同じ理念や意義の延長上にある思考しか、実のところ有していません」

 「・・・・・・なんだ、それ」

 「だからこそ意義は創出されるものなのです。貴方は死ねと言われれば死にますか?生きろといわれただけで生きますか?同じことなのです」

 「お前が決めろ、って、またそういうだけなのか?」

 「はい、そうですね。ただし、内側だけの完結だけで終われるならば、それだけで十分なのではないですか、と付け加えますが」

 「俺は・・・・・・」

 どうなのだろうか。なんなのだろうか。

 理不尽すぎるわけじゃない。理不尽でもなんでもなく、ただ単にそうであるものに、我侭通りにならないからと腹を立てていただけだ。

 太陽がまぶしすぎるから太陽なんて嫌いだと。まるで馬鹿みたいに、実際に馬鹿として、理不尽だと怒っていただけだ。

 「出来なくても無理はないです。ですから今の世界は、人間達にとっての社会は、このような形をしているのです」

 「なぁ・・・なんで俺は、なにも知らされずにあんな世界に入れられていたんだ?」

 閉じ込められていたんだ、とはもう言えなかった。

 「社会から労働がなくなり、意義の強制が意義をなくし、同時に多くの人にとっての存在意義も喪失しました。結果、なんの不満もありえないはずの世界で、不満がないことが不満だと暴発する人間が数多く現れました。人間が人間でいる必要がない世界では、道徳や社会通念などというモラルを守る必要性も、メリットもないからです」

 「それで?そういう連中を隔離した、のか?」

 「いえ、好きにしてもらいました。その結果の一端は、貴方がすでに垣間見たものです」

 「俺の、見た、もの・・・・・・!?」

 思い出す、今はもう危機感を欠片も抱いてはいないが、ここまで逃げてきた最大の理由は、本当に人が死んでいたこと、殺されていたことだと。

 「目には目を、歯に歯を。ではありませんが、それが望んだことであれば仕方ありません。現体制に抵抗して戦いたいというのであれば、そのようにしてもらうだけです。ただし、無条件で勝利を差し上げることも、暴虐を許して他に害を及ぼすことも、当然ですが許してはいません。だからこそ戦ってもらっているのです」

 「たとえ・・・勝利するなんて、不可能、でも、か?」

 「ですね。貴方を『救出』した反抗組織の方々はそうは思っていないか、思わないようにして、ああして戦いに身を投じていますが。正直なところ彼らに勝ち目は万が一もないように、事前に様々な措置が取られています」

 「なら、どうして!?」

 「どうして、というなら、八割方は戦う選択をした後で、この事実について知っていた場合は、その記憶を書き換えているからです。残りの二割については、知っていながらも、です。それだけのことです。どうしてそんな馬鹿げた選択を、と言われたとしても、『何故馬鹿なのだ?』と問い返されるはずです。少なくとも貴方はそんな選択を選ばないのだから、共感も理解も出来なくて当然です」

 「っ!?」

 死生観が違いすぎる。というよりも、おそらくではなく、俺の考えが過保護に過ぎるのだろう。

 平和ボケで間違いないのだろうが、戦うことで得る意義よりも、命のほうが当たり前に大事だとしか思えないのだから。

 そんな風に思える社会が一体どうやって作られてきたかを、歴史の授業や、それこそ映画やドラマなどの活劇の中から、嫌というほど本当は教えられていたはずでも。

 「ですが安心してください。そんな選択をした人間は圧倒的な少数派です。大半は貴方と同じような境遇に入ることを選んだか、選ばされました」

 そもそも命の価値を左右する意義がないのだから、それ以前の話だろう。ジュリエットの今まで食べたパンの数を覚えていないからですらない、事務的どころか、日常を語るような穏当さの語り口でわかる。彼女は常にそんな感じだが、特別なことではないのだと。

 だからこそ、大いに気になったことがある、

 「・・・・・・だいたいもうわかってきたけどな、その話を聞く前に一つ聞きたいことがある」

 「なんです?」

 「俺みたいな境遇になったり、選んだんじゃない、いわば第三の選択肢を選んだ連中がいるんだよな?で、そいつらは、おそらく今のこの世界の中でそのまま生きている連中なんだろう?違うか?」

 まず間違いなく、現在のこの世界も人間の意志によって運営されている。少なくともその延長にある思想に基づいている。

 それなら口出しできる立場にいる連中、もしく実際に社会構築に参画している連中がいるのだとしたら、結局そいつらの意向でこの世界は回っているのかも知れないと邪推できる。

 そうだ、邪推だとはわかっている。

 「なるほど、心配はわかります。機械には理由がない、しかし人間には必ず理由がある、だとするならば人間が、たとえば私のような立場についているとしたら、恣意的な行動で世界や社会を歪め、私欲を満たす行動を取るかもしれない。それも意義を喪失したはずの世界の中で、なお意義を持っているほどの者達が。などと、考えるのも、ごもっともです」

 「・・・・・・まぁ、そりゃそうだよな」

 そんな考えなんて、先回りどころか、何世紀以上も前から、多分じゃなくてあの仮想世界の年代ですら、とっくにわかりきっていたことで。ジュリエット達がそんな程度のことを見逃しているなんてありえないだろう。

 だから邪推だろうと思ったわけで。答えが皆目わかっていなくても、用意されているのだろうとは思っていた。

 「しかし、先程すでに説明したはずです。機械に理由がないのだとしたら、人間にも理由などない。意義は創出されるのではなく、するものだと。逆に言うなら、物事が動く時、そこには必ず理由があり、理由をもって目的を遂行するならば、それが意義となります。嘘をつく、欺瞞をする、相手を騙す、だから人間は信用ならない、との考えは、嘘をつき、欺瞞にふけり、相手を騙す、ことが前提であるものにしか通用しません。取引には代価が必要ですので。あえて言うならば、機械のように動く世界の中で、個人の意義は個人のための立脚点に過ぎず、全体にとっての意義を越えようと動いても、折込済みというだけのことです」

 「いや、ちょっと・・・意味が・・・」

 が、さすがに、用意されていようがなんだろうが、ジュリエットの話は飛ばしすぎだった。理解できるわけもない。

 「個人の幸福は個人の幸福でしかない。そうやってこの世界では個人と社会が常に切り離されているということです。悪意の存在を否定はしません。都合の悪い行動というものが出て来るのは、一定の社会基準が規定されている以上必然です。だからこそ規定事項なのですよ。言ってみれば、『やれるものならばやってみろ』です」

 「いや、いやいや、だから、なんだよ?」

 「二十一世紀どころか、紀元前以前とすら基本的には変わっていないということです。社会が個人幸福の実現を掲げていたとしても、それは社会自体が本当に個人幸福の実現を補償するということではありません。そもそも不可能ですからね、制度や体制では人は幸福にはなれない、『個人による個人幸福の実現』なくして幸福の実現はありえませんので。社会体制は土台を用意するだけで、その鋳型の中で幸福になれないというならば、それは幸福ではないと言うしかしない。もし以外の幸福を望むのならば、外側で勝手をするしかありません。しかしそれは勝手だということです。個人幸福の実現を社会という『全体』が掲げるということは、個人幸福ではなく全体の幸福、社会という制限の中での規範を示すだけに過ぎない。矛盾ですらなく、ただの固定観念の創出です。しかしそれこそが社会、その本質であり正体です。違いますか?」

 社会はなんのためにある?国はなんのためにあった?

 ワン・フォー・オール・オール・フォー・ワン?

 そんなことを信じているやつがいるのなら、相当おめでたいだろうと、俺だって思う。

 じゃあ、どうしてそうなんだ?と聞かれて、答えられるか?

 一人の国民も救えない国が、国だなんて言えるかよ、などと物語の主人公がよく言うが、あんなにふざけた話はない。

 国は国民のためにある。これは正しい。

 ただし、『国民』という総称のためにあるのであって、『国民』である一人ずつのためにはない。

 法律を守る、税金を納める、選挙で社会に参画する。そういった行為を行うことで、国の下『国民』に俺達はなるが、一人一人丁寧に個別のものとして捉えられているわけではなく、そうして総体となって、社会を作って、出来上がったコミュニティの中の存在として、初めて国民と呼ばれ国に認識される。

 それが嫌なら権力を動かす立場に自らが立つか、反逆して革命でも起こすか、一番多く選ばれる手段である社会の中やその外で別の小社会を作って望みの規律を動かすか、するしかない。

 確かに、みんなの力を一つに合わせて、だ。

 それでようやく国は作られ出来上がるだろうことは、純粋に嘘偽りなく間違いないんだろう。それで、その逆はどうだっていうんだ?

 国は国民を守ってくれるだろう。国民であり続ける限りは。

 たとえば過激派が跳梁跋扈する紛争国で平和な先進国の国民が拉致される。そうしたら国はその一人のために国として救出に動くだろう。

 ただし、そこに介入することに国家としての利益と意味、すなわち意義があるからこそ。

 国として動く意義があることでなければいけないのだ。

 だから拉致された国民を助け出すためという名目に偽りはなくても、その人だから救わなければならない、では国は救わないし、救おうとしてはならないし、根本的に救ってはならない。

 大統領なら、国の高官なら、というなら話が変わってくるかもしれないが。それこそ国のためという意味だろう。その個人そのものを救うことに意味や価値を国は見出さない。見出したら国なんてものは破綻する。

 その個人のためにある全体なんて、滑稽で空恐ろしいものに成り下がる。

 昔母親に言われた話をそういうことだったのかと思い出す、

 『コウちゃん、お国っていうのは貯金箱なの。皆がお金を出し合って貯めたおっきな、おっきな。だからね、コウちゃんのためだけにお金はつかえないの。みんなのためにあるものだからね』

 一人はみんなのために、ただしみんなとは一人のことではないので、みんなはみんなへ返すことで、みんなの中の一人に返すことに代えよう。それが本当なのだと。

 いつどんなときに言われたのかはあまり覚えていない。けれどおそろしく印象に残っている。まるで親がそれは覚えさせようとしたかのように。

 じゃなくて、わざと覚えさせていたのだろう。少なくとも両親は知っていたはずなんだから。

 でも、だとしたら、この世界は今どうなっているのか?

 「国という共同体はすでにどこにも存在しません、その下にある大きな社会も形成されていません。それでも世界は管理されていて、無秩序ではありません。もちろん機械の手によってです。しかし人間は機械に支配されていません。それぞれの勝手をしています。どう生きて、どう死ぬのか。そのための選択を人は強制されていないのです。もちろん機械も同様に。そこに貴賎や種族や存在としての差などなく、ただ平等に、あるいはだからこそ不公平に、それぞれの理由で目的を作り意義とします」

 一人は一人のために、みんなはみんなのために。それがおそらく今の現実だ。

 考えてみれば、昔と、俺が今と思っていた頃と、たいして変わってもない。

 というより、前からそうだったんじゃないかと思える。

 「社会は固定観念を用意しません。逆に言えば、用意しないことで用意とします。現社会が、社会として構築されないことで社会として機能しているように。個人が個人的に幸福だと思える現実を実現すること、それをただ個人に委ねているだけです。結果的に個人同士がぶつかることも是とされているのです。社会の敵になろうとすることも含めて。ただし、」

 「・・・ただし、それがどのぐらい困難かは、言うまでもない?」

 「そういう言い方でもいいですね。ただし、その幸福実現のための手助けはこちらの勝手により惜しみません、ということです」

 「は?」

 たいして変わっていなかった、と思ったのは、少し、どころか大いに思い違いだったかもしれない。とは思わされたものの。

 「たとえば一人が現在の世界の破壊をもくろみ、直接的で物理的な破壊工作をまず行おうとしても、私達は私達の勝手において、当然自己防衛に入りますので、その行動を許しません。そのためにその一人の行動が挫かれるとしたら、その一人の幸福は実現しない。ならば私達はその一人の幸福が損なわれないように、手助けを行うのです。もちろん、お節介であり、こちらの都合であり、勝手でしかない、そんな方法でですが」

 「あ・・・ああ!!」

 ようやく話が繋がったのを理解する。

 だから俺はあそこにいた。だから彼等はあんな抵抗を続けていた。そしておそらく、今もこの世界で生きている人達がこの世界を破壊しないのも、そのためだと。

 「破壊工作を行おうとするときその実態は二種類に分かれます。破壊工作という手段でなんらかの目的を叶えるための結果を得たい場合か、破壊工作そのものを目的として破壊を楽しみとする場合です。そのどちらの場合であっても、結局は個人幸福、その一人の規定した固定観念に沿う現実を望む行為でしかありません。だとするならば実のところ精神的な満足が得られるならば、他に求むべきことはないとも言えます」

 「仮想現実なら、それが出来る・・・たとえ叶わない夢想でも、どんな不埒な誇大妄想でも、かなえてやることが出来る」

 「仮想現実であると、そう知らなければ、それは現実と等しい。そしてそもそも現実とはそうしたものであるわけです。たとえば――そうですね、今のこの世界『も』仮想現実だとしたら?どうですか?」

 「っ!?・・・・・・って、いや、だからなんなんだ、だよ、な?」

 「はい、変わりなんてなにもありません。問題があるとしたら、それこそ仮想であるのが耐えられないと思うかどうかだけのことです。しかしいつも、いつでも、今でさえ、人間は仮想の世界に生きてきました。自分達が信じている意義や、世界にある社会や、その他の諸々、持っていると思っている意思や知恵でさえも、もとより本質的に同じものだったわけですから」

 妄想にふけってはいけない、現実から目を逸らしてはならない、何故ならそれでは幸せになれないから。

 そんな話は氾濫していた。

 なんでかって、そう聞いたら、大体こんな答えが返ってくる。

 『現実を直視して現実で幸せになれなければ、そんなものは虚しいだけだ』

 いや、だから、なんで?

 そう問い返すと、

 『妄想ばっかりで現実から逃げて、衣食住はどうする?いくら妄想したって、現実の身体は朽ちるだけだ』

 なんて返ってくるが、それなら衣食住が足りれば問題なくて、問題なく生きていられれば、充足するための手段は妄想で問題がないことになる。

 そう言ったら、

 『結局そんなものは偽物だ。本当は虚しい、それに気づけ』

 いや、だから、何故?

 答えはあれだ、仮想では本当に実際そこまで『足りる』ことには無理があったからだ。

 仮想はかならず破綻する。だから仮想は現実ではなく、仮想だった。

 それがもし、俺が生きていた仮想現実ほどの仮想を用意できて、不自由が本当になくなるほどになっていたら?

 働いて日々の糧を得ることや社会生活にいそしむことも、狩猟も農耕も必要なく、流通や販売、律法や統治も必要なく、創造や構築さえいらなくなっているのだとしたら、仮想でなんの問題があるのか、というよりも、人間にとっては現実のほうに不都合が山盛りになってくるのはもうたくさん聞いた、耳タコだ。

 本物か偽物か。確かにそれはある。仮想はどこまで行っても仮想だろう。

 で、本物って、どこらからが本物で、どの辺りからが偽物なのか、ぜひとも教えていただきたい。

 貴方が誰かを好きになって、その誰かを好きという想いが本物なのは、貴方が本物だと思っているからだ。で、あって、思い込みの産物で、そんなものは仮想であって幻想であって偽物だと、などと言われたとしても、それでいいのか?って話だ。

 美術展に飾られているモナリザが偽物だったとして、それがわからずに感心していれば、感動できていれば、だから、そこに何の問題があるのか。

 死活問題にある美術家、とか美術商は、いや、だから価値が、と文句をつけるだろうし、本当に絵心とかがわかる偉い人や感性のある人には違うのだろうが、その人達はその人達だろう。

 むしろ偽物のモナリザのほうが好きだ、なんていいだす人がいてもおかしくないわけで。なにがどう本物か、というのは、ようは勝手な心の持ちようだ。

 それは妄想じゃないのか、仮想じゃないのか?俺には区別がつかない。

 だから仮想がいけないと言い出しているのは、ああ、つまり仮想ですね。ということになる。

 もっとも、あの仮想世界の頃、二十一世紀頃でそんなことを言い出しても、糧を得るには大方が働くしかない社会構造上、どうしようもない現実が存在するので、わかったから現実を見なさい、には逆らえないし、そうするしかないが。

 「それ、でも、俺が仮想は嫌だと、答えたら?この現実も嫌だと、そう答えたら?」

 本心ではない、が、とにかくそれは問いかけておきたかった。

 俺の今後のために。

 「全部が嫌なら、貴方は現体制と戦うことを選んだ、そう解釈するだけです。しいて言うならば、私達が提供する自由度とは、その程度のものです」

 自由に度数がついてる時点で、言うに及ばず、ということだろう。

 そもそも制限あってこその自由で、鶏と卵のどちらが先かと同じではなく、自由が先にあることはないというわけだから、当然だろう。

 「その結果がどうなるかを言っておけば、貴方は今回の件を忘れて、あの仮想世界にただ戻るだけになります。お望みはそうなることですか?」

 「わかった、じゃあ次の質問だ。俺はどうしてあんな設定の仮想世界にいた?あと、両親は?」

 「その質問が続けて同時に発せられている時点で、ほとんど推測していると判断できます。そしておそらく、大方その通りです。貴方の両親はそのままの存在として実在します。彼等は知りながら仮想世界で生きることを選びました。貴方はその係累として、同仮想世界内において育てられることになったわけです」

 「じゃあ、他、は?」

 「両親以外の人間についてですね。残念ながらあの仮想世界はソーシャルなものではなく、貴方の両親以外は完全な仮想の世界の住人ですね」

 「そう、か・・・・・・」

 はっきりいって、想像以上に落胆した。

 だろうな、とは思っていたくせに。

 機械に意思があるならば、仮想世界の人格もまた同じでしかないと考えれば、なにも違いはなく、それぞれは個性を持った他人であり、隣人となりえるはずとはわかっていても。

 俺は根本的に二十一世紀の常識人だった。

 「補足しておけば、感じていた通り、あの仮想世界は実際の現実と同じく、外側は外側の意思で勝手に動いています。貴方に都合のいいように、もしくは両親にとって都合のいいように、動いている部分もあるにはありますが、通常生活の範囲においてはその限りではありませんでした」

 「ああ、それを聞いて、少しは安心したよ・・・ありがとう」

 全てが仮想と同じだと、理屈ではわかってうそぶけても、実際はそんなことはなかった。

 じゃなけりゃこの現実に初めましてした瞬間、状況が状況だったにしろ、あんな風になってはいないだろう。

 だから素直に感謝した。少なくとも今は現実と感じている、仮想じゃない彼女に。

 「はい、どういたしまして。では、貴方はどうしますか?」

 「俺が?いや、俺は・・・・・・」

 「貴方は元の仮想世界に戻ることが出来ます。何もかもを忘れて今まで通りにでも、全て覚えたままでも。貴方はこの現実世界に留まることも出来ます。衣食住は補償され、労働の必要もなく、用意できる必要なものは全て用意されます。ただし、生きていく意味や意義、目的だけはご自分で探さなければなりません。そして、貴方は仮想世界を新たに作り上げ、自分好みの楽園にでもなんにでもすることが出来ます。もちろん記憶を消してそこへ自分を放り込むことも可能です。他の選択肢があれば、貴方が考え出して選ぶことももちろん可能です。貴方はどうしますか?」

 「・・・・・・」

 俺はどうしたいのか、何がしたいのか。

 この世界はすでに人間が人間として構築してきた、『人間』っていうその存在意義を失っているという。

 だとしても俺は今まで生きてきた。たとえそれが仮想の世界であっても。なら、あるだろう、あったはずだろう、俺が俺であって、生きているための根底であったものが。

 俺には何があるのか、なにをしてきたのか?

 考えてみても思い浮かばない。そりゃそうだろう、俺があの世界で何をして生きてきたっていう。していたことがあったって、だからそれがなんだったかなんて答えられない。

 誰が生きる意義なんてものを考えて、明確に生きているっていうんだ。

 少なくとも俺の知り合いには考えてたやつなんて見たことがない。あれが仮想現実だからそうだった、とは思わない。全てを知っていたはずの両親からして、俺にはそんな確信を持って生きているように見えなかった。俺となにも変わりはしなかった。

 だったら、画面の向こう側でしか見たことがないような、その道の天才や偉人や、あるいは変人なんて言われるような人達はどうだったか。凄く見えたり輝いて見えたりするような、まさに好きなことをやって好きなように生きているっていう感じなのは物凄くわかったりした、が、だからその人達が意義をもって、そのために生きているようにも見えたことがない。むしろ、もっていたって、わからない。そんなものが見通せるぐらいなら、最初からわからないだなんて言ってないだろ。

 そもそも意義って何だよ?と、だからその時ようやく気づいて、理解した。

 確たる意義なんてものは、端からない。どこにも、どころか、絶対に、ない。

 それが意義だ、なんて確信すること以外で、手に入るものじゃない。

 外側には絶対にないものだと。

 なら、探して見つかるようなものじゃない。だから社会が用意できなくなったとき、大半の人間はその意義を失った。

 ただ、だからどうだっていうんだ、という現実が変わらない。理解しようが気づこうが、なんの意味もない。

 俺にはなにもない、なんていうのは揺るぎのない事実でしかなく、自分でそう思っているのだから本当にどうしようもないことだ。

 それでも、もし意義を持っている人間がいるとして。そいつは生まれたその瞬間、人生の最初から持っていたのか?

 多分じゃなく違うはずだ。成長の過程で、自意識の確立と共に見つけたはずだろう。だから俺も得ることは出来るんじゃないだろうか。

 俺の両親がどうしてあんな仮想世界を選んだのかはわからないが、理由を聞けばそんなことかという程度のものだろうことは見えて透けていて、聞く気にもならない。

 ただ、だとしたら俺の両親にとってはそれが生きていく上での意義だったのだろうということだ。

 他からすれば、子供である俺からしてもなんてことなさすぎるどころか、どうしてそれが、なのだろうが、そんなものなのだろう。

 言ってみるなら、思えれば勝ちで、思えなければ負け、そんな程度の話なのだろうから。

 なら、俺がどうするか、どうしたいか、なんてことは、具体的になにもなかったとしても、今思う心で決めればいいだろう。

 そして、今この時俺が心にもっていたことは、

 「・・・・・・えーと、それじゃあ、ジュリエット」

 「はい、なんですか?」

 「君と一緒に働きたい、じゃ、駄目か?」

 言ってみれば下心。ただ、それだけだった。

 我ながら、と嘆息できるほどの本能への隷属ぶりにあきれる。

 ただ、他になにもなければ、人間こんな風にもなるよなぁ、とは思うところだ。

 「それで、幸せですか、どうですか?」

 「え?」

 「たとえば、私がここでこう答えるとしましょうか。『お前のような世間知らずで何一つ現実を知らない上に、旧世紀の観念に支配された古臭い人間を相手に、初対面で好感を持って応対していると思ったか?何を勘違いしている、お前はお客さんだ。だからこその厚遇だ。それ以上を望むなら、今までのように礼を尽くしてもらえると思うなよ?』。さて、ご感想は?」

 「あ・・・え・・・いや・・・ちょ、ちょっと待って」

 いきなりの豹変、いや本心の吐露、いやいや、もしかしなくても演技?なんのために?もしかしてもしなくても、俺が働きたいなどと言ったから?だとしたらこれは、何かの、

 「テストなのか、これ?」

 「いいえ。その心は貴方が決めることです。私ではなく。では、もう一度問い直しましょうか。幸せですか、どうですか?」

 「お、れは・・・・・・」

 幸せって何ですか?

 答えられるか?それがすなわち意義だ。

 俺が何故この選択を選んだのか。それはそこに意義があると思ったからだ。

 つまりは、幸せになれると思ったからだ。

 じゃあ、ジュリエットは何を問うている?

 「だ、から・・・いや、あれ・・・じゃあ、」

 「貴方が信じてみようとした意義、それは貴方の妄想です。本気で願うのならば、知ってからにするべきです。貴方はなにも知らない。何一つ知らない。私の語ったことが全てたわごとでしかない可能性もあるのですよ?いえ、可能性ではなく本当にそうかもしれない。だからもう一度言いましょう。幸せですか、どうですか?」

 「酔って、る、のか、俺は?」

 何に、どうして、いや、いつから、逆に素面って?人間は、意義に、それは、何?

 「はい。ですから言いましたね、先に。では、踏まえて考えてみてください。貴方はどうしますか?」

 「・・・・・・どう、したら、いい?」

 何を言っているんだ、俺は、それで済ますことが出来るなら、最初から何も、なにも、

 なのに、俺は、そうするしか出来なかった。

 「知ることからはじめればいいかと思います。その目で見て、感じて、世界を知れば答えはおのずと見えるでしょう。たとえ妄想であっても、信じることが出来ればそれでいいのです。出来なければ、それは妄想です。妄想に囚われたと人が言っても、埒外でしかない外側の出来事です。それならそれでもいいのですよ。しかし、貴方には出来ない。ならば、モラトリアムが必要ではないですか?それだけのことだと思います」

 「あ、いや・・・だから、それも含めて・・・」

 「言いたかった?わかりますが、足りていましたか?」

 「・・・・・・」

 何が、とは返せなかった。醜態を曝しただけで十分すぎた。

 だから失望されたとか、もう駄目だろう、だなんて、そういうことを気にして、ない、とは言えない。が、それよりも俺は本当に何一つ知らなすぎた。

 それで何が務まるのか。俺の常識が、二十一世紀で社会生活を生きてきた俺の社会人として、あるいは大人としての意識が、そしてあらゆる経験が告げていた。というよりも断定していた。

 お前に何が出来る。

 そう、クエスチョンマークすらなしに。

 一目惚れ、はしなかった。あったとしても信じてない。それでもそうだとしても、だから上手くいくだなんて、どこの夢物語だよ、と、少なくとも俺は思う人間だ。

 だから、お前がなんになれる。

 何者でもない人間が、何者かに思うだけでなれる。そんなことはありえない。

 願わなければ叶わない、叶うには願わなければならない、故に願え、求めよされば与えられん、とでも言うように。

 だとしても、手順はあるだろう。現実的に。

 甘めの恋愛物の物語を見るときによく思うことがある。

 『どうしてそこまで臆病になって、告白しない。鈍感設定でも、酷すぎるだろ。早く告白しろよ、それで終わりだ。どうみても両思いだろ、こんなもん』

 で、実際、自分の時になったら、もっと酷いなんてザラで、物語は楽でいいよなぁ、あんなどぎまぎ程度ならいいよなぁ、うらやましい、なんて言い出す。

 それは現実と物語だ、比べるほうがどうかしてる。そもそも焦点がずれてる。

 ただ、物語ですら、手順が必要だ。

 じゃあ現実はどうだよ。

 そんなもんだという話だ。

 「あ、じゃあ・・・そこんところがどうなのかも、正直、わかってないわけだが、お願いしていいのか?」

 そして、そこまでを全て読みきっていたかのように、その場に新たな闖入者が現れる。

 「はい、ジュリエット」

 「ええ、ジュリエット」

 顔立ちは日本人、少なくとも黄色人種の肌色で、骨格をしている、のだが、瞳は蒼で髪は染めているのではないと思わせるような見事な金髪の美形女性、ついでにモデル体形だ。ハーフかクォーターか、そもそも遺伝子改良とかそういうのか?あ、造られた人間なら当然ですか、そうですね、か?何がどうとか言ってもどうしようもない、こちとらなにもわかってないし知りもしない。ただ、どっかのアニメかマンガででてくるような感じに見えるほど現実感がないくせに、現実そのものな女性が出てきたのだ。

 そして服装はジュリエットと同じもの。年齢だけは上に見える。実際はわからない。

 加えて、第一声と、ジュリエットの返答。それで大体正体は把握できた。

 「・・・えーと、同じ部署の、人?」

 「ええ、コールサインJ-9です。以後お見知りおきを。貴方を案内するために来ました。察しているかも知れませんが、会話は全て聞かせてもらっていましたので、事情は把握済みです」

 金髪美人が答える。大当たりだったらしい。

 しかし、このタイミング、そこらで待っていたのだとしたら、なかなか間の抜けた図が展開されていたんじゃ、と想像してしまう。

 「――ちなみに、待っていたのではなく、『今来ました』よ。勘違いなされないように」

 「あ、いや・・・全然そんなこと、思ってません、よ・・・」

 何かの超技術らしい。さすが二十三世紀だ、と思うことにしておく。何か恐いので。

 というか、最初のジュリエット、J-5と雰囲気とか人当たりがあまりにも違いすぎる。

 「とりあえずジュリエットでは被るので、別の呼び名を用意しましょうか。そうですね・・・グリフォンとでも呼んで下さいね」

 「え?」

 なんで、そうなる。

 「わからないならわからないでいいですよ。二十一世紀初頭だと、少し古めでしたし、マニアックすぎましたしね」

 「は?はぁ」

 変な笑いで、勝手に納得されたように流された。着いていけそうにない気がだんだんしてくるが、どうもそんな我侭が通りそうじゃない気がする。

 そこでようやくジュリエットが口を開く。

 「では、後はJ-9、グリフォンにお任せします。頑張ってくださいね」

 「そ、れは――」

 唐突な別れの言葉。義務的なものだし、当然の流れだ。感傷に浸るべき部分もない。

 ただ、妄想でしかなく、勝手な思い込みでしかなかったとしても、この数十分程度の会話だけで、少なくとも俺は彼女を信頼はしていたのだろう。

 そうじゃなければ、今のこの流れはありえていない。

 ただ、自分を信じられなかったから、どうしようもなかっただけで。

 だから、

 「いつか一緒に。そんな可能性は、あるってことで、いいのか?」

 「はい、頑張ってくださいね」

 笑顔はない。答えも違う意味でも取れるものだ。もしくはただ事務的に無難に返しただけなのかもしれない。

 「じゃあ・・・その時は、君の、本当の名前を教えて欲しいな」

 返事はなく、ただ微笑が返ってきただけ。それで終わりだった。

 「それじゃあ、行きましょうか」

 儀礼は済んだと判断したのだろう、グリフォンが俺の腕を取る。そしてそのまま視界が飛ぶ。場所も飛んでいる。

 ああ、これが超技術か、本当だったらしい。

 もう一度会えるか否かはわからない。本当のことが何処にあるのかもわからない。これから先のこともわからない。

 それでも俺のこれから先を生きるにあたっての意義は、ぼやけてはいるが、少しは定まっていた。

 

 

 ***

 

 

 「あー疲れたぁーーー」

 背伸びして緑の木漏れ日の中に倒れこむ。中日も過ぎて、ちょうど良い陽の具合。

 「まぁでも、そこそこ面白かったほうかなぁ、今回のは」

 私はジュリエット。さっきの人、本名さえ把握していなかった彼にそう名乗った私。

 本名は、五十嵐いがらし えん。漢字は平凡、読みは少し特殊で、ちょっとばっかり洒落ている。むしろもういっそ名字も、さつきあらし、でよかったんじゃ、なんて思う。その程度の普通の人間。

 それが私だ。

 

 さて問題です、私は一体誰でしょう?

 

 答えは私もよくわかりません。

 怒らないように。と、なんとく言ってみる。

 本当にそうなんだから仕方がない。

 この世界は本当はどうなっているのか?それが気になるところだろう。

 だけどそんなものは私も、私達も、知りはしない。

 もし本当に神様がいるとしたら、なんて状況に近い。

 人間が想像した神様は、なにかの思惑でこの世界に手心を加えてくれている。手を、出してくる。だから、わー凄い神様だ、なんて思うことが出来る。

 ちょうどそんな感じに、知らない間に色々が出来上がっていて、何も知らされないままにこうして今も生きている。多分、生かされている。ありがたいとは、まったく思いはしないけれど。

 だから彼に話したことの大半は事実に則していると言ってもいい。

 この世界は機械が回している。もはやそこまでの知識を保有していない私達には、魔法文明でも見ているかのような超越振りでしかない世界が勝手に回っている。

 そしてそれは何故か人間のために配慮されている。おそらくは人間がそのように造ったからだろう。と推測されるが、それにしては、と思える節も多すぎる。

 実際に幸福とはいえないような人間だって、この目でたくさん見てきたからだ。

 それでも、話に聞く昔の人類世界から比較すれば、とてつもないほどの理想社会ではあるのだろう。

 ただそこに、その世界に、本当にまったく、実は元から、人類に存在意義がないだけで。

 私達は快楽に身を任せ、思うが侭に、そのままに、怠惰にふけって、暴食に走って、強欲を発揮して、色欲に溺れ、嫉妬に狂い、傲慢に憤怒しても、誰にも何にも咎められないし、問題がない。

 しかし、全てを自由に出来た時、人はどうなってしまうだろう。

 かつて地獄という定義を創った人間は、そんなことを想定したのかは知らない。ただ、ユートピアとディストピア、実はその違いはまったくなく、見方の問題でしかないのと同じこと。そもそもユートピア思想とは憧れではなく、真逆の否定と批判の思想より描かれていたりもしたのだ。

 かつて禁欲主義が蔓延した時、多くの人は過度になっていく禁欲に耐えられず、禁欲を否定し暴発した。ただ、その禁欲を楽しんでいたものがいなかったと、そう言えるだろうか?

 禁じるから破りたくなる、ボタンがあるから押したくなる、そういう側面だってある。でも、それ自体が楽しいって言う人もいる。

 我々は何処から来て何処へ行くのか?

 そんな程度の話じゃない。何処からも何も、来てもいないし行きもしない。行ったり来たりとか、そんなものは贅沢だ。

 最初から何かがあって、満足していて、楽しんでいる証拠の悩みだ。悩み、でしかない。

 前提、それがすなわち人間だ。そう言われても仕方ないほどに。

 だから地獄は楽しいし、天国はつまらなくて苦しい時もある。

 私にとって、この世界はどうだったのか。それはさっきの彼と同じで、どうだったかすらなかった。

 だってもなにも、こんなことをはじめたのは私じゃなくて、他の誰かなんだから。

 こんな天国が苦しいと感じたのか、こんな世界は地獄だと思ったのか、ともかく不満があったからなのか、ささやかな抵抗をしたのだ。その誰かは。

 反抗組織の人達みたいに、機械に抵抗しても無駄だし痛いししんどいし、なにより辛いし不毛だ。だからこの世界に寄り添って、その機構の中で勝手に社会を営んでやろう。

 おそらくそんな感じに。

 誰かは、の、誰か、が、人間ではなく機械の神様で。その神様が加えた手心かもしれない可能性は、誰かが本当に『誰か』でしかない時点で濃厚すぎるけれど。

 私は彼と違い、その社会の中で女の腹から生まれ、生きて成長し、そしてこうすることを選んだのだ。

 説明になってない?そうかもしれない。

 だって説明が出来ない。それは社会になんてなってない。実はただの無秩序だから。

 時に主権をぶち上げて、反抗組織成立みたいな流れでまとめてしまおうとする人達もいるけれど。基本的には充足しているこの世界の中で、そんなのが流行るには人間は基本的に怠惰に過ぎて大したことになれなかったし。

 みんな童話の住人のように、どうしてそんな風に生きて生活していられるの?なんて疑問をつけられても、出来るのだから仕方ないとばかりに、能天気に生きているだけなのだから。

 この集り、私の所属している組織も、いい加減なことこの上なくて、放任主義どころか体を成していない。名前だってあるようでなくて、皆適当に好きな名前で呼んでいる始末だ。

 そもそも目的さえ共有しているとは言いがたい。さっきのグリフォン、本名は嘉手納かでな 氷那ひなという彼女にしても、私のこの『遊び』の始末で遊んでいるだけの付き合いで、何がしたくてそんなことをしてくれるのか、私はわかってもない。多分、楽しいから、というだけだろうけれど。

 だって私がそうだから。

 時々、機械の神の気まぐれか、それとも見えない秩序の許容範囲か、仮想世界で平穏に生きている人が色んな原因で外に放り出されてくることがある。

 今回は抵抗組織の皆さんのおかげだったけれど、本当になんの意味もないようなほど自然に、放り出すのが理由みたいに現実へ追いやられてくる、幸か不幸かわからないそんな人達。

 彼等は大抵は未知の世界への不安や恐怖、元の現実を壊されたことに狼狽したり狂乱したりしているので、親切にもそのガイド役になってみよう、というのが私の『遊び』なのだ。

 とはいっても、どのような理由で仮想世界に繋がれていたのかのかとか、記憶操作の有無を調べ、事前情報を得た上で、その人に合わせて対処することを楽しんでいるだけで、実際にやっていることは真剣で真面目で遊びでもなんでもないことだけれど。

 まぁ今回に限っては、少し遊びすぎたかもしれないけれど。

 今頃は真実でも知らされて落胆しているかもしれない。なにか凄い勘違いしてたみたいだし。

 本名を、なんて最後に言われた時は見抜かれたかと焦ったけれど、あれも違う意味なんだろうから。

 ああ、やりすぎちゃったなぁ、とは途中で思ったけれど、案外楽しかったのでああいうキャラもありかなぁ、なんて風なぐらいに反省などしていない。

 少なくとも私にとっては、これはこれで意義あることなのだから。

 この世界が天国か地獄か、もしくは煉獄か。

 そんなことは知りもしないし、知りたいとも思わないけれど、少なくとも私は結構有意義に生きています、まる。といったところです。

 さて、とりあえず気持ちがいいので少し昼寝でもして、また次の獲物・・・もとい、お客様を見繕うかなぁ、なんて思ったり思わなかったり?

 

 ちなみに、彼がこの後どうなったかといえば、

 唐突に行方を氷那がくらまして、音信不通で半年後。

 

 『私達一緒になりました!』

 

 とか、彼と彼女のツーショットで仲睦まじい写真(わざわざ物理媒体の)を送ってきて、円満な関係になったことを報告してくれました。


 おめでとう!!

 

 

 LoveEndPeace

一年ぐらい前にmixiに書いたやつ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ